Spilt Pieces
2004年02月13日(金)  夜景
『曖昧』という理由で、夜景が好きだ。
ぽつりと灯った明かりが空に響き、けれどその他の範囲は覆い隠したまま。
そこにある、ということは分かっても、確信はない。
滲んで見えるときなど、空気のせいだか自分の目のせいだかさえ分からなくなる。
ほんの少し、悲しくなる。
そんな風景に、惹かれてしまう。


高速道路を過ぎるとき。
中央分離帯の向こう側で白色の光が前方へと進み続ける。
同じ側では、ハザードランプの橙色や、テールランプの赤い色。
正面にあったはずの街が、眼の端を流れるガラクタの一部へと移ろっていく。
ラブホテルの明るいネオンは、眩しすぎる分だけ哀愁が漂っている。
図らずも、人と人が交わり消えていく世の中のようで。
まるで、一枚の絵。
いやらしさの欠片も見つけられずに、瞬いては過ぎ去っていくのだ。


太陽が照っている時間帯、街角にある小さな影は異物になる。
月がゆらゆらと散歩をしている時間帯、逆に光は異物になる。
吸い込まれても消えることのない身体を闇の中に投げ出すと、夜景と相容れない自分がいることに気がつく。
不自然なはずの、夜の光。
自然なはずの、有機体。
立場が逆転する。
ふいに足元をすくわれたような錯覚。
やっぱり、曖昧だ。
意味も、存在も、何もかも。


流れていく風景。
街が目覚め始めると、反比例のグラフを描きながら夜はひそやかに灯りを消していく。
光に飲み込まれていくのを、自ら望んでいるかのよう。


月明かりとこの腕が同化していくように見えたのは、きっと、全ては夜の風景の曖昧さが原因で。
ぽつり、ぽつりと、まるでため息の欠片。
空が暗いから、分かること。
夜が、夜だから。
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