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創作帳
ささめ
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2005年02月10日(木)
初頁

僕は今、真っ白なノートに向かっている。
何か溢れ出しそうな心だとか感情だとかを書き留める為に、
さっき文具屋まで行って買ってきたノートだ。
だが、こうして30分40分と経っても、ノートは白いまま。
書きたいことはたくさんある筈なのに、だ。
外は強い風で、がたがたと窓のサッシが五月蝿く鳴っている。
僕は、最近あったことを思い出そうと躍起になっている。
鉛筆を握り締めた手が、白くなっている。

「君はいつもそうだ」

不意に、誰かの声が聞こえた気がした。
思わず顔を上げたが、当然、誰もいない。
部屋の隅で、ガスストーブだけが赤く光っている。

「表現するための手段を手に入れて、漸く中身が無い事に気付くんだ」

声は続く。
そんな馬鹿な。
だって、書きたいことはたくさんある。
たくさんあるんだ。たくさん。

「ノートを買った時点で満足したんだろう?」

馬鹿な。
馬鹿な。
鉛筆を握り締めた手が、汗を帯びる。

がたん。
また一つ、強い風が吹いた。




ノートはまだ白い。







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こんな心境です。
いきあたりばったりってダメですね(ほろり



2005年06月15日(水)
2頁 『電脳箱の分身に関して』

ひたり、と白い足が床に落ちた。
まだ幼い女の右脚。さらにひたりと左の。

ひた、

ひた、

冷たさを思い起こさせる平坦な音が歩む。



見やれば薄昏い闇。

隔て、隔てた彼方にかつての居場所。
傍らに居た筈の人々。

隔てたのは自分だったと思い出せども、
記憶はどろりとまどろむ泥の底。
掬わんと思えど、気だるい腕は沈黙の底。

遠い。

遠い。




ひた、    ひた、



  ひたり。




いつしか止まった歩みのままに、
黒い瞳がひたりと閉じた。



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戻りたい、戻らねばと思うのですが、
正直なところ、気が乗りません。
離れすぎたんだろうなと思います。
…悩むばかりで日々が過ぎます。

決着をつけねば。



2005年07月09日(土)
3頁 『愚痴』

「大体」と彼女は言った。


「可笑しいのよ、あんたたちのそのヘタクソな芝居!三文芝居がいいところ、っていうか三文にもなりゃしないわ、あんなの。一銭の得にもならないの。わかる?一銭の!得にも!ならないの!!…っていうか、むしろ私達には損でしかないのよ。別に、別にいいのよ?出来たなら出来たで。ラブラブしたいってんならそうすればいいんだってば。いちゃいちゃ〜ってしてなさいよ(笑)ただね、ちょっと聞いてちょうだい。耳の中よーく掃除して、そのこうるさい口チャックで結んで、じっとして聞いてちょうだい。いい?言うわよ?一言だけ、一言だけ聞いてくれればいいの。ついでに言うと、それを心ん中刻み付けておいて欲しいの。いい?言っちゃうわよ?きちっと聞いて、きちっとしてちょうだいよ?“俺は前の責任者とは違う”ですって?そう豪語するくらいなら、しっかり対応してくれるんでしょうね?えぇ?聞いてるの?白い顔して何ぼんやりしてんのよ!聞けって言ってんの!聞きなさいよ!ちょっと、あんた聞いてるの?何度も言わせんじゃないわよ!



──…公私混合するんじゃないっつうの!!!!」












彼女の部屋の壁が最後にくらったのは、
やわらかい枕の体当たりだった。


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寝酒に愚痴はつきものです。
ってお話。



2005年11月06日(日)
4頁 『猫』


猫がいなくなったのは、丁度3年前のこのくらいの時期だった。
2〜3日、彼女の姿を見ずに過ごして、はてと思ったのを覚えている。
動物の癖に、どこか抜けていた彼女は臆病者でもあったので、
屋根裏や納戸に隠れてしまうことも少なくなかった。
そういったこともあって、とりたてて騒ぐことではなかったのだが、
あまりにも彼女の痕跡が見つけられなかったのが疑問であった。
「きっと今回は遠くまで行ってしまったんだろう」
また、どこぞに遊びに行って犬にでも吠えられて蹲っているのだろう。
そのように考えても見たが、少し胸騒ぎがしたように思う。
…いや、あまり考えてなかったのかもしれない。
今になって“そういえば”と思っているだけかもしれない。
ただ、不意に怖くなって彼女を探しに行ったのは確かだ。
私が所用で何日か出かけることになっており、その前に彼女の無事を確かめたかったのだ。
「ねこ、ねこ」
といつのまにやらついてしまった彼女の名を呼びつつ、
私は家の中や、裏の堤防、店に面した表通りを歩いた。
夜分のことだったので、目の悪い私にはちょっとした苦労だったが、
それよりも安心したいという気持ちの方が強かった。
そして、ちょうど家の後ろ半分、倉庫になっている部分の脇で、私は猫の声を聞いた。聞いた、と思う。
それは切羽詰ったような声にも、ただ返事をしている声にも聞こえた。
私は何度も彼女を呼んだ。
そうすれば、彼女は出てくることもあったし、同じくらい出てこないこともあった。
出ておいでと私は何度も何度も呼んだのだが、この夜も彼女は出ては来なかった。
いやだな、とは思ったが次の日には遠方への出発を控えていたので、
私はそこであきらめて眠ることにした。
猫は私としばしば一緒に寝るのだが、その夜も彼女は姿を現さなかった。

