un capodoglio d'avorio
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2004年05月13日(木) 富樫ヨーコ・佐藤洋美(編)「加藤大治郎」

一周忌を迎えて、加藤大治郎を追悼する図書が講談社から出版された。カラーの写真がたくさん載って、それを挟んでかつて彼を知った様々な関係者の短いモノローグが並べられているという構成。実際は取材で得られたテクストもあるのだろうけれど、編者がそれをモノローグという体裁にしていると思われる。でも、どかはこの構成は、好感を持った。シンプルで淡泊な編集には、かえって大ちゃんへの誠実な思いや敬虔な態度がにじんでいると、どかは思った。

で、実際、どかはまだ最後まで読めてなくて。だって、泣いてしまうんだもん、どうしても。

・・・

ここに収録されてるモノローグは、ふたつの性格に分かれていると思う。ひとつは、彼の「速さ」について。もうひとつは、彼の「人柄」について。たしかに大ちゃんは、誰からも愛される本当に優しくてジェントルマンだったみたい。でも、、、どかは、彼の「人柄」について賞揚する資格を持たないと思うから、それは触れない。そういうのは、ここにも収録されてるけど、遺された家族の方や、チームのメカニックさん、個人的なつきあいがあった方だけにのみ許された領域だと思うから。

だからどかには、彼の「速さ」について語った言葉こそ、胸に刺さる。「速さ」とは客観的な結果である。時計的なラップタイムにしろ、鮮やかなパッシングにしろ、それは絶対的な尺度である。スピードは完全な価値であるからだ。そして、だからこそ、ここには切なさがある。

例えばMOTO-GPの主要なライダーは大体、寄稿している。そして全員が(ほんとうに全員が!)彼は、いずれMOTO-GPのチャンピオンになっただろうと語っている。日本人ライダーのみならず、スピードに身を捧げてきた全てのリアリストがそう語っているのだ。グレシーニ、メランドリ、ビアッジ、バロス、カピロッシ、ジベルナウ、もちろんロッシも。そして、ドゥーハンやロバーツSr.といったスーパースターまでもが、加藤大治郎という才能を1流以上のものだと認識していた。もちろん、坂田和人や上田登、青木兄弟、中野真矢そしてなんと、平忠彦も、彼の速さの証言者だ。

また、上記寄稿者の何人かは、加藤大治郎はイージーミスが少なかった実に堅実なライダーだったと証言している。彼のミス以外のなにかしらの原因がアクシデントの主因では無いのか、という意味でである。

  大治郎はアクシデントからは一番遠いところにいるライダーという印象
  (武石伸也・元全日本スーパーバイク・ライダー)

  自分の能力以上のことをやるライダーではなかった
  (遠藤智・GPジャーナリスト)

  いくら改修されたといっても、
  大治郎がもっとも得意としていたコーナーで何が起きたのか
  (宗和孝宏・元全日本ライダー)

彼らの無念さが伝わってくる。1年という節目に発行されたこの本は、あのアクシデントの幕引きになることだけはあってはならない。

そして、、、大ちゃんのスピードには、涙も追いつくことなんてできやしない。そう思ってたどかを、完全にうちのめしてくれたのはノリックと原田哲也のふたりの文章だった。

ノリックは、幼い頃から親友の大ちゃんの死は、いま走り続けている自分にとってもすぐそこにあるものなのだと「体感」し、そしてそこに踏みとどまることへのリアリティを自分の言葉で語ろうとしてくれている。どかはそこに、GPライダーの誇り高き勇気があると思った。どんなに辛い痛みも、それを麻痺することで逃れるのではなく、痛みそれ自体を、身体に受ける風として感じ続けて走ることなのだ。それを麻痺して逃れてしまったら、ただの暴走族に如かない。GPライダーの美しさとは、その痛みに耐えながらアクセルを開ける、その勇気だ。

そして、原田哲也。どかは、大ちゃんが逝去した後に大ちゃんのあとを継いでRC211Vで走ってたライダーのことはキライじゃないけど(好きでもないけど)、どうして原田サンを走らせないんだってかなり憤ってた。大ちゃんの才能に匹敵するのは、原田哲也だけだ。コースクリア時の大ちゃんのラップタイムと、ドッグファイトの混戦における原田サンの凄みこそ、日本が世界に誇れる「スピード」だとどかは信じていたからだ。でもあとから聴いた話、やっぱり原田サンにオファーはいったらしい。何で、受けなかったんだろ?そう思ってたどかに、彼のモノローグは応えてくれた。どかは・・・。涙があふれた。そして、自分の不明を心から恥じた。どかは何もわかってなかった。何もわかって、なかったんだな・・・

  絶対に乗ろうとは思わなかった。
  僕は自分のマシンに他のライダーが乗るのが嫌でした。
  大治郎も同じ気持ちだろうと思ったからです。
  (原田哲也・元250cc世界チャンピオン)

どかはまた、GPを観ようと思った。観なくちゃいけないと、思った。


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