2001年10月28日(日)  鏡に映る鏡。
午前中に降っていた雨は、午後になって少し回復したが、
僕の部屋はまだ肌寒く、湿っていて、その湿気が重たい空気を作り出していた。

僕は、ある女性とぼんやりテレビを見ていた。いや、眺めていた。
テレビはただ無意味な情報を流しつづけ、僕達は無意味にその情報を受け入れていた。
その受けいれられた無意味な情報は、やがて何の吸収もないまま、何のフィルターも使用しないまま、
空気中に流れ出し、部屋の湿気と混ざり合い、空気をますます重くさせていた。

「あなたにプレゼントしたいものがあるの」

その女性はそう言って、部屋を出て駐車場の自分の車の元へ行った。
彼女は、この台詞を言おうか言わまいか悩んでいた。
その証拠に、彼女は何度か大きく息を吸って、何度かそのまま息を止めていた。
それが何度か繰り返され、やがて大きく吸った息が言葉として先程の台詞になり口から出された。

僕がテーブルのタバコを取り、火を着けて一息する間に彼女は戻ってきた。
オレンジの大きな袋を抱えていた。

「あなたにプレゼントしたいものがあるの」

その女性は、また同じ台詞を口にした。その台詞から並々ならぬ決意のようなものが感じられた。

「ありがとう。だけどクリスマスは再来月だし、誕生日だってもう過ぎちゃったし、何かの記念日でもないし、
なにより今日は僕が嫌いな月曜日だ。プレゼントを貰う理由なんてないよ」
「いいの」

彼女は僕の冗談の相手をせずに、強く否定した。
彼女のまだ形がはっきりしない何らかの決意がここでも感じられた。

「ありがとう」
僕はそのオレンジの袋を受け取る。袋の中身はジャケットだった。

「着てみて」
僕は彼女の言われるがまま、そのコーディロイ生地のオリーブ色のジャケットを着てみた。
僕は部屋着のスウェットのズボンを履いていて、少し不釣り合いだったが、
サイズも丁度良く、僕の体にすぐ馴染んだ。生地も色もデザインも僕の好みだった。

「ありがとう」
僕は体の位置を変えながら鏡の前に立ち、彼女にお礼を言った。

「それ、昔の主人が着てたものなの。家に置いててもしょうがないし、
捨てるのは勿体ないから。あなたと同じような体格だったし」
彼女はそういって悲しそうに微笑んだ。
「それにしてもぴったり」

彼女が細めたその瞳は僕というフィルターを通して昔の亭主の姿を見つめていた。

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