「ねえクラピカ。クラピカ? くーらーぴーかー」 これでもう何度目だ。さすがに読書に没頭しつづけることもできず、しかたなく本から目を離し続きをうながした。 「質問があるんだけど」 クロロはすこし背をまるめて、暗色の目をきらめかせながらクラピカの顔をのぞきこんでいる。 「夕食のことなら好きにしろ」 「そうじゃなくて」 それって意地悪? と言われて、そうした意図はないことを示すために本を閉じた。革製の栞をかるくはさんで。 「なんだ」 「×○○って、どういう意味?」 クルタのことばだろうか。特殊な音もほぼ問題なく調音できている。だが二世紀前に話者が消滅した民族言語−キリ語−の可能性もある。ふたつめの母音の音価がわずかに違う(クルタ語のほうが喉寄りで調音する)だけで、外部の人間にとっては同じ語に聞こえるだろう。どちらにしても中心的な意味は同じだ。 「副詞だ。さらに多くという意味だが」 「もっと、ってことだよね?」 たしかにそのように訳すこともできる。ああ、とみじかく答えてやった。 「えーと、♪∀、は?」 ひとつめの語ほど正確な発音ではないが意味は取れる。やはりクルタ語の可能性は否定できない。キリ語の可能性も捨てきれない。 「否定の意志をあらわす副詞だ」 「じゃあ▲☆○××は?」 今度は完璧だ。クルタ語に決まった。 「よい、という意味の形容、」 はっ。 「貴様!」 足技は膝頭で止められた。手首をとらえられ、手刀も無効に終わった。 「なんで怒るの?」男はクラピカのてのひらにくちびるを寄せ、しんから当惑したような顔をする。「すごく嬉しいのに」 クラピカの膝したに腕を通し瞬時にすくいあげて、腰にまきつけさせた。そして抱きあげる。 「照れ屋さん。どうしてそんなにかわいいんだろう」 「そんなことをぬかすのはおまえくらいだ」 きつく睨まれても男はまるで悪びれない。腕の檻から逃れようとしているクラピカの抵抗も、柳に風と受け流す。扉一枚へだてた寝室へと足を進める。 こうなったらこの男は止まらない。今晩あたりは相手をしなければならないと思い始めていたところだ、昼間でもしかたがない。 「おろせ」 どうせ聞く耳はもたないと知りながら、力を抜いてつぶやいた。 「うん」素直な、と思ったときには寝台にそっとおろされていた。「抱きたい、ってどういうの?」
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