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| 2002年10月23日(水) 地下水脈と月明かり。 |
| 部屋の掃除をした。洋服を山のように処分した。 ハイネックのセーターと色あせしたチノパンツが1枚あればいいと思った。 Tシャツも下着も一組あればいい。 洗濯している間は真っ裸で毛布にくるまればいいんだ。 テレビもいらない。無意味な情報に行動を左右されるなんてまっぴらだ。 もう少しシンプルに生きたいと思った。家族も友達も彼女もいらない。 月明かりの下で冷たい土に孤独の穴を掘ってそこで暮らすんだ。 肌の温もりを忘れて土の温度だけを感じるんだ。 上昇するという観念など捨ててしまって、下へ、下へ掘り続けるんだ。 雨の日も風の日も小さな穴の天井に映る小さな空を見上げながら掘り続けるんだ。 時々穴の入口から人が呼ぶ声がするけど、僕はもうそんな声なんて気にしない。 思い出の歌を口ずさみながらスコップを握り締めるんだ。 誰の声も聞こえなくなって、誰と話すこともなくなって、どんな風景も見ることがなくなる。 やがて僕の口は声を出すことなど忘れてしまって、目も耳も、その機能を忘れてしまう。 それでも僕は掘り続ける。ハイネックのセーターとチノパンツで。 全ての情報から断絶された冷たい土の中で。 スコップはやがて地下水脈に辿り着き、僕はその濁流に飲み込まれる。 この地のあらゆるところに繋がっている迷路のような地下水脈の中を 糸が切れてしまった凧のようにあてもなく流され続ける。 シンデレラのお姉さんのように必要以上に冷たい地下水脈は 僕の肌を激しく刺し、骨の髄まで凍えさせる。僕は強く目を閉じて息を止める。 この流れはいつまで続くのか。そして僕はどこまで流されるのだろうか。 しばらくすると水の温度が上がってくる。 目を開けると透明だった水は羊水のように白く濁り、水の中でも硫黄の臭いが鼻につく。 僕は目の機能も鼻の働きも失ったはずなのに、その変化は確かに感じることができた。 光が見える。僕が穴を掘り出した日と同じ月明かりだ。 僕はその光を目指す。 ぷはーっ! これまでのストレスを一気に吐き出すように大きく息を吐く。 あぁ温泉行きたい。 |
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