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| 2002年06月12日(水) 声。 |
| 休日。今にも降り出しそうな空の下、 新聞紙にくるまれた小さな黄色い菊と、つぼみのままの百合を買って約十年振りの墓参りに行った。 仁とか情に薄い僕は、親戚との付き合いも希薄で、盆や正月にも顔を出さない有様で 幼い頃あんなに僕を可愛がっていた祖父の墓参りも十何年行っていない始末。 その僕が、墓参りに行った。 僕を墓地に向かわせた理由は簡単。呼ばれたのだ。 夢の中で、枕元で、その呼ぶ声は、天井から、薄い壁から、ふすまの隙間から 僕を呼ぶ声がした。 そこで近所のスーパーに向かえば、大安売りをしていて、 あ、この声はきっと、独身男性を哀れんでいるレジのおばちゃんの心の叫びだったんだ。と思うだろうし、 職場に向かえば、患者さんの状態が急変していて、 あ、この声はきっと、僕の看護を求めている心の叫びだったんだ。と思うだろうし、 昔の彼女に電話すれば、あんた今頃何様よ。と罵られるかもしれない。 だけど僕は小さな黄色い菊と、つぼみのままの百合を買って誰もいない墓地にやってきた。 本当に誰もいなかった。 風のざわめきと木々の揺らめぎと鳥のさえずりと、僕を呼ぶ不思議な声しか聞こえなかった。 花を添えて、静かに手を合わせて耳を澄ますと、その声は一層明瞭となって僕の耳小骨を振るわせた。 大丈夫です。 心配しないで下さい。 元気にやってます。 幸せです。 少なくとも不幸じゃありません。 大丈夫です。 僕はその声に思いつく限りの言葉で、目を閉じながら、手を合わせながら、耳を澄ましながら、 欺き続けた。 |
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