2009年08月18日(火)  シリアスな題材をコミカルに『命美わし』(1951年)

今度お仕事することになった監督さんを紹介され、会食していた昨夜のこと。「何十年も真面目に勤め上げてきた人が、ある日突然とんでもない悪さをしてしまうのは、魔が差すとしか言えないんですかねえ」などと話していると、監督が「ためにためた数十年の我慢を解放させる、スカートをめくる一瞬を描きたい」と真面目に語り、大笑いした後で、「その一瞬のために映画一本を撮るところにカタルシスがあるのかもしれない」と思い、監督というのは面白い発想をするなあと感心した。

深刻なことを深刻に描かず、むしろ笑いにまぶすというのは朝ドラ「つばさ」にもある傾向で、人生いろいろあるけど、だからこそ背負い込むより笑い飛ばそうという精神は、わたし自身が「くよくよしない」ことが身上なので、大いに共感できる。そんなわけで、今日神保町シアターで観た『命美わし』(大庭秀雄監督)は、そのタイトルと「自殺の名所で自殺しかけた娘二人が拾われてきて、その家の兄弟と恋に落ちる」というあらすじから、しっとり、ねっとりした作品なのだと想像していたところ、爆笑の連続で、いい意味で裏切られ、気に入った。

旗を持ったガイドが観光客相手に「こちらが自殺のメッカでございます」とうぐいすのような美声で語る冒頭からおかしみがあるのだが、その沼の近くに住む一家の主(笠智衆)が妻(杉村春子)と三味線と琴の手合わせをしている最中に、突然尿意を催すがごとくヌッと立ち上がる。それが、誰かが死のうとしているのを察知したサインで、袴を重ね履きし、長棹を構えて意気揚々と助けに向かうのだが、その張り切りぶりが笑いを誘う。

死ぬところを邪魔された娘たちは嘆いたりなじったりするが、迎える杉村春子の慣れた様子がおかしい。かつて命を救われた者同士がその家で意気投合して結婚し、子どもを連れて里帰り(?)してくると、「こちらが先輩。こちらは新米」と自殺未遂者同士を紹介し合う。この辺りのからっとした描き方が、なんともわたし好み。重くなろうと思えば、いくらでも重くなれるテーマと内容なのに、軽やかに爽やかに描き、それが命を軽んじるのではなく人生を謳歌しているように映るところがお見事。

ラスト近く、「息子たちの結婚相手には過去のない娘をと願っていた」のようなことを杉村春子が笠智衆にぽつりと言うが、苦労を知った分、優しさを備えた娘たちであることも理解していて、表情は晴れやか。それに対し、笠智衆は、「自分はお嫁さん探しに棹を担いで沼へ行っていたようなものだ」といったことを言って笑い、客席も和やかな笑いに包まれる。二人には息子二人の下に妹がおり、「今度は婿を探しに行かねば」のようにおどける笠智衆がさらなる笑いを呼ぶ。自殺の話なのに、なんとも微笑ましく、そのギャップを大いに楽しんだ。

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