2002年05月26日(日)  判定士。
久し振りに薬局へ妊娠判定器を買いに行った。
 
「・・・アレが来ないの」その女性は受話器の向こうでか細い声でそう言った。
「あ、そうなんだ」僕はできるだけ平静を装った口調でそう言った。
「で、どのくらい?」
「予定日を2週間遅れてるの」
「ふぅん」僕はまるで人ごとのような返事をした。そしてそれは確実に人ごとだった。
 
看護学校の頃、クラスの女性に頼まれてよく妊娠判定器を買いに行った。
妊娠判定器を手に取ってレジに持っていくだけで僕はタバコを一箱貰えた。
僕のクラスメイトの男の友人もよく妊娠判定器を買ってくるように頼まれていたけど、
一度、その友人に頼んだ女性に陽性反応が出てしまって
それ以来、縁起が悪いという理由でその友人には誰も判定器を頼まなくなった。
友人にとっても僕にとっても迷惑な話だった。
 
「で、僕がまた学生の頃みたいに妊娠判定器を買いに行けばいいの?」
「そうなの。ゴメンね。行ってくれる?」
そういうことは彼氏に頼めばいいじゃないかと言おうとしたけど、
そういうことは彼氏に言えなくて2年振りに電話する過去のクラスメイトに頼んでいるのだ。
「わかった。今から行ってくる」
現代社会はとても便利になって、深夜でもコンビニにいけば判定器が買える。
 
近所のコンビニのレジには綺麗なお姉さんがいて
毎日レジの前に立つ度に少し胸がときめく(ときめく!)のだが、
今日は、その綺麗なお姉さんに妊娠判定器を見せることが後ろめたくて
僕は彼女を婚前に妊娠させるような男じゃないのに、
この男はろくに避妊もせずに彼女を悲しませている非道い男だ。
なんて思われたらどうしようというようなことばかり考えてしまって
ああクラスメイトの友人の彼氏の馬鹿。なんて変にイライラしてしまった。
 
――――
 
後日、友人から電話があった。
「よかった。陰性反応だったわ」
「そりゃあ、よかった」
僕の小さなコンビニの純愛と引き換えにされた陰性反応。
「今回は、タバコじゃなくてご飯でもおごってよ」
「あら、ご飯でいいの?」
友人はひどく御機嫌だ。
「ご飯以外何があるんだよ」
「今度は、あなたで陽性反応出してもいいかな、って」
友人は冗談で言ったつもりだろうけど、
変にドキドキしてしまって、そのあと冷や汗が出てきた。

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