2002年12月30日(月)  純潔。幻想。絶望。腋毛。
若かりし頃は、女性に対し、ある程度の、いや、度が過ぎた幻想を抱く。
 
目を細めてモザイクの奥を凝視し、おっぱいやらアワビやらの感触を想像し、
しずかちゃんの入浴シーンに悶絶し、のび太に嫉妬し、どこでもドアを心から欲していたあの頃、
僕には決定的ともいえる幻想があった。その幻想は僕自身にとっては真実以外の何物でもなかった。
 
女の子にはワキ毛が生えない。
 
どこを探しても何を考えても女性のワキに毛が生える必然性なんて見つからなかった。
少なくとも16歳の秋までは、僕は僕なりの世界の中で生きていた。
幻想が作り上げた女性が心の中に住んでいてツルツルなワキの下を見せていつもニコニコ笑っていた。
 
あいつらが、良い表現で言うならば、大人の階段を1つ昇らせてくれて、
悪く言うならば、僕のささやかな幻想をぶち壊した。
 
あいつらと言うのは、先々日の日記に登場したコンビニの店長と消防士。
僕らはまだ高校1年生で童貞という純潔を守りたくもないのに結果的に守っていた。
 
僕には好きなコがいた。今でも名前を憶えている。
別のクラスで、色白で、足が細い。前を通るとシャンプーの匂いがして、
朝礼の時に貧血で倒れてしまいそうな華奢な体だけどバトミントン部の副キャプテン。
 
僕はヒマさえあれば友人にそのコの話をしていた。
おい、今日の髪型見た?たまんないなぁ、うなじが、見えたんだ。
おい、今日、僕と目が合ったんだよ。いや、合ったような気がしたんだ。
 
友人は明らかに煙たがっていた。好きでもないコの話なんて聞いてもちっとも面白くないのだ。
そこで友人は、たった一言で僕の初恋と、幻想を打ち砕いた。
 
「この前、あいつの半袖の下からワキ毛が見えたんだ。しかも半袖のワキの部分が薄っすら黄色いんだぜ。
汗っかきなんだな。ワキ毛生えてるうえに汗っかきなんだな」
 
汗っかきなんだな。ワキ毛生えてるうえに汗っかきなんだな……なんだな……。
 
驚愕と絶望を招く言葉が頭の中でリフレインする。
嘘だ。嘘だよ。嘘って言ってくれ。どうしてあのコにワキ毛が生えてるんだよ。
 
僕は今でもこの友人たちと酒を飲むとこのことをうじうじ話し出す。
友人たちは「悪かった悪かった」と言っているけどちっとも悪びれる様子もないし僕だってちっとも許していない。
 
心の片隅で、まだその幻想は行き続けているのだから。

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