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■ 教室に居たくない理由
「具合が悪いので帰ります。」
学生Aが言った。顔を見るとちょっと頬が赤くなっていたので
「熱があるの?」
と聞き返すとAはただ黙って頷いた。他の学生も待たせていたので他の学生の用を先に済ませ振り返ると今度は顔が真っ白になっていた。“あれ?”と思い
「どうしたの?」
と聞いてみた。するとAの目に涙がどんどん溜まり泣きだしてしまった。以前にもこれと同じ事が数回あったので、Aの手を引き小部屋へと連れて行きソファーに座らせ落ち着くのを待った。 暫く泣き続けていたが少し落ち着いたのかやっと顔を上げたので、もう一度
「どうしたの?」
と聞くと、教室に居たくないとAは言った。このA、以前は家に居たくないと言って泣いた事がる。母親との関係が上手くいっていないらしく自分の居場所が家の中にはないと言っていた。Aの母親は日により気分に落差があるらしく、いつだったかは“あんたなんかいらない!”と言われたと笑って言っていた。食事中に食器が飛んでくるのは日常茶飯事だとか・・・。かと思えば、仲良くやっている時もあるらしい。 ただ一つ、気になるのはAが母親の顔色を常に伺っているという事。伺うと言えばちょっと表現が違う気もするが、常に気にしている。進路面談の時もそうだった。母親の方は特に強気に出るでもなくホンワリとした感じの人のように見え、本当にこの人がお皿を投げたり、暴言を吐いたりするのだろうかと思ったほどだった。それでも原因がどこにあるのかを聞きたくて
「教室に居ると息苦しくなる?」
と聞いてみると、Aは頷くと同時にまた泣き出し、そしてこう言った。
「他の人の顔色が気になるんです。」
ん?待てよ・・・この言葉どこかで聞いたことあるなと思ったけどその邪念は払いのけ、もう少し聞いていた。
「13人しか居ない教室で何かを言うと目立ってしまうし、だから、黙っているんです。」
ん?顔色が気になるし、目立つのも嫌だし、ってことは原因はどこに?と思ってしまった私は
「昨日休んだのもこれと関係ある?」
と聞くとAは頷いた。そして
「クラスの人全員の顔色が気になるの?」
と聞いてみた。するとそうではないらしく、いつも三人でつるんでいるんだけどそのつるんでいる仲間の顔色が特に気になるらしい。Aが言うには、自分が相手の顔色を気にしてしまっているだけで、MとSが何か悪い事をしてくるわけでもないと言う。 ただ、常に一緒にいなくてはいけないみたいな観念にとらわれる事がAにとっては窮屈らしい。ホントは一人で居たいのに、三人のうち一人でも傍を離れると、周りの人たちがあれやあこれやと世話を焼きはじめ、また三人の状態に戻されてしまう。その事がとても嫌なんだけど嫌とは「言わず」・・・や、嫌とは「言えず」自分がしんどい思いをしてしまうらしい。 何にしても今日はもう帰って家でゆっくり眠った方がいいね。と言って帰したのだけど、その帰り際Aが私に念を押した。
「この事はMとSには絶対に言わないで下さい。」
さらに、Aは言った。
「別にあの二人が悪いわけじゃないんです。でも、時々かみ合わないんです。引き際が読めない時がお互いにあるように思います。」
このMとSのうち、Mは過去にAと同じような経験を持つ子だ。“教室に居たくない。人が信じられない。一人で居たい。”と言って病院通いをした。厳密に言えば同じ経験ではないけれど、少なくとも一人で居たい時に誰かが傍によってくると苦痛を感じるという感覚を経験している点では同じだと思う。だから、お互い引き際が読めないのか・・・それとも相手の事を気にしすぎるがあまりついつい長居をしてしまうのか。とにかくその事についてお互い相違があるらいし。
どうしたものか・・・。 相談しようかとも思ったが、何かと多忙そうなので今回は思いとどまった。でも、だからと言って私が何かをしてやれる訳でもなく、ただAに言えた事はといえば、 「しんどい時はいつでもここ(私のデスクがある)に降りておいで」だけ。ああ、不甲斐ない。 こんな時、本当はどうしたらいいんだろう。 専門家にでもなりたい気分だ。
2003年11月18日(火)
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