| 2004年01月05日(月) |
シルベスターのロブスター |

12月31日のシルベスター・メニューのロブスター。 おっきいでしょう? これ一匹で十分お腹いっぱいに。 他にも海老、えび、エビ、海老尽くし。 生、半生、茹で海老、色鮮やかな海老のお皿をいくつもテーブルに並べた。

しっかし、ホテル客の中でもあれだけたくさんの海老を食したのは、 アジア人の私たちぐらいだろうな。
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夕日がすっかり傾いたころ、一人でぼんやり海を眺めて過ごした。 この海のずっと向こうはモロッコ。なーんにもない海。 さっきまでいたウィンドサーファーも帰って、だーれもいない海。 波の音も風の音も遠慮がちな、しーずかな海。
どのぐらいそこにいたんだろう。 なーんにもないと思っていた右手の沖に、なにやら丸くて黒いものが見える。 なんだろ、人の頭かな? よーく見たら、海面から顔を覗かせたり潜ったり。 いやいや、ただ海面に浮いているだけみたい。 さっきまで、全く何にもなかったのに。 自力で帰られなくなったサーファーかな? あそこまで風で流されて、沖で漂流してるのかな? どうなんだろ。私も一度ウィンドサーフィンで同じような経験あるからさ。 ここからは遠すぎてボードもセールも見えないや。
時間がそのまますぎていく。 相変わらず、黒い頭はただ沖でぷかぷかしている。 本当にこのまま放っておいても大丈夫なんだろうか? 救助ボートを出さなくてもいいんだろうか?
ずっと離れた右手の岸壁に、一人で海を見に来ているおばあさんがいた。 自分のホテルに戻るためか、ひょこひょこ腰を曲げて岩の上を歩いているところだった。 あのおばあさんもさっきからあの沖のほうを見てたはずだ。 あれに何か気付いただろうか? 「ハロー、エンシュルディグン(すみません)!」 おばあさんは、血相を変えて走ってくる私を見て、驚いたように立ち止まった。 「あの沖のほうに黒いものが見えるんですけど、もしかしたら、人が溺れたんじゃないでしょうか? 私、救助ボートを頼んだほうがいいでしょうか?」 私が息を切らして畳み掛けるように言うと、お婆さんも慌てて沖のほうを見た。
二人並んでほんのしばらく沖を見た。 おばあさんはすぐに、ふふふと顔を緩めて、 「いやいやあれは人の頭なんかじゃなくって、浮き球だと思うわよ。人じゃないわよ。もし人間だったら、救助の合図の手を振るでしょうし」 「ははぁ、それもそうですね・・・」
よくよく目を凝らしてみると、それは本当に黒い浮き球のようにみえる。 長い間海を見ていたから、そのうち潮が引いてきて、浮きがぽっかり海面から顔を出したのかもしれない。さっきまで本当に何にもない海だったんだから。 視線を左の沖に移したら、今度は白い丸い浮き球がぷかぷか・・・。 いやぁん、もう私ったら、人騒がせでおっちょこちょいの早とちり。 二人でちょっと笑いあった。
おばあさんは、東洋人の風貌でドイツ語を流暢に話す私に興味を持ったらしく、そのまましばらく立ち話をした。旅先で初めて出会う人が必ず質問しあうありきたりな会話と挨拶を交わし、お互いのホテルへの道を歩き始めた。
別れ際、同じ背丈ぐらいのおばあさんが私の顔を覗き込んで言った。 「あなたは本当に親切な娘さんだね」 私は照れ隠しの両目ウインクだけで、「ありがとう」と返した。
今回は単なる早とちりだったけど、人のために一生懸命になったり尽くしたりするのは、やっぱり心が気持ちがいいもんだな・・・って素直に思った。
「私今ね、ちょっとすがすがしい気分だよ・・・」 水平線のずっと向こうに話しかけてみた。
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