与太郎文庫
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1977年12月06日(火)  PRAD《印刷入門》 例会レポート(簡易印刷)

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19771206
 
【昭和52年12月05日(月)第1回例会】
 
白髪 お忙がしいところ お集まりいただきまして たいへん光栄です
 私は 販売促進については まったくの素人ですけれども こうして
皆さんの専門的なお話を聞く機会にめぐまれ ごいっしょに勉強させて
いただくことになりました
── 阿波でございます かっこうよく申しますと フリーのデザイナ
ーでしていわば組織に属さない制作者として実は四ヶ月前から こ列席
の吉藤さんと毎週プライベートに勉強をつづけてまいりまして 他の皆
さんにも呼びかけて一緒に勉強しませんか というようなことから本日
の席が設けられた次第です 当初は私が司会をつとめまして できるか
ぎり広範囲の業種にたずさわる人たち そして ユーザー メディア 
エージェンシー クリエーターそれぞれ第一線で活躍する人たちの参加
を得て 有意義な懇談会に発展させたいと考えます 初対面の方も多い
ようですので ご着席の順に 自己紹介ねがいます
土井 スクリーン印刷をやっています 販売促進という点では 私の仕
事は裏方に属するんですけれども ともかく勉強てきるいいチャンスの
ようですので参加させていただきました 機会がありましたら私の仕事
についても皆さんに理解していただけるよう説明したいと考えています
樋口 釣六年前から 本屋を営んでおります くわしいことを聞かずに
参りましたので 今日のところは皆さんのお話を拝聴させていただきま

吉藤 呉服屋を営んでおります さきに阿波さんからお話のありました
とおり 毎週水曜日にいろいろなテーマで話しあっておりまして その
結果 販促というテーマにしぼって それぞれのお立場でご活躍の皆さ
んとお話できますと おたがいに参考になることが多いと考えまして本
日お誘いしたわけです 私の場合は毎回かならず出席いたしますので、
どうか宜しくおつきあいください
河部 津山市で美容院を経営しております 実は 昨日この会のお誘い
を受けてたいへん卿未をもちました なにぶん 遠方になりますので 
あるいはご迷惑をかけることもあるかもしれませんが できるだけ努力
いたしますので いいアイデアをいただきたいと存じます
佐藤 広告代理店に勤務しております 今回は 会の趣旨などくわしく
聞かせていただきたいと思います
── ありがとうございました この他数人の方にお誘い申しあげてお
りますがご多忙とみえて ご欠席のようです
 
……このあと前頁の発題《販促の拠点》が述べられ、さまざまの立場か
らの反論や質問誤解かあったことは否めません。単なる利益団体や圧力
団体でないことを発起人の側から強調され、次回に委ねることになりま
した。
 
【昭和52年12月I4日(水)第2回例会】
 
吉藤 メンバーの問題は当初 私や阿波さんの交友範囲で こういう人
ならば という勧誘しかできなかった 仕事の間を縫ってのことですか
ら 今後もこのままの方法で続けていきますと 若干不安が残りますね
 たとえば十人なり十二人のメンバーが固定してしまえば あとはそれ
ぞれの人たちを通じて増えたり減ったりしながらも 維持できるかもし
れない もうひとつの問題点といいますか 私みたいに 自由に 飛び
あるける人が比較的すくないんです とくにこの師走店を空けて こう
いう会に出席するなど考えられない という人も多いんです それと 
週一回はとても無理だとか 月一回くらいで来年になれば何とか出られ
るかもしれない という人たちですね 
── ロータリー・クラブの例をみても熱心な人とそうでない会員はあ
るにせよ各々忙しいトップが集まって永く続いているわけですから や
ってやれないことはない というのか私の原則論なんですけれどもね
吉藤 だから ある程度のノンバーが そろっていれば 二人や三人欠
席しても目だだないけれど 四五人の場合ですとごっそり抜けたという
結果になる(笑)
河部 当初のメンバーを固定するまでは過一回が無理なら月二回ではど
うか というような検討も必要かもしれませんね
── いくつかの悪条件のような要素は考えなかったわけではないんだ
けれどもひとつの実績として 私と吉藤さんは この四ヶ月 忙がしく
はない といいながら 過に一回の勉強を続けてきたのがこの懇談会の
母体になったわけでしてねしかし 全体的なテーマを定めたり 目標を
明らかにしていくためには やはり固定したメンバーの結束が必要です
ね 
河部 来週は これこれのテーマだから誰と誰はかならず資料をもって
出席してください という風な形が望ましいですね
── たとえば 月に一回くらいは特別ゲストのような人を聴いて 会
員以外の人にも呼びかける という運営方法も 可能だと思いますよ
河部 ロータリーやライオンズの例ではまず時間厳守ですね 極端な場
合は朝の七時に始めるとか 欠席や遅刻は罰金をとる 新車を買ったメ
ンバーがおりますと 排気量に応じて寄付金をとるとか いろんな理屈
をつけて 捲きあげる(笑)そのお金はプールしておいて もっぱら善
用されるわけで 徹底してしまえば 問題ないようです
 
 ■ ペナルティと規約
 
河部 ただし 一挙にそのレベルを要求できるかと申しますと やはり
その前にしなきゃならんことも われわれの会で考えなければならんと
思いますね 罰金にしても どんどん払って何とも差支えない人たちだ
から 永続きするわけて 罰金払うかわりに子供に手みやげ買って帰ろ
うか(笑)なんていうことを考えるようでは無理でしょうね
── 紳士協定といいますか これらはどうも欧米のスタイルですね 
日曜日にかならず教会へ行って 収入の何パーセントを献金するとか 
日曜日に働いてはいかん などという社会的慣習のもとでさらに厳しい
規律を守るのが紳士の条件なんでしょう
河部 私どもの美容業界でも 北海道の例ですけれど 札幌会場で朝6
時の集合なんていうのがあります 旭川あたりからメンバーが来る も
し雪でも降ったらどうするのか といいますと そういう心配があれば
前日に来てホテルに泊ればよい(笑)そのグループは例会のたびに売上
の状況や 蛸足のアイテアなんかをどんどん持ちよって意見交換もする
し ヨーロッパ研修旅行なども カメラマンを同行させまして 帰って
くると映画にしてテレビで流すわけです
── 一糸乱れないというか まるきり無駄のないグループですね そ
こまで徹底してやるからこそ 効果が生じる
河部 私の属している会では つい先日宝塚で例会がありまして 私の
つもりはどうせ近いんだし 高速道路に乗っかって宝塚のインターチェ
ンジに出れば 何とかなるだろうと タカをくくっておったんです と
ころがタクシーがぜんぜん来ないんです(笑)最初から狂ってしまいま
してね 路線バスを待ってみたんですけど これも来ない 結局 いち
ばん近い私が いちばん遅刻して到着しまして他のメンバーはと申しま
すと 新幹線の発着から道路の混みぐあいまで 綿密に計算して乗られ
た 今日のツケはぜんぶキミだ(笑)
── 組織のトッフ1まもとより 部下や対人関係を考えるとき 時刻
厳守ということが重要ですね その上