2010年09月21日(火)  母の手紙「玉ちゃんの日が決まったら」

筆まめな大阪の母は、月に一度ぐらいの割合で葉書を寄越してくれる。旅先からの絵はがきだったり美術展や文楽の報告だったり。それを読んで、離れた東京に住む娘であるわたしは、元気に機嫌よくやっているなと安心する。そして、「元気そうやん」と電話をして、孫であるたまの声を聞かせる。

ところが、今日届いた葉書が、おかしかった。文字が乱れ、右肩下がりになっている。文面もいつもと違う。妹のところの下の子の保育園で祖父母参観があり、参加したと書いてあるのに続けて「玉ちゃんの日が決まったら教えてください」とある。珠の字が間違っていることより、参観日を聞いてくることなど初めてだったので、そっちに驚いた。

そして、不安になった。

帰宅したダンナをつかまえ、「今日、お母さんから来た葉書、ヘンだったんだよね」と切り出し、わたしが違和感を覚えた箇所を話すと、ダンナの顔色が変わった。「もしかして……」「やっぱり、そう思う?」。

胸騒ぎを覚えて気をもんでいても仕方がないので、大阪の実家に電話をかけてみる。

電話に出た母は、拍子抜けするほどいつもと変わらず、「みんなに宣伝してるよ、てっぱん」と言う。ひとしきり普段と変わらない会話をした後で、「で、元気なん?」と聞くと、「元気や」と言う。「葉書見て、ちょっと心配になってんけど」と言うと、「ああ、字汚かったやろ?」。

「最近な、睡眠導入剤飲んでから寝るんやけど、すぐに寝られへんから、手紙書くねん。でも、何書いたか忘れてることもあるわ」と笑う。「なんや、そうやったん? もう、心配したんやから」と力が抜けて、少し涙が出た。

良かったと電話を切った後で、でも、安心しきっていいのか、と立ち止まる。

睡眠導入剤を飲むということは、眠れない何かを抱えているということだ。眠りかけのときに書いた手紙だからと言って、書かれていることに意味がないわけではない。むしろ本音がのぞいていたりしないか。あんたは東京に行ったんやから、そっちでやりなさいといつもは突き放している母は、孫の顔を見せろとも言わない。運動会や祖父母参観を見たいと言ってきたこともない。

わざわざ東京まで出て行くのは大変だし、自分の生活が充実しているからとも言えるけれど、どこか遠慮もあるのかもしれない。

心のどこかに追いやっている「会いたい気持ち」が、眠りかけの意識に浮き上がってきたのではないか。右肩下がりの乱れた字の「玉ちゃんの日」を見ながら、そんなことを考えている。

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