2008年02月07日(木)  映画『歓喜の歌』に感きわまる

今年最初に劇場で観る映画は昨年から観そびれている『続・三丁目の夕日』になるはずだったが、ロングラン上映館もずいぶん減って時間が合わず、『歓喜の歌』が急浮上。昨年観た『しゃべれどもしゃべれども』に続いてNHKの朝の連続テレビ小説『ちりとてちん』にはまり、わたし史上最高の落語ブームが来ている。立川志の輔の新作落語が原作ということで注目していたら、月刊シナリオに脚本(松岡錠司監督・真辺克彦さんの共同執筆)が掲載されていて、読んでみたところ、これはスクリーンで観なくちゃとなったのだった。

スクリーンで観て大正解! 脚本はもちろん面白く読んだのだけど、出来上がった作品は脚本から想像する以上に面白く、監督の演出のうまさに唸った。音楽の入れ方、小道具の使い方、キャラクターの味つけ、どれもさじ加減が絶妙で心憎くて、うまいとしか言いようがない。ひさしぶりにスクリーンで見る安田成美さんが、今まで見た中でいちばんかわいい、と思ってしまったのだが、キャストが皆生き生きとチャーミングに映画の中で生きていて、それぞれにしっかり感情移入して観れる。小林薫さん演じる主人公のダメダメ小役人ですら「憎めない人」から「愛すべき人」になってしまうのだが、人間の滑稽さをあたたかく見守る視線に落語と通じるものを感じた。

人は皆、毎日振り回されるように生きている。年末ともなるとなおさらだが、この作品が切り取っている12月30日から大晦日の二日間に凝縮された登場人物たちからは、そのリアリティがしっかり感じられた。自分の人生で精一杯の人と人がにっちもさっちもいかない状況に追い込まれ、一つの目標に向かって動き出す。どこにでも転がっていそうな日常の些細な出来事が積み重なり、動きそうにない山を動かしてしまう。そこにはこじつけも無理もなく、気持よく話が転がるに任せていると、いつの間にか奇跡が起こっている。飛び道具を使わずにそれをやってのける物語の展開のうまさにくらくらするような興奮を覚えた。

何度も吹き出し、ところどころでくすくす笑い、ときには大笑いし、ほぼ全編にやにやして観ていたら、ラストで涙が頬を伝ってきて驚いた。さあ泣きなさいとお膳立てされると、これは泣きそうだと予感があって涙を待ち受けるのだが、笑いでネジをゆるめられたところに、本人も気づかないさりげなさで涙が押し出されてしまった。じんわりとあったかい涙を気持ちよく流しながら、ああ、いい映画だったと余韻に浸っていると、クレジットロールの合間にお茶目なエピローグがついている。そこでもまた小道具の使い方に感心させられたが、最後の最後まで観客を楽しませようというサービス精神に脱帽ブラボー、映画はこうでなくっちゃとうれしくなった。

いい映画を観ると、誰かにすすめたくてたまらなくなる。これは誰にすすめようかと思い、浮かんだのが落語好きな母の顔。「小林薫さんの演技好きやわ」とも言っていた。大阪の実家に電話をすると、「ちゃんとリストに入れてあるでえ」。そういえば、母は昔、小学校の音楽の先生だった。安田成美さん演じるママさんコーラスのリーダーも小学校の音楽の先生だったという設定。わたし以上に楽しめるかもしれない。わたしが子どもの頃、母はNHKのラジオでよく落語を聴いていた。噺は断片しか覚えていないが、今わたしが落語を面白がれるのは、ラジオを聴いて笑う母を見た記憶が、根っことなって残っているせいかもしれない。

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