2010年03月18日(木)  これでいい。これがいい。
 
彼女は入社して3年目。僕と同期である。決して自己を主張せず、いつも周囲の話を聞いて静かに笑っている。カラオケに誘うと「人前で歌うくらいなら死んだほうがましです」と言い頬を染める。
 
彼女は入社して3年目。僕の同期であり部下である。僕が忘れた仕事を何も言わずにフォローし、散乱したデスクの上を綺麗にしてくれる。圧倒的に僕より仕事ができる。僕は圧倒的に口が達者なので、いかようにも仕事ができる振りができるが、彼女は何も言わずに淡々と確実に業務をこなしていく。
 
彼女は入社して3年目。綺麗な人である。自らの容色に鈍感なのかそれとも仕事上での必要性を感じていないのか、それを決して武器にせず、自らの力だけで仕事をこなす。
 
怒ることなく、落ち込むことなく、いつも静かに笑っている。
 
この決して容易ではないペースをいつも維持している。本気で怒ることも、落ち込むこともあると思う。しかし彼女は今いったい、どのような精神状態なのか。その判断は、人の心を読み取り続けることを生業にしている私でも極めて困難である。
 
この3年間、上司として何もしてやれなかったことを、僕にしては素直な気持ちで謝罪した。これまでの人生で一番忙しかったであろう時期を、忙しいままにさせてしまった。僕は、とんでもないことをしてしまったのではないだろうか。しかし、この狂奔の時期は、もうすぐで山場を過ぎようとしている。これからは少しずつ楽になる。ゆっくりと、ゆったりと、これからもずっと、皆で仕事をしていこう。
 
彼女は、いつもの静かな優しい笑みで首を振った。自らに掲げた目的の達成の為に彼女は再び棘の道を歩き出す。
 
今日は彼女の送別会。いつもの飲み会のように、彼女は僕たちの話を静かに笑って聞いていた。「最後なんだからもうちょっと話しなよ!」酔ったスタッフが彼女の背中を押す。
 
「私は、これでいいんです。これがいいんです」
 
その言葉が彼女の全てである。
 
今まで本当にありがとう。本当にありがとう。
 

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