ジョージ北峰の日記
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2009年07月15日(水) オーロラの伝説ー続き

 XXVIII
  予期しない核戦争が勃発してから、国際社会は大混乱に陥っていました。国連は戦争当事国に停戦を求める一方、広範囲に及ぶ放射能被害にどう対処するか、又難民をどのようにするか、さらに核爆弾が何処に隠されているのかについて早急に情報を収集し、引き続き核爆発による被害を蒙らないよう対策を講ずる---など国連主導の国際会議が連日開催されていました。
  核爆弾の使用は、地雷や機雷のように被害が局地だけで済む訳がなく、戦争当事国の勝ち負けとは関係なく被害が地球全体に及ぶのです。
核兵器を何千発保有していようが、使うことが出来ないことは専門家でなくても誰でもが分かっていたことなのです。核戦争には勝者も敗者もないと。
しかし大国は核兵器を保有することによる国際社会での地位の優位性を望み、後先を省みることなく核兵器の開発に全力を挙げてきました。
しかも核爆弾の規模、性能は広島や長崎に投下された当時とは比較にならないほど肥大化していたのです。
さらに困ったことは、核兵器が安易に拡散し始めたことでした---。
長崎、広島に原子爆弾が投下された時、人間は、パンドラの箱を開けていたのでしょうか。

  広島、長崎の被爆の経験から放射能に対する知識が深まり、核兵器は保有すれど使用不能な兵器と位置づけられていた筈なのです。 
だから今回の核爆発は“まさか”の事態で、国際社会も対処方法がありませんでした。地球が初めて手の付けようもない巨大な核被害に直面したのです。
  国連では、各国が協力して難民の受け入れ体制をプログラムしたのですが、実際行動となると各国の思惑に相違があって、行動計画は思うように進みませんでした。
  会議では「戦争を仕向け、背後からバックアップしていた国がある」とか「この事態は豊かな先進国が世界を搾取してきた結果だ。その責任は先進国にある」とか色々、先進国に対する責任論が噴出していたのです。

 一方先進国も資本主義が行き詰まり未曾有の経済危機に直面していました。先進国の経済力は自国に対してさえ対処できないほど疲弊し切っていました。
  そんな経済不況下で、各国が対応策を躍起になって模索している最中、今回の核爆発が勃発したのです。
  現状では、先進国と雖も難民の受け入れは、自殺行為でした。

  しかし、事態は予期しない方向に展開し始めたのです。これまで全く世界的には注目されなかったZ国が、国際社会の援助が保障されるなら、難民を受け入れる用意があると表明したのです。 Z国は決して豊かな国ではありませんでした。
  しかし、国連総会でZ国の大統領が「文明国の豊かさは、豊かであるがゆえに難民を救うことが出来ないのです。私達の国は豊かではありません。しかしだからこそ、私達は難民を受け入れることが可能なのです。私達は難民の人々と一緒になって国起こしが出来ると考えるのです」と演説したのです。しかも加えて「唯一の被爆国、日本は戦後、経済的にどん底を経験したが、それがバネになって立ち上がりました。規模は違うが、今の状況は当時の日本とよく似ています。皆が心をひとつにすれば、必ず明るい社会が築けるはずです。ただわが国の現在の経済状態では、自力で難民を救済できるほど余裕はありません。しかし世界各国が協力を約束してくれるなら、難民を受け入れる用意はあります」と表明したのです。勿論、議場は沸きあがりました。多くの拍手もありましたが、一方彼の提案には反論もありました。「危機に乗じて、金儲けを企んでいるのではないか」と声高に主張する国さえありました。
  しかしこれまで経験したこともない世界規模の危機に、Z国の提案は、各国にとってやはり渡りに船でした。先進国が概ね歓迎の意を表明したのです。
  いち早くA国大統領は、Z国首相の提案を絶賛すると同時に、最大の協力惜しまないと約束しました。すると他の先進国も、それ以上に反対する理由はありませんでした。こうして核爆発がもたらした混乱は、紆余曲折がありましたが、何とか沈静化へ向けて動き始めたのです。

  一方私はパトラとの約束を果たす為、仲間と一緒に懸命に働いていました。死の灰が降り始める前に充分な食料の備蓄、さらに外で活動する際の放射能防護服の準備が必要と考えたのです。特に食材の危険に如何に対処するか、雨に混じって降ってくる放射能に対処する手立ては何かないか、皆で連日議論していました。しかし良い考えは浮かびませんでした。
  
  一方、食糧難に備えて各国とも新しい対策を考え始めました。日本では首都移転さえも議論の俎上に上り始めたのです。
情報化がますます深まる中、人口の一極集中は危険極まりなく、さらに重要施設の一極集中化はさらに危険、国の存続には重要施設の地方分散は避けて通れないと判断されたからです。現代の戦争では、人と人との戦いはなく、隠れ司令室(例えば衛星からでもよい)のボタンを押すだけで相手国を攻撃することが出来る。今回の戦争それを明確に暗示していたのです?
つまり進化し小型化された核兵器が、地雷のように世界中に配置されることも可能で---、もしそんなことが万が一首都にあれば、それこそボタン操作ひとつで国家機能は簡単に麻痺させられる---。
  そんな危険な時代に、重要施設を一極に集中していることは、あまりに無防備ではないか---など等、その危険性について議論が沸騰していたのです。
  ある日、政府の高官と称する人が私達の島へやって来ました。
彼は私に、自分はラムダ国のエイジェントだと明かした上で「大変だろうが、地上の遺伝子を一つでも多く守る為に全力を尽くして欲しい。今回の戦争はまだ終結したわけではない。ある情報では、さらに大変な事態が起こる可能性がある。私達も、遺伝子の保存のため早急に地下施設を建設する必要がある。今の状況ならこの国で、それも可能だ。その協力をあなたに今日お願いに来た」と、テキパキした口調で言うのでした。
「大変なこと?また核爆発が起こるのですか?」
「その通り」と彼、
「えっ!わが国は大丈夫---ですか?」と驚いて問い返しますと、
「それは分からない。ある情報では、核を使った国を、そのまま残すことは危険だ---」と、彼は周囲を伺うような素振りを見せて答えるのでした。
「それは、地球上から彼等を抹殺するということですか?日本は?」さらに小声で尋ねますと
  彼はさらに辺りに伺うようにしながら、「そうではないが---何らかの手を打たなければと言うことです」と、頷いたのです。
  「とにかく、私達は急がねばなりません。近いうちに、何が起こるかわかりません。その時、再度国際社会は大混乱に陥るでしょう。この国も避けて通れません」
  私は、ふとパトラのことが心配になり、「パトラは如何しているのでしょう?」と、尋ねますと「王女は今Z国で活躍しています」とだけ答えるのでした。
 私は、今回のことがパトラの働きだと知り「やはり」と納得しましたが、彼の話しを聞いて、彼女に何か危険が降りかかりはしないかとさらに不安が募るのでした。



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