あたろーの日記
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2003年11月19日(水) らい病

 友達と食事。
 豆腐や湯葉をふんだんに使った創作料理の店。落ち着いた和風の造りの店でとても好きになった。料理も美味しいし。

 毎日がめまぐるしく過ぎていく。けれど、手元に確実な手ごたえが残るわけではなく。ただただ必死に波を掻き分けて進んで来たはずなのに、振り返るとまだすぐ背後に岸がある。お互いにそんな年齢。 
 自由な海原にいるはずなのに、長く泳ぎ続けるための道具がない。道具を揃えずに泳ぎ出せるほど無防備にはなれない。そんな年齢。
 波間で途方に暮れる者同士だからこそ理解しあえる想いもある。
 話せば心が軽くなることも多い。

 
 九州で元ハンセン病患者の人達の宿泊を拒否したホテルがあったそうで。
 すぐにほうぼうから非難の声が上がり、支配人が謝罪するに到った。それは当然だけど、実際はそのホテルだけでなく、日本全体がそういう病気に対してまだまだ差別意識を捨てられないのでは、と思う。拒否したホテルを非難する声がマスコミに大きく取り上げられていても、ほんとは表に聞こえてはこないけど、自分だったらそういう病気の人と同じホテルに泊まるのはいやだ、という思いを抱えた人は少なくないのでは、と思ってしまう。日本の社会の体質が、数十年でそれほど大きく変化するとは思えない。被差別部落に対する差別がいまだに存在するように、ハンセン病に対しても、差別意識は依然残っているのではと思う。
 「いのちの初夜」(北条民雄・角川文庫クラシックス)。東村山のらい病(ハンセン病)患者が暮らす病院で、24歳の若さで亡くなった北条民雄の小説集。らい病棟で暮らす人達の日常を、生を、死を、ありのままの視線で、リアルに描き出す。発病が分かれば近所にも知らせず、そっと家を出てらい病院に入り、一生を、短い一生を、世間とは完全に隔絶された病院で送ることになる。残された家族が世間から差別を受けないように、元の名前も変えて、家族との繋がりも断ち、外出もできず。菌に侵されて溶けていく顔、溶けて朽ちていく腕や足を眺め、うめき、苦しみ、死がひたひたと自分のベッドに迫り来るのを感じながら、毎日を閉ざされた病院の中で過ごす。まだ症状の軽い患者でも、重病の患者を目の当たりにすれば、やがて自分の行く末を見るようで、それがどんなにつらいことかは想像を絶するほどだったろうと思う。
 北条民雄が自分の持てる限りのエネルギーを創作活動につぎ込んで作品を残してくれたおかげで、今それを読むことができるのを感謝する。その中で、凄まじいほどの生命力をらい病棟の登場人物達に感じる。自分の体と、感情と、生と死を、これほどまでに身近に感じざるを得なかった人達の、病院の内側から見た真の姿。差別される側の想い。
 なにより、この小さな文庫本にぎっしりつまった生命力に圧倒されて、私はこの本を手放すことができない。大げさではなく、私の人生観に強い影響を与えた本だ。
 


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