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カミナリ。→→→2006年03月22日(水) 自分の日記をなんとなくほんのちょっと見返してて、数年前のリメイク。 あたしあの頃しっかりしてたなぁって。 今みたいにふにゃふにゃダラダラ幸せに暮らしてなかった。 しっかり、強く、生きようとしてたんだな。 『神鳴り』 男がいて女がいて。 愛し合うために性があって。 それなのに何をどう繕っても、私たちは、愛し合うために別々の性を授かった私たちは、男女を分けた神様に、逆らっていることになるんだろうか−。 -----神鳴り 『会いたい』。 深夜、鳴った携帯を開くと、見慣れた名前で届いたメールは、この四文字だけだった。 時計を見ると二時。 あぁ、今仕事終わったのかな。 会うかどうかを迷っても、「お疲れ様」くらいなら、言いたかった。 眠いのか、疲れているのかもわからずあまり働かない頭で、また反芻した。 『会いたい』。 『会いたい』。 外は夕方からの雨がひどいことになっていた。 雨音なのかもわからないほどの激しく屋根を打つ音とカミナリ。 時折窓の外がフラッシュみたいに光り、遠くの方でおぞましい音がする。 こんな天候の中どうやって会いに来れるんだろう。 思った瞬間、また携帯が鳴った。 今度は電話だった。 出ようかどうか少し考え、それでも結局我慢しきれず、出てしまう。 「咲子?俺だけど」 久しぶりに聞く声。 ああ、雅之だ。 胸の辺りがあったかくなって、掴まれたかのように苦しくなる。 私が黙り込んでいると、雅之は疲れたような低い声で私を確認する。 私の携帯だから私じゃないわけないのに、何度も「咲子?」と呼びかけては、私の声を求めた。 「…今どこ?」 「ん?駐車場。車の中。…寝てたか?」 「うん、まぁ」 「あぁ、……悪い」 「ううん、いいよ」 核心をつかない会話が少し続き、尽きて沈黙になってしまうとようやく、雅之は息を吐き、言う。 「メール、見たか?」 自分の部屋の中に響く音とはどこか違うような水音が、受話器越しに聞こえる。 自分と雅之との間の距離を感じて、それだけで、会いたいと思ってしまった。 雅之に会いたい。 会って、雅之の腕の中で、雅之の匂いの中で、温もりの中で、雅之と、雅之とと、求めてしまう。 …雅之に会いたい。 「……見た」 小さく呟いた。 見たけど、私も会いたいけど、すごく会いたいけど、明日の仕事だとか、お互い寝不足なんだからとか抜きにしても、会うのはいけないような気がしていた。 雨の音に混じって、雅之の声が耳元で聞こえる。 「……会いたい。駄目か?」 会いたい。 会いたい。 咲子。と、何度も。 押し殺すように。 「…明日、仕事は?」 「普段通りだよ」 「何時まで?」 「さぁな。今日と同じくらいだと思う」 「昨日どのくらい寝た?」 「ん、二時間くらい」 「どこで寝たの?」 「会社」 「疲れ、溜まってるでしょ」 「……溜まってるよ」 「……」 「……」 沈黙の間も、鳴り止まない自然の音。 何かに怒り狂うように響くカミナリの音の後、雅之が追いつめられたかのように、だけど静かな口調で、言った。 「明日も仕事だ。疲れも溜まってる。寝てない。食ってない。働いてる。家には帰ってない。……でも会いたいんだよ。どうしても会いたい。会って、抱きしめて、キスしてセックスして、咲子のこと愛したい。愛してるから。……会いたい。咲子……」 普段決して弱いところを見せない雅之の弱さを見ているんだと思った。 何かあったのかもしれない。 限界がきているのかもしれない。 守りたい。 支えてあげたい。 会いたい。 私だって会って抱きしめたい。 キスしてセックスして、雅之を感じたい。 愛し合いたい。 仕事が忙しくても。 寝てなくても。 家に帰ってなくても。 疲れて死んでしまうかもしれなくても会いたかった。 会いたい。 雅之に会いたい。 激しい雨音に煽られるように淋しさが溢れ出てくる。 仕事があるのに。 疲れてるのに。 寝てないのに。 家に帰ってないのに。 こんな天候なのに。 私のものじゃないのに。 私のものじゃないのに。 「愛してる咲子。会いたい。咲子。会いたい。会いたい。……愛してるよ…」 弱った雅之の声を、激しい雨が消す。 私が会いたいと言えば。 私が目を瞑ってしまえば。 雅之は会いに来る。 私たちは愛し合える。 「会いたい」と声に出そうとした。 刹那、窓の外に、昼間のような明るさが走った。 自分の耳で聞いているのか、雅之の受話器から聞こえてきたのか、互いの耳に直に聞こえるほどだったのか、そのくらいの大きなカミナリが、長く、響いた。 あぁ。 聞こえる。 私たちの行為を、お許しになれないと、神鳴りが響いてる。 眩しく光って、私たちの行為を咎めてる。 醜い。 汚らわしい。 雨音と混ざり、私たちを攻撃する。 私は。 私たちは。 神様が作られた決まりに。 神様が決められた倫理に。 なんて背徳なんだろう。 「…咲子?どうした?」 耳を伝う雅之の声に、私は金縛りにあったように、口を動かせなくなってしまう。 そもそも私たちは、今までどうやって愛し合ってきたんだろう。 愛し合うために出会ったわけでもない相手に。 なにも築けない相手に。 「愛し合う」? どんな顔をして? 守るものは? 倫理は? 「愛し合う」? ……どうやって? 何かがおかしい。 いや、おかしいなんていうものではない。 私はたまの彼からの連絡を喜ぶ。 彼は家に帰らない。 間違ってる。 すべきじゃない。 気持ち悪い。 抱いてはいけない感情のはずだった。 抗って。 逆らって。 倫理に。 背いて。 何食わぬ顔で。 不倫と呼ばれ。 気付いてしまった。 ……私たちは、神様も敵に回してしまったんだろうか。 「咲子?」 何度目かの雅之の呼びかけが聞こえる。 雨音に抗って。 神鳴りの傍で。 「……駄目だよ。できないよ雅之。やっぱり会えない。会っちゃいけない。ごめんね。ごめん。………ごめんなさい……」 神様が作った決まり。 神様が決めた倫理。 逆らってしまった。 愛してしまった。 私はなんてことを。 なんてことをしてしまったんだろう。 人のものなのに。 人のものなのに。 「……咲子?」 雨音は消えない。 私たちを激しく打ちつけるだろう。 激しく。 激しく−。 「……神様が見てる……」 |
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