終わりなき戯言
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2003年07月18日(金)
ルクセラ親子話



ハルモニアで『魔女』と呼ばれる子供を連れて来たのは数日前のことだった。
彼女は『魔女』と呼ばれるに相応しい力を秘めていた。
僕にはその力が必要だった。
知ってか知らずか、レックナート様は何も言わなかった。

暫く彼女は僕たちにどう接していいのか分からないようだった。
目が合うとすぐに逸らすし、話し掛けても一歩引いて怯えるように顔を俯かせた。
円の宮殿での彼女の待遇は決して良くはなかったらしい。
そして彼女の心の傷が深いことも容易に知れた。
僕は彼女を憐れに思った。
それを僕が口にする資格はないけれど。

ある日、僕がシンダルの書を読んでいると彼女が興味深そうにこちらをじっと見ていることに気付いた。
恐がらせないよう出来る限り表情を和らげて軽く手招きをすると、彼女は戸惑いながら僕の座っている椅子の傍に来た。
机の上の本が見えるようにと抱き上げて膝の上に乗せると、驚いたように僕を見て、それから本を見つめた。
「読める?」
僕は興味本位でシンダル文字で書かれたある文を指差して訊いた。
彼女はコクンと頷いてスラスラと声に出してそれを読んだ。
今度は意味は分かるかい?と尋ねると、もう一度頷いて、躊躇うことなく高く澄んだ声で答えた。
僕は一瞬驚愕して、凄い、と思わず声を漏らした。
その文は、あるシンダル遺跡に残された、いまだ誰も解読した者はいないという文だった。
彼女は遠慮がちにゆっくりと微笑んだ。
それは彼女が僕に初めて見せた笑顔だった。

それから暫くの間、僕たちは二人でその本を読んだ。
彼女がまだ理解できないような難しい言葉を僕が、僕が読めないシンダル文字を彼女がお互いに教え合った。

ふと胸の辺りに重さを感じた。
見ると、彼女が僕に凭れる形で眠っていた。
おそらくずっと気を張っていたのだろう。
目を閉じ、浅く規則的な呼吸を繰り返す彼女の表情は穏やかだった。
(・・・・・・困った)
僕は声に出さずに呟いた。
もうすぐ夕食の準備をしなければならない時間だ。
しかし僕に全体重を預け安心しきったように眠る彼女を起こすことがどうしても躊躇われて、僕は動くことも声を出すことも出来なかった。
どうすれば・・・と為す術を失い途方に暮れているところへレックナート様が通りがかった。
開いたドアの向こうから二人の様子を見て、あらあらというように口に手を当てて苦笑する。
僕はそんなレックナート様に、何とかして下さいと無言で訴えた。
しかし彼女は嬉しそうに微笑みながら、辛うじて聞こえるような小さな声でこう言った。
「大分疲れていたようですね・・・夕食は私が用意しておきますから、もう暫く寝かせてあげなさい」
「な」
「大声を出すと起きてしまいますよ」
そう言われて僕は口を噤んだ。
それからレックナート様はその場から離れようとして、一瞬考えて、閉じたままの瞳をこちらに向けた。
「そうしていると、まるで親子か兄妹のようですよ」
「レックナート様!」
いたって穏やかにそう言ってのける師に僕が小声で叫ぶと、彼女はクスクスと笑いながらその場を去った。
僕は憮然とした表情でそれを見送り、小さく息を吐いた。
『兄妹』ならまだしも『親子』はないだろう。
実年齢はともかく、僕は外見はまだ十代後半だ。
僕の腕の中で眠る少女が、少し身をよじる。
その顔は幼く、その肌は異常なほど白い。
その唇が僅かに弧を描いているのを見て僕は目を細めた。

「・・・・・・家族、か・・・」

END



子育てに困っているルックが書きたかったのですがね・・・。
子育てまだしてないよ。
とりあえず食事はルック担当。その他家事もルック担当。ルック=主夫。

最近ルクセラ親子がきてます。親子愛万歳。
あと破壊者もじわじわと。
SKIN by YUKIE