2003年03月29日(土)  中国千二百公里的旅 厠所編

★(注意 食事中の人、食べたばかりの人、これから食べる人は読まないこと)

前回はじめて中国に来たときの教訓は、「トイレはホテルで行っておくこと」だった。ウォッシュレットに慣れた日本人には少々強烈なトイレ=厠所(ツァソォウ)が中国では現役で頑張っている。ツアーコースにあった民族村のトイレに行ったとき、先に入った同行のツアー参加者に「見ないほうがいいよ」と言われて入口で引き返してからというもの、ホテルとレストラン以外のトイレには近づかなかった。だが今回は観光ではなく、マイクロバスで長距離移動の旅。ついに開かずの扉を開けるときが来てしまった。

記念すべきデビューの舞台となったのは、国道沿いにあるガソリンスタンド(一番よく見かけた中国石化集団のもの)に隣接した公衆トイレ。外見は日本の公園などにあるものとさほどかわらず、かすかな期待が胸をよぎったが、中に入ると、「あれ、こっち、男子トイレだっけ?」。開かずの扉を開けようと思ったら、扉がなかった。「でも、壁があるだけよかったですね」とS嬢。高さ1メートルほどの仕切りで3つのオープン個室に隔てられているのだった。

他の人と鉢合わせするのは避けたいので、S嬢と交替で入口を見張り合うことにする。3つのオープン個室を貫くのは一本の溝。汲み取り式便所というのは子どもの頃に経験していた(ポットン便所と呼んでいた)けれど、あれは匂い以外のものは深い暗闇が吸収してくれたので良かった。しかし、そこに待ち受けていた溝は深さわずか二十センチほど。もちろん水洗ではないので、覚悟はしていたものの、ご対面した瞬間、絶句と目眩と混乱が一度に襲ってきた。「どんなにきれいごとを言っても、所詮人間は汚す生き物なのだ」と一瞬で謙虚な気持ちになり、「生きることは罪なことだ」などと哲学めいた言葉が頭をめぐりだし、短時間のうちに悟りの境地に至るのだった。恐るべき厠所力。S嬢の感想は、「大人になった気がします」。同感。

男性陣にとっても新鮮な体験だったようで、バスの中でそれぞれ武勇伝を披露しあって笑い転げていた。日本ではトイレの話で盛り上がることなどないのだが、あまりに強烈な話は笑い飛ばすしかない。同時に厠所デビューしたロケハン隊の間には共犯者のような親しみが生まれて愉快だった。

■一度すごい厠所を知ってしまうと免疫ができて、後はあまり驚かなくなった。露天トイレも初体験したけど、「天井がなくても個室でよかった」とおおらかな気持ちになれた。通訳の女性によると、中国のトイレ事情はどんどん進歩しており、都心部では欧米や日本と変わらないらしい。「壁や天井のないおトイレは、わたくしのような都会育ちの中国人でも、びっくりします」とのこと。その証拠にホテルの公衆トイレはこの通り。絶滅の危機にある仰天厠所、体験するなら今のうちかも。

2002年03月29日(金)  パコダテ人トーク

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