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2003年03月30日(日) うぇぇ〜ん、またクレしん映画に泣かされちまったよぅ

くそぅ、いい作品作りやがってぇ、原監督め...。

毎年、この春の番組改編期に次回作の宣伝も兼ねて放映している『クレヨンしんちゃん』の劇場版。昨年に公開された『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』が大評判だったので、録画しつつ鑑賞する。

いつもこの時期に何気なくテレビを付けていると1年前の映画版作品をやっているので幾つか観る機会があったが、クレしん映画は私的には本当にハズレがない。特にここ3年間は素晴らしい出来になっている。2000年の『嵐を呼ぶジャングル』では物凄いアクション描写と男に生まれたからには誰もが一度は通るヒーローへの憧れをたっぷり練り込んだストーリーに涙し、翌2001年の『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』では物がなくても希望があった過去の時代に夢を見続けている悪役に共感しつつ、いま現実の世界に希望を見い出し必死に未来へと生きようとする野原一家の姿に号泣(これ、30代後半以降なら絶対泣くと聞いてたのに78年生まれのおいらですらわんわん泣かされた)したワタクシ、当然この『戦国〜』でも涙が止まりませんでしたよ。

身分の違いに阻まれた悲恋モノのストーリー、劇中での車に馬がどんどん引き離されていく場面や合戦前夜に庭の木から花が次々と落ちていく場面などの暗示的な描写、泣く映画という評判からしてこの作品の準主役である又兵衛が命を落とす事は予想できたものの、まさかあんな風にして亡くなるとは...。命の儚さをまざまざと見せつけられた気がする。又兵衛が息を引き取る間際に受け取った脇差しで金打(きんちょう)するしんちゃん、現代に戻った後に「あっ、おまたのおじさんの雲だ」と空を見上げる野原家族、天正の地で同じ様に涙を流しながら空を見やり、「おい、青空侍」とつぶやく廉の姿で締め括られるまでの数分間は涙なしでは観られない。そして、クレジットとともに流れるダンス☆マンの「♪遠く遙か向こうずっと見つめてる君は何を探しているの……」という歌声にまた涙が止まらない。けれど、悲しいながらも実に爽やかというか、清々しいというか、重苦しく終わらないところが唯一の救いといえるのではないかな、と個人的には思う。

それにしても、この映画、恐ろしい程に時代考証がしっかりと為されている。特に合戦シーンは見応え十分。畑を荒らして相手を挑発したり、鉄砲・弓矢に続いて投石で攻撃したり、竹垣でそれらを防ぎつつじわじわ進軍したり、日が沈んだら引き上げたり、と当時の戦ってえのはこんな感じやったんやろなー、と思わせる描写と迫力ある動画にただただ圧倒。しかも、お子様に配慮して敵兵を殺すえげつない場面は極力フレームアウトして声だけで表現している。この一連のシーンは近年の大河ドラマ以上と言っても過言ではない。その他にも、廉が水を飲む所作であるとか、手を振ってお付きの人間から「はしたない」とたしなめられるくだりで姫から目をそらす家臣であるとか、城郭の構造とか、兎に角リアリティがありまくりで本当に感心した。

時間移動の描き方も秀逸。しんちゃんが文箱を埋める事によってはじめて他の家族が天正2年にやって来る事が出来る、というのは無理がなくていい。最後に野原一家が元の時代へ戻っていく様子も見送る廉の表情ひとつで表現されているのも素晴らしかった。元々落命する運命にあった又兵衛がしんちゃんに命を救われながらも結局は亡くなってしまうという歴史改変モノの王道を取りつつ、又兵衛に大切な人と国を守る働きをさせる為にやってきた存在であるしんちゃん達がその又兵衛の死によって現代に帰れる事になる、という設定もこじつけ臭くなくてとても良かった。

