きりんの脱臼
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2003年02月05日(水) なかはられいこ

わかものの瞳の夜に太陽は昇りつめをりつかみがたしも   黒瀬珂瀾

逢うのはいつも夜だった。
あの頃は昼夜逆転したような生活をおくっていたから。
「吸血鬼みたいだね」と笑い合ったりしたよね。
親を亡くした二匹の獣の仔のように抱き合ってた。
お互いの体温だけが頼りだった。

ここではないどこか。
エルドラド、ニライカナイ、桃源郷。
言い方はごまんとあるけれど、
そういうもの。
わたしたちは遠い遠いところしか見ていなかった。
ここじゃない、ここじゃない。
どこかにあるはずだ、もっと楽に息ができる場所が。

夜はやさしかった。
闇は親しかった。
げんじつを見なくてすむ。

いまなら。
いまなら、「ここしかない」って言えるような気がする。
何かを庇うようにまるまってカチンカチンにこわばっていた身体を、
ほんのすこし伸ばしてみる。
さいしょは怖くて不安でしかたなかったけど、
冷たいプールの水に身体がだんだん慣れていくように、
こころもだんだん慣れてゆく。

いつかの夜、エレベーターに「寒っー!」って言いながら女の人が飛び込んできたの。
あんまり大きな声だったからちょっと笑ったら、
降りるとき「風邪ひかないようにね」って言われた。

あなたが言ってたように世界は暴力に満ちている。
いまでも。
だけど、こうして冬の午後の日溜りの中にいると、
こころがゆっくりほどけてゆくのがわかる。

わたしはここにいる、よ。


ようこそ僕の瞳の奥へ サバンナへ  なかはられいこ


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