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| 2006年06月29日(木) 声が遅れて。 |
| リビングで食事中に突然妻が「あー!」と叫んだので、ビックリした僕は箸を落とし、椅子に座ったままテーブルの下に体を入れて、窮屈な姿勢のままコロコロ転がる箸を取ろうとするものだからいつまで経っても箸が取れないということを書きたいのではなく、なぜ夫婦揃って楽しい食事の時間に妙な奇声を発するのだと妻に問うたところ、「私声が遅れて聞こえるんだった!」と、自分に眠っていた能力を久々に思い出した感いっぱいの顔で言った。 声が遅れて聞こえるとは一体何ぞやと、落ちた箸をシンクで洗いながら訊ねると、どうやらそれは腹話術師いっこく堂のネタらしく、声が遅れて聞こえる衛星放送ネタを若い頃の鍛練のお陰で遂に習得したということを忘れていて今思い出して私はすごく感動している。披露していいかということを妻が言った。 じゃあ言ってみてと妻に言うと、ちょっと待ってねと顔を隠して何か準備らしきものを始め、道具を使うわけでもないのにその口を大きく動かす準備がやたら長いので、僕は食事を再開してテレビを見ていると、「いーい?」と、もうこれ以上ないくらいの笑顔で振り返った妻。早く食事を進めて欲しい。食器洗うの僕なんだから。 じゃあ言ってみて「言うよ」うん言ってみて「いくよ」ほんとにできるのかな「できるよ」……「言うよ」うん早く言いなよ「いくよ」 と、いつまで経ってもニヤニヤ笑って一向にネタを披露しないのは、冗談をしようとしているのに僕があまりにも真剣に見つめているので恥ずかしくてネタが披露できないと言う。モジモジしている妻に、じゃあどうすればできるのかと言うと、妻は恥ずかしそうに「目を閉じてて」と言った。 「……声が……遅れて……聞こえるよ」 暗闇の中で、妻の声が遅れて聞こえた。 |
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