後藤真希妄想小説「パパに似ているカレ」サンプル版 - 2004年08月10日(火) あっちいなぁ。 今月の週末はHDPの取材で埋まっちまいました。 まったく、いつ休むんだ、オレ!? それはそうと、 妄想小説「パパに似ているカレ」のサンプル版です。 多少、本文をカットして短めにしてあります。 完全版は発売中の『月刊ケンガイ 9月号』(芸文社) をみてくださーい。 ---------------------------------------------------- やけに暑い日のことだった。 バイトが終わっていつもの道を歩いていると、 商店街の向こうから懐かしい笑顔がやってきた。 「萬蔵ーっ! 超ヒサブリじゃん!」 大口を開け、八重歯見せて走りよって来たのはマキ。 そう、後藤真希だった。 ボクとマキは幼なじみだ。彼女の実家は居酒屋を経営していて、 ボクはそのとなりのとなりにあるパン屋の息子だ。 2人は年がひとつ違いということもあり、 小さい頃は弟のユウキも含めてよく遊んだ。 だが、彼女が平尾昌晃のカラオケ教室に通いはじめた頃からだろうか、 ボクらは徐々に疎遠になっていった。 その後、マキはモーニング娘。に“金髪の13才”として加入。 多くのヒット曲に恵まれることになる。 そんなマキをボクは遠くから眺めているだけだった。 ブラウン管の中で活躍する彼女は、もう別の世界の住人だと思っていたからだ。 でも今、目の前にいるのは「ゴマキ」でも「ごっちん」でもない、 昔と一緒の「マキ」だった。 「ホント、ヒサビサだなー。こっちに来るなんて珍しいじゃん?」 「たまにはお姉ちゃんの居酒屋の手伝いしなきゃと思ってねー」 「芸能人がそういうことするなよー(笑)。休めよ。忙しいんだろ?」 「うん、でも娘。にいた頃よりかはマシかな……」 マキの表情が少しだけ曇った。 どうしたんだろう?と思っていると、次の瞬間には元のマキに戻っていた。 「ねえ、久々にあの公園行こうよ!」 ボクらは商店街からひとつ横の道に入り、昔よく遊んだ公園に向かった。 「なつかしー!」とマキはブランコに向かって走っていった。 あのころからマキはヤンチャな女の子だった。泥警が大好きで、 ジャンケンに負けてないにもかかわらず、自ら泥棒役を買って出た。 ビュンビュン走っていくマキの後を、ボクはいつも追っていたっけ。 そんなマキにも女らしいところがひとつだけあった。 それがピアノだ。 マキは姉からピアノを習っており、 曲はいつも杏里の『オリビアを聞きながら』だった。 ピアノの弾くマキの横顔はいつになく真剣でドキッとするくらい大人だった。 「ほら、めっさ飛ぶよ!」 マキはブランコを思いきりこぎながら、スニーカーを遠くに蹴り飛ばしていた。 地面に落ちたスニーカーを拾いに行くと、 「昔の倍は飛んでるね。成長したな」と自分に言い聞かせている。 ふと見ると、マキの足は昔に比べやけに筋肉質だった。 「そりゃあフトモモにそんだけの筋肉あれば、飛ぶわなぁ」 ボクのツッコミを聞いたマキは、頬をぷうっと膨らませた。 「気にしてること言うなっ! てか、見てよー。腕もこんななの」 マキが腕を曲げると、そこには大きな力こぶが出来ていた。 「なんかねー、最近ライブやることが多くて、 気合入れて動き回ってたらカラダが筋肉質になっちゃって。 髪も切っちゃったから、まるで男のコ。余計ユウキに似ちゃうよー」 マキはちょっとはにかんで笑った。 「でもライブは楽しいんだろ?」 「うん。楽しいよ。ライブはね、私の居場所だから……」 またマキの表情が曇った。 しばらく時間が流れた。夏特有のぬるい空気がボクらを包みこんだ。 ボクはタバコに火をつけると、ゆっくりとブランコを揺らした。 鉛のきしむ音が暗闇に響いた。 「ねえ」 口火を切ったのはマキだった。 「ねえ、私ってこのままでいいのかな?」 「は?」 「このまま歌手やってていいのかな?」 ソロになってからのマキが大ヒットを飛ばせていないのは、ボクも知っていた。 モーニング娘。を卒業してからのマキは、どこか精彩を欠いていて、 テレビに写る回数も減っているように思えた。 「やってていいのか?って、それってどういう意味?」 「もう、やめちゃおっかなー、って」 「ちょっと待てよ。なんかあったんか?」 「私ね、つんく♂さんに嫌われちゃったんだ……」 もともとソロ志向が強かったマキは、一人で活動できることを喜んでいたという。 