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2005年02月25日(金)
冷たい灯
最初の印象は、この歳で随分と冷めた眼をする奴だと思った。自分の父親が拾ってきた子供に対して興味を示すわけではなく、突然の同居人に戸惑うわけでもなく、ただその漆黒の瞳で真っ直ぐに俺を見つめてきた。 父親が簡単に俺を紹介すると、そいつも名前だけの自己紹介をして、それで終わり。 それだけでそいつにとって『他人』がどうゆう存在なのか、何となくわかった。 「テッド君はお幾つなんですか?」 金髪の長い髪を一つに束ねた青年が、これで何度目かの質問を投げてきた。 グレミオさんというこの人は、この家の一切の家事を取り仕切っているらしく、先程から忙しなく働いている。 それは俺にとっては少し違和感を覚えるような光景だったが、この家では誰もがそれが当前だという顔をしていた。 勿論、俺の前の席に座っている少年――柳も。 「テッド君?」 「え!?あ・・・すみません、ちょっとボーっとしちゃって・・・」 「やっぱり最初は緊張しますからね。どうぞリラックスしてください」 「はぁ・・・」 別に緊張しているわけではないのだが、どうやらそう解釈されてしまったらしい。 わざわざ訂正するのも面倒なので、そうゆうことにしておいた。 それに多少落ち着かないというのも事実なので、それを『緊張』と言われればあながち間違ってはいないのかもしれない。 今までこの赤月帝国には何度か足を踏み入れたことがあったが、貴族の家、しかもかの有名な将軍家に厄介になるのは初めてだ。 この家の住人はこの二人の他にも、俺を拾ってくれたテオ様と、テオ様の部下だという居候が二人。 テオ様は皇帝陛下に呼ばれたとかで今はおらず、後の二人も供としてそれに付いて行ってしまった。 この大きな屋敷に三人だけといわれると随分と寂しい気もするが、グレミオさんが色々と気を遣って話し掛けてくるので雰囲気は暗くはならない。 しかし柳は無口な性分なのか、彼とは最初の挨拶以来言葉を交わすことがなかった。 だが、俺としてはその方が都合が良かったから、俺から話し掛けようとは思わなかった。 この家にも長居はしないだろうから、親しくされても困るだけだ。 「坊ちゃんと同じくらいの子が来てくれて、嬉しいですよ。仲良くして下さいね」 「えぇ、勿論――」 その場限りの社交辞令に慣れてしまった自分を自覚しながら、笑顔でそう答えた。 視界の端に柳が映っているが、彼は僅かに目を伏せたまま相変わらず我関せずといった態度で、その落ち着き払った様子は本当に子供かと疑ってしまうほど大人びていた。 「あ、そうだ。今日はテッド君の歓迎会をしないといけませんね」 「いえ、お気遣いなく・・・」 「テッド君の好きな食べ物は何ですか?ご希望があればどんどん言ってくださいね!」 「いや・・・あの、本当に・・・」 「そういえばテッド君の発音は私達のとは少し違いますね。ご出身は?」 「あー・・・えーっと・・・」 傍から見ても心底嬉しそうな弾んだ声での質問攻めに、俺は思わず閉口してしまった。 何となく、前にも質問ばかりしてくる鬱陶しい奴がいたなぁと思い出したが、今はそんな思い出に浸っている場合ではない。 勢いに圧されてしまって黙ってしまった俺を、グレミオさんが不思議そうに見つめてくる。 ああ、何か言わなきゃ。 なるべく普通を装って、印象を残さないように。 だけどこうゆう時に限って言葉というものは出てこないもので、声が喉の奥につっかえてしまった。 妙な空気が流れ始めたその時、不意に俺のものではない少年の声が響いた。 「・・・グレミオ、外」 俺は少し驚いて柳を見たが、柳は窓の方を眺めたまま更に続ける。 「雨が降るかもしれない」 「ああ、本当ですね。洗濯物取り込まないと」 見れば確かに窓の外は暗く、いつの間にかどんよりとした厚い雲が空を覆っていた。 雨が降るのも時間の問題だろう。 グレミオさんが慌てて外へと向かったのを見届けて、俺は再び柳へと目を向けた。 柳も俺に一瞬だけ視線を向けたが、すぐに何でもないのように逸らしてしまった。 そして俺は理解した。 こいつは、俺がグレミオさんの質問攻めに困っているのを見て助け舟を出したんだ。 わざとグレミオさんを外の様子に気付かせて、この場から離れるように仕向けるという方法で。 「えーっと・・・ありがとな」 「・・・・・・別に」 軽く笑って礼を言った俺に、柳は相変わらず平然とした態度を崩さない。 そして一度紅茶を飲んで、それから思い出したようにそれを口にした。 「アレは・・・暫く続くだろうから覚悟した方がいい」 「・・・まぁ、何とか頑張ってみる」 「悪い奴じゃないんだけどな・・・」 「それは、わかる」 柳が少し苦笑したような気配を見せたから、俺は内心驚きながら同じように笑った。 それが俺と柳との最初の会話らしい会話。 その時俺は自分でも意外なほどに自然に笑えた気がした。 何となくこいつとは上手くやっていけそうな予感がしたんだ。 いつか別れが来ても、寂しさなんかないんじゃないかと思うほど。 柳の『他人』に対する冷めた眼は、『他人』が見るからそう見えるだけで。 そこには色んな感情が詰まっている。 それを見ることが出来たら、多分、きっと、面白い。 --------------------------------------------------------------------- 柳とテッド。またもや書いたまま忘れていた小話。 この二人の場合、テッドの方が先に相手に興味を示しました。 そして色々なものに縛られている柳を見て、こいつはこのままじゃ駄目だと思ったのではないでしょうか。潰される、と。 そんな柳を救いたくて、少しでも自分は自由だと思って欲しくて、楽しいこととか嬉しいこと、あるいは辛いことも教えて。 テッドと接するうちに柳は少しずつ明るさを取り戻して、テッドもまた知らないうちに柳に救われていたのではないかと。 柳もテッドといる間は頻繁に笑っていたと思います。 彼らにとってかけがえのない時間。 今まで文章書けない時のリハビリに100題を利用していたのですが、その100題が終わってしまったよどうしよう。 とりあえず、少しずつ書けるようにはなってきた・・・か?(疑問形) **拍手お返事** >25日13時 ソウル→アルド、すばらしいですか!?(嬉) 内心爆弾投下するつもりで書いてみたら、意外と好評を頂けて、しかも賛同者がいらっしゃって、ひっそりと喜んでおります。 こうなったらいっそ嵌ってしまいましょう!是非お仲間に! |