ギャグ漫画の映画にも関わらずあまり爆笑する場面のないこの作品ではあるが、ちゃんといいタイミングでテンポ良く笑かす所を挟み込んでクレしんらしさを保っているのも流石。敵の本陣で刀と間違って手にしたボディブレードでの一撃、続いて股間への頭突きで敵の大将をノックアウトさせるシーンには腹を抱えて笑い転げた。やっぱり喜怒哀楽全ての要素が詰まっているからこその『クレヨンしんちゃん』だと言えるだろう。そしてクレしん作品全般の根底に流れ続けている家族愛。「しんのすけのいない世界に未来なんかあるかっ!!」と方法も判らないのにすぐさま過去に行こうとするひろし、敵将に斬りつけられる我が子を捨て身で守るみさえ。家族の大切さ絆の重さを決して説教臭くせずに受け手に伝えているのも好感度大。「おじさん、偉いんだろ。おじさんのせいでこんな事になったんだぞ。それなのに逃げるのか?」のシーンは是非ともフセインとブッシュに見せてやりたいもんだ。

いやー、しっかしホントにいい映画っす。個人的にはしんちゃんがいつものキャラでちゃんと大活躍する前作の「オトナ〜」の方が好みだけど、この作品もとてもイイ!!批評サイト等をあちこち見て回ったら“別にクレしんでやらなくても”的な感想をちらほら散見したけれど(中には実写で出来る、というのもあったけどコレの合戦シーンを実写で出来るだけの予算が今の日本映画界にあるんだろうか?)、やっぱり適度にギャグが挿入されていて、しんちゃんがいつもの様にバカやったり悪者に啖呵切ったりするからこそ、重くなりすぎずに爽やかに笑って泣ける映画に仕上がっている様に思う。ま、この作品は間違いなく臼井儀人さんの『クレヨンしんちゃん』ではなく、『クレヨンしんちゃん』の枠組みを使った原恵一さんの時代物活劇ではあるけれど...。

そんなこんなで、録画しておいたのをもういっぺん頭から観ると更に泣ける泣ける。初見の時には何とも思わなかった、廉の握った塩の利きすぎた不格好なおにぎりを又兵衛が誰が握ったとも知らずに口に放り込む場面でもう嗚咽。ひろしから未来の話を聞いた春日城主が乱世の虚しさを悟るシーンで、結局はこの後に野原家族が活躍したところで廉の想いや願いは成就しないしこの春日という国も少し延命しただけでいずれは消滅するんだなぁ、とまた涙。しかしそういう悲しさ切なさと同時に、日本の先人達が築き上げてきたものの大切さ、日本人の持ち合わせてきた心意気、ぼーっと青空を眺める事が出来るのがいかに幸せであるのか、という事を教えてくれた様な気がした。子供にとっちゃあ難解で悲しいだけの映画かもしれないが、きっと何かを感じ取ったに違いないと願う。『フランダースの犬』をはじめ、子供向けでバッドエンドな作品がそれに接した子供に好影響を与えた例だって幾つもあるんだし。

ところで、クレしんって未だに“子供に見せたくない番組”の上位なんだってね(逆に見せたい方は『ドラえもん』や『サザエさん』等だそうな)。一応、今作品は文化庁メディア芸術祭大賞をはじめとして色々な賞を受けている様だけれども、それでもやっぱりPTAを牛耳るザマス眼鏡をかけた厚化粧なおばはん(←こんなステレオタイプな奴はそうはおらんとは思うが...)どもは「こんなお下品なの観ちゃ行けませぇぇぇ〜ん」とかやってるのだろうか。んなテレビアニメの影響をずっと受け続けながら大きくなる奴なんざいる訳ないし、悪影響とされるものから隔離された子供がどんな風になるかを考えた方が怖いし、第一に親がちゃんと躾してりゃ済む話だし(つーか、作品中でみさえは毎回げんこつ食らわせたりして悪い事はダメとやってるし)、そもそも原作は大人視点から見た子供の行動を描いた話が主であってその辺のガキが自然にやってそうな事をデフォルメしてるだけなんだから目くじら立てる程のもんでもないと思うんだが(親の立場だと捉え方は全く違ってくるだろうけど)。もし、今現在でもクレしんは害悪!とかやってる人がいたら、その人は恐らく中身を見ずに表層的なところでしかものを見る事が出来ない可哀想な人なんだろなぁ、と思う。

ところで、クレしんって現在40ヶ国以上でテレビ放映されているらしい。世界各地(たぶん規制掛かってる国もあるやろうけど)でガキが「ぞぅさん」とか「ケツだけ星人」とかやってるのかなぁ...。


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