2009年04月11日(土)  〈学術標本の殿堂〉東京大学総合研究博物館小石川分館

小石川植物園を訪ねるたびに気になっていた赤がアクセントの白いレトロな洋風建築。人が入っていくのを見たことがなくて、てっきり使われていないと思っていた。天井は高そうだし、レストランにしたら素敵なのではと勝手に想像していたが、現役の博物館であることを今日知る。植物園の中からは行けず、いったん出て入り直す形で、入口は奥まった場所にあった。植物園は入場料330円がかかるが、博物館は無料。


「東京大学総合研究博物館小石川分館」の名称が上質の紙にエンボス加工で刻まれたリーフレットは、〈交通・通信技術の発達とともに地理的な「世界」が縮体されていく一方、知の「世界」は加速度的に拡大され、高度に細分化され、その先端的な広がりの全貌を把握することあもはや容易ならざることとなっている〉などと文章も格調高い。

元々は東京医学校(東大の前身)の中心建築で赤門の近くに建っていたのを移築した建物で、アクセントになっている赤い塗装は赤門や医学部の煉瓦校舎との視覚的な連続性を意識したものらしいとリーフレットの説明で知る。建物の中は時間が止まったような、というより時間を閉じ込めたような空気に包まれ、空間そのものが大きな展示物であるような厳かさに満ちている。余分なものはなく、置かれているひとつひとつが「そこにあるべきもの」として注意深く配置され、調和しているような感覚で、小川洋子さんが書く博物館を想像した。


「驚異の部屋-The Chambers of Curiosities」と銘打った常設展示は、「東京大学の学術標本や廃棄物を現代アートの文脈から再構成」する試みで、学術的な説明をあえて排除している。オブジェのように佇むきのこ。骨格標本のユーモラスな立ち姿。薬草を詰めた瓶の数々が息をひそめて並ぶガラスケースには、美しく重厚な存在感があり、何かを企んでいそうな危うさを漂わせる。確かに説明は要らない。見ているだけで、ドキドキし、ワクワクし、驚きと発見があり、想像をかきたてられ、「学術」と「芸術」がとても近いところに生息するものなのだと気づかされる。2歳児の娘のたまも神妙な顔と好奇心の眼で展示物のひとつひとつに見入っていた。

日曜日の午後だというのに貸し切りのようにひとけはなく、実に贅沢な時間。あの人を連れて来たら喜びそうだなと友人の顔が浮かぶ。一階のテラスに出て、目の前にひらける日本庭園をぼけっと眺めるのもいい。生ける絵画のような絶景を窓枠に納めるよう計算したような建物の立地にもアートを感じ、リーフレットにある〈学術標本の殿堂〉という表現に納得した。

東京大学総合研究博物館小石川分館
木・金・土・日・祝日 10:00-16:30開館
文京区白山3-7-1
丸ノ内線茗荷谷駅から徒歩8分 都営三田線白山駅から徒歩15分

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