ところが、なかなか結果がでない。 と同時にかつての仲間たちであるモーニング娘。が落ち目になっていくのを 見ていられない、という思いが強かった。 その責任はつんく♂の作る曲にあるのではないか?と思ったという。 そして事件は起きた。 マキは昨年末のNHK紅白歌合戦で歌う曲を、 あの『オリビアを聞きながら』に決めた。当然、つんく♂は怒った。 「晴れの舞台なのに、なぜ持ち歌を歌わないのか?」と。 このことが発端となり、マキとつんく♂の関係は微妙に。 そして今年に入ってからの打ち合わせで2人は衝突したという。 つんく♂「お前らは使い古されとるんや。 これからはさらに若者の曲がくるんや。 大体、NHKに出られるのも、俺が司会やっとるおかげやろ! 誰が発掘してやったかわかっとんのか?」 マキ「だったら言わせてもらいますが、最近、モーニング娘。や松浦、 そして私がヒットを出せないのはなぜ? もっといい曲作ってくださいよ!」 つんく♂「うるさい! もう、お前に作る曲なんかあらへんわ!」 マキ「お前のためになんかに歌う曲なんかない! 才能ないんじゃない?」 こうしてマキの11枚目のシングル『横浜蜃気楼』は、一応、 つんく♂プロデュースという体裁はとってはいるものの、 作曲はシャ乱Qのはたけが担当することになった。 これはつんく♂からの戦力外通告に等しい。 マキは遠くを見つめながら続けた。 「それにね、私、もしかしたらこういう生き方は合ってないのかもしんない」 「どうして? 歌手はおまえの夢だったじゃねーか」 「でもね、お母さんを見てて、『ああ、私も20歳くらいで結婚して子供生むんだ』 って思ってた。最近、市井ちゃんにも子供出来たし、 そういうの見てると私もそういうほうが合ってるのかな?って」 「おまえ、またそういうコトを……」 突然、マキは立ち上がった。 「だって、今の私は私じゃないもん! 私はクールでもないし、冷めてもいない! もう、そういう風に見られるのもイヤ! 私は私でしかない! いつも笑ってて、家族みんなでバカやって、そういうのが本当の私だもん! 萬蔵も私を芸能人としか見てない! 本当の私を見てよ!!」 でもボクはマキの身勝手さに無性に腹が立った。 「おまえ、勝手だよ。 おまえにはモーニング娘。時代から応援してくれてるファンが たくさんいるんだ。みんな、おまえのことを待ってるんだ。 オレはな、おまえが歌手をやってることを誇りに思ってるぜ。 つんく♂にどう言われようが、他人にどう言われようが、 おまえはおまえでしかない。 自分らしく生きりゃいいじゃんか!」 「…………」 「それでもし疲れたら、またこの街に戻ってくればいいじゃん。 ここはおまえが本当の自分に戻れる場所だろ? オレはいつでもここにいるよ。おまえの帰りを待って……」 「萬蔵……」 マキは泣きながらボクの腕の中に倒れこんできた。 こんなマキの姿は一度も見たことがなかった。 ボクは迷っていた。 幼なじみとはいえ、相手はアイドルだ。 いいのか? するとマキは顔を上げ、ボクの目を見つめた。 マキの瞳は潤んでいた。 もう、どうでもよかった。 ドライに抱きしめてなんかいられなかった----------。 翌日の朝、ふと携帯電話を見るとマキからのメールが届いていた。 「昨日はありがと☆ワタシって ガンコで人の言うこと聞かないけど、 萬蔵の言うことは信じられる気がする。 ワタシ、萬蔵の中にお父さんを見ている のかもしれない……」 それから2週間後、マキの招待で「後藤真希コンサートツアー2004春 〜真金色に塗っちゃえ!〜」を見に行った。 席はステージ中央、真正面の1列目。その距離感に少しドキドキした。 ステージの上のマキは、今までボクが見てきたマキとまったく違う。 その歌の説得力に、ダンスのキレに、素直にかっこいい、と思った。 そしてアンコールの曲がはじまる前、マキはマイクを通して語り始めた。 「ひとつ、ふたつ、あるんだけど………。 まず、ひとつ。今日は本当に楽しかった! そしてふたつめ。………大好き!!」 歓声が会場を埋め尽くす。 だが彼女の視線の先にいたのは、 まぐれもなくボクだった。 マキは汗を拭いながら、アンコールの曲を紹介した。 「モーニング娘。の中で一番大好きなナンバー、 『パパに似ている彼』です!」 ...
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