日々のあわ
あかり 



 刹那

朝起きたら涙が出ていた。

大好きだった祖父母の家が夢に出てきた。
私は吉祥寺にあったこの家で3歳の頃しばらく母方の祖父母と暮らした。

この家は「昔の家」なのだけれど、モダンだった。シャンデリア付きの応接間があって
ドアノブは真鍮だった。祖父はここでいつもいつもクラシックレコードを聴いて過ごしていた。

洗面台はタイル張りで大きく角ばっており、祖父が「ご不浄」と呼んだトイレはきちんと男女べつに分かれていた。

その家の、私が好きだった場所をただひたすら写真に撮る私。
今はもう取り壊されて別の家が建ち見知らぬ人が住んでいて、当時は写真など撮って残しておく知恵もなかったのだけど、
夢では「もうすぐなくなっちゃうから写真に撮っておこう」とタイルやらドアノブやら柱やらを一人で撮っている夢。

普通の「おばあちゃん」という存在よりもずっと母親に近い存在だった、敬愛する祖母も夢に出てくることなく、たった一人で私は写真を撮っている。

起きたら涙が出ていた。

夢診断するのも怖い感じの夢。どうしたんだろうか。

職場で友人Tに会ったら彼女が
「椿ちゃん、お母さんに似てきたね〜。でもっておばあちゃんにもそっくりね。」
と言った。
夢をまた思い出した。

もう二度と会えない人、もう二度と行かれない場所、もう二度と・・・。
私の心の奥底に、しーんといつも居座っている気持ち。
淡い思い出というよりも刹那的な時間が強烈に残っている。そんな感じだ。


2004年12月08日(水)
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