幾日かして、私は帰ってきた。
旅行の間も猫がいないことは私を不安にさせていたので、
まず家族に「猫を見たか」と聞いた。答えは否だった。
餌場を覗けば、彼女の皿は綺麗に片付いていた。
こっそりと彼女が帰ってきていたのかもしれない。
近所の野良猫に食べられたのかもしれない。
私はまた家の裏手、川沿いの堤防の上を彼女を探して歩いた。
このころには私の胸には嫌な予感が常に存在していた。
いっそ神にすがる思いで馬鹿な賭けをした。
「もし、もういなくなったのなら振り返った瞬間に何かの兆しがある」
その時の私は川を背に立っていたので、振り返る先は川だった。
私は振り返った。
何も起こらなかった。
だが、なんともいえない奇妙な予感がした。
その時の景色は今でも覚えている。
薄い灰色の空、灰色というよりもうすく汚れた白い空。
日の暮れる“夕暮れ”になる寸前で、すべてがうっすらと白かった。
私の視界の真ん中から左にかけて、鳥の群れが飛び立った。
…私は賭けに負けた。

何日もしないうちに、彼女は見つかった。
やはり、というべきか。
声を聞いた側の隣の家、その屋根の上で死んでいたそうだ。
隣の小父さんが教えてくれたので、父が引き取ってくれていた。
私は仕事をしていた。
帰って彼女の姿を見るのには時間が必要だった。
大きく膨らんでいて虫が湧いている、と父が言った。
寒い日だったが、前日の雨でそうなったんだろうとも言っていた。
見るのが怖かった。死んだ近しいものをみるのは初めてだった。
父についてもらったが、私があまりに震えるので父が手を握ってくれた。
彼女は、濁った目をしていた。
ダンボールに入った彼女を運んで、私は穴を掘った。
仕事が終わった後だったので、どんどんとあたりは暗くなっていった。
途中から懐中電灯を用意して掘り続けた。
穴を掘る私の横で、ダンボールはときおり音をたてた。
腹が割けているというのを聞いて箱ごと埋めようと思っていたが、
固い地盤にあたってしまったのであきらめた。
大事にしていた服を一枚敷いて、その上に猫を落とした。
そのころには妹も一緒にそばにいてくいれていた。
最後に、彼女の額をなでてやった。

盛った土の上に大き目の石を置いて、裏にあった花をさしてみた。
手を合わせてみたが、何を思えばいいのかわからなかった。
ただ、謝ることだけはできないと思った。
私は彼女を見捨てた。もっと探しておけば助けられたかもしれない。
最愛だ大切だといっておきながら、助けられなかった。
あの声は彼女のものだったかどうかもわからない。
でも、苦しかっただろうな、とか痛かっただろうなと思った。

それが一昨年の11月7日。
祖母のなくなる一月前だった。

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祖母の三回忌で、そろそろ区切りをつけようと思いまして。
思い出しつつ書いております。見苦しくてすみません。
ちょっと厚かましくなって自分自身も許してあげたので、
まぁ、ふんぎりつけようかなーと。



2008年12月30日(火)
5頁 『誤算』

忘れてる、と思ってたの。
あれから何年も経って。
私だって、私の周囲だって変わってしまったわ。
あなたも、きっと、そう。
そう、思ってた。
たまに思い出して、懐かしいなって思うくらい。

でも、違った。

やだな。
私ったら、あの頃と何も変わってなかったみたい。
ふふ。これって、進歩してないってことなのかな。

けど、ちょっとだけ安心しちゃった、なんて。
やっぱり私も変わったみたい。

ね?



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ここのパスが、他のとこで今も使ってるのと一緒だった!
っていうだけのお話です。変わってないですね、私。
さて、せっかくなので有効利用したいところですが。

いやいや、はてさて。