2008年05月27日(火)  マタニティオレンジ293 聴診器ごっことマススクリーニング

保育園に娘のたまを迎えにいくと、シャツをパッとまくり、現れた白いおなかをしきりと指差して「ここよ、ここよ」と訴える。「おもちゃの聴診器を当てて、もしもししたんですよ」と保育士さん。お医者さんではもしもし(=診察)をいやがるくせに、遊びだとうれしいらしい。

わが家に聴診器の代わりになるものはなかったかと見回し、吸盤のついたひよこの歯ブラシホルダーが目に留まる。耳に当てることはできないけれど、おなかにペタッと吸いつく感触は近い。早速、たまのおなかに当ててみると、あたしがママを診るのよ、とヒヨコ吸盤聴診器を奪い、わたしのシャツをめくって診察。認め印にみたいにポンポンとせわしなく押すので「もっとゆっくり診てくださーい」とお願いすると、じっくりと押し当て、神妙な顔つきに。今度はお医者さん交代とばかりに自分のシャツをまくって診察をせがむ。そのラリーが延々と続き、よく飽きないものだと感心した。

4月は二度も発熱に見舞われたたまは、5月は一日も休まず保育園へ行っていて、小児科にはひと月以上行ってない。聴診器を当てるのが遊びだけで済んでいることのありがたさを思う。平和と同じく健康も、それが続くと、「ある」子とに対して鈍感になってしまうけれど、平和も健康も、たくさんの人に支えられ、偶然や幸運に助けられて実現する「ありがたい」ものなのだ。

ちょうど先日、大学時代の友人の妹まーちゃんから「大阪府で新生児のマススクリーニングが有料になるかもしれない」という話を聞いた。マススクリーニングとは先天性代謝異常等の検査のことらしく、早期に異常を発見し、対処を急ぐことで重症化を防ぐ効果があるのだという。初めて聞く言葉だと思ったのだけど、生まれて数日後に足の裏から採血するという検査方法を聞いて、ああ、あれがそうだったかと思い出した。結果が異常なしだったこともあって、記憶にひっかかってなかったのだ。

けれど、検査で異常が見つかっていたら、その検査は忘れられないものになっていたわけで、まーちゃんの友人のお子さんが、そのケースなのだった。今でも治療は続いているけれど、早期発見ができたおかげで、体への負担は最小限に食い止められたという。このマススクリーニングは今のところ四十七都道府県で無料で実施されているのだが、大阪府の「事業廃止案」が通れば、全国で唯一「任意の有償検査」となってしまうことも初めて知った。同じことを新聞記事で目にしても通り過ぎていたかもしれないけれど、友だちの友だちの話となると他人事ではなくなる。

健康で何の異常もなくても、小さくて弱い赤ちゃんを育てるのは気苦労がつきまとう。便秘で泣き止まないだけで休日外来に駆け込んだ身としては、そのときに覚えた不安や焦りを数十倍に膨らませて、まーちゃんのお友だちママの闘いとがんばりを想像してみる。だけど、先天性異常を携えて生まれたことは不運であっても、早めに見つけられたのは幸運だった。それを得られたのは、検査が無料だったことが大きい。「お金がかかりますが、どうしますか」と聞かれたら、気づく機会を逃す人が出てくるだろう。だから、まーちゃんのお友だちは自らの体験をふまえて「有料にしないで」と切実な声を上げている。御堂筋パレードのイルミネーションもいいけれど、ちいさな命を輝かせることのほうが大切だ。

2007年05月27日(日)  大人計画『ドブの輝き』
2005年05月27日(金)  『シンデレラストーリー』@ル テアトル銀座
1979年05月27日(日)  4年2組日記 みんないっしょに

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