2001年03月20日(火)  後輩思い思われ刺し刺され。(後編)
恐る恐る私の腕に針を近づける。
手が震えている。私も最初はそうだった。
なにしろ人を刺すという経験が今までの人生で無いのだ。

「・・・いきます」

私の血管に。上腕正中皮静脈に針が近づく。
針先は相変わらず目盛りが定まらない計りの針のように震えている。

「…ダメだぁっ」

後輩は苦痛の表情を浮かべ私の腕から手を引く。
そして後輩よりも苦痛の表情を浮かべてる私の顔。

「ちょっと深呼吸させて下さい」

いくら私が先輩でもいちいちそんな事まで断らなくていい。
空気を吸って気持ちが落ち着くのなら思う存分吸うがいい。

「よし。今度こそ大丈夫です」

深呼吸して気持ちが落ち着くのなら僕に酸素マスクを下さい。

しかしまだ多少の震えが残っている針先で私の血管を捕らえようとする。捕らえる。あともうちょっと。
と・捕らえる…!!

ピチッッッ!!!!?

「あああっ!!やっぱりダメだぁぁ!!」

おもむろに後ろにのけぞる後輩。そして前にのけぞる先輩。

たしかに後輩の針は私の血管を捕らえようとしていた。
しかしあともうちょっとのところ。私の皮膚に針が少し入ったところで後輩は注射の恐怖に絶えられなくなり、思い切り針を抜いた。

そしてあの妙な音。ピチッッッ!!!!?

後ろにのけぞったまま自己嫌悪の言葉を並べまくる後輩。
少し時間が経ってからひょっこり顔を出すように皮膚から小さな血が出てくるのを見て驚愕する私。

そうそう最初の注射はこんなものなのだ。
そんなに落ち込むことはない。
実験台になる人の身になってごらんなさいよ。

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