あたろーの日記
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旧暦8月13日。 昨日一昨日と飲み会だったので、今日はさすがに残魚。終電がなくなる時間でも、自転車だと気にせず仕事に励んで(?)いられる。明日から3連休なのでなおさら張り切って(?)働く。 駅前の24時間営業の本屋さん。午前1時近くというのに、大盛況。どこからこんなにわらわら人が湧いてくるのか。『生きる』(乙川優三郎・文春文庫)を買った。乙川優三郎の文章は、ほかの時代小説家のそれとはひと味もふた味も違っていて、藤沢周平や池波正太郎も好きだけど、この人もまた同じくらい好きです。しっとりとした中に優しさの眼差しを緻密に張り巡らせたような文体。人生の哀しさを静かにすくい上げて包み込むように作品の中に表現している。多作でもないし華やかさもない感じの作家ですが、希有な書き手だと思います。 今朝、出勤途中に、タクシーとぶつかってしまった。と言っても、青信号を渡っていたら、横断歩道の数十センチ手前で止まっていたはずのタクシーがひょいと動き出して、私の自転車の後輪に、ぼて、という感じで当たっちゃったのです。ありゃ。 なんで動くんだよー、と、運転手に文句のひとつでも言って、自転車の修理が必要かも知れないので連絡先も聞かなきゃ、と思って自転車止めて運転手が降りてくるのを待った。すると、乗客を降ろして運転手が・・じゃない、運転手さんがおろおろと降りて来た。40代半ばとおぼしきその運転手さんは、かなり恐縮していて、気が動転しているよう。そしてひたすら頭を下げて謝って、何度も大丈夫ですかと聞いてくる。私のほうは身体にはまったく衝撃を感じなかったし、転んだわけでもない、ただ自転車がカタカタいっているので、チェーン外れちゃったかなーそれくらいなら修理不要かなー程度に思っていたので、運転手さんの慌てぶりにちょっと気の毒になってしまった。しかし、運転手さんは「逃げも隠れもいたしません、誠意を持って修理代や医療費をお支払いさせて頂きますので」と言ってくれる。で、お客さんに渡すはずだったレシートの裏に、自分の免許証を私に見せながら、住所と名前と電話番号を書いてくれた。もし自転車屋さんで修理してもらうようなことになったら、連絡をください、お支払いいたしますから、と言ってくれる。私もいちおう、自分の携帯と会社の電話番号を渡す。たいした事故でもないし、どころか、事故というほどのものでもないしなー、運転手さんもこんなに反省しておろおろしてしまっているし、けろっとしている私より何倍も気の毒に思えた。私の身体と自転車になにか不具合が発生してないかどうか、必ず連絡をくれないと不安で夜も眠れない、と何度も繰り返す。 幾度も頭を下げる運転手さんと別れて、会社に向かう。自転車がやはりカタカタいっている。でも、チェーンがちょいとずれてしまっていただけで、自分ですぐに直せたので、10分足らずで会社に到着。 ところがさきほどの運転手さんから会社に電話がかかってきた。無事についたか心配してかけてくれたんだ、そこまでされると申し訳ない、と思っていたら、「あの後、やはり警察に届けなければならないと思い直しまして、駅前の交番に来ております。ほんとうは被害者の方も一緒に来て頂かなければならないそうなのですが・・・」と申し訳なさそうに話す、と、受話器の向こうの声が突然変わって、警察官に。「あーあんたが○○さんですかね、わたすは○○交番の○○という者ですがね」と、思いっきり東北訛りのお巡りさんなのであります。「それで本来ですと当事者両方とも来て頂かなきゃならんのですがね、まあ会社行っちゃったってことだからね・・・で、この電話で申し訳ないんだが、状況をお聞かせ願いたいんですがね」「あ、はい」(参ったなあ、あんまりコトを大きくしたくないんだけどなあ。運転手さんいい人だしかなり反省してるし落ち込んでるしなあ・・・ああでも真面目にちゃんと交番行っちゃったかあ・・・) 「で、あんた身体のほうはどうかね、具合悪いところありますかね」「いえ、ぴんぴんしてます、ぶつかった衝撃はまったくありませんでした」「そうかね・・・うんうん、で、自転車のほうはどうかね、どこか壊れているような所はないかね」「はい、あれから問題なく漕いできました。最初ちょっとだけチェーンが外れてたくらいで」「あ、チェーン外れちゃったかね・・・そりゃ、事故だな。うん、事故になるな、ふむふむ」「えっ、あ、でも自分ですぐに元に戻せて問題なく・・・」「チェーンが外れたっつうことになると、こりゃ事故なんですわな」「・・・・はぁ・・・」(あちゃぁ) 「で、自転車のメーカーはどこですか?ブリジストン・・?」「あ、いえ、ルイ・ガノです」「あ?ル?」「ルイ・・・ガノといいます」「そりゃあ外国製かね?」「はい、フランス製です」「フラ・・・んまたえらい高級なのに乗ってるねえ!」「いやそれほど高いわけでも・・・(アパートの家賃よりは確かに高いけど、忌野さんには遠くおよびません)」「いや高いわさ」「そうですかねあははははっ」「はっはっはっはっ!!!」(笑いながら運転手さんが椅子の上に縮んでいる様子が目に浮かんで胸がちくりとする。。。) お巡りさんの事情聴取を受け(オール見事な東北イントネーション)、最後に、そんなにたいした事故じゃなかったので穏便に計らってください、と言いかけたんだけど、必要なことを聞き終えるとさっさと運転手さんに電話が替わった。 あれからすぐにご自分の所属するタクシー会社に連絡をとったこと、被害者が怪我をした場合であればタクシー会社からきちんと費用を払ってくれること等々話してくれて、明日の夕方念のためその後の状況を聞くために電話をします、と何度も何度も謝りながら言ってくれた。 運転手さんがすごくいい人で、こちらが気の毒に思うほど反省していて、なおかつその後の対応もしっかりしてくれたので、こちらとしてはまったく問題ないのですが、私がぴんぴんして仕事してる間も、彼は凹んで会社に報告したり警察行ったり、精神的にも仕事にならないんじゃないかなあと思うと、やはり気の毒だ。青信号で横断歩道を渡る自転車にぶつけてしまったとはいえ、たいした事故ではなかったのに、タクシー運転手という彼のキャリアに「事故」っていう傷がついてしまったのは、可哀相です。職業が職業だけに。 それにしても、自動車も自転車も、人間が運転するものだけに、自分の身を守るためには常に慎重に走らなければ、と思ったのでした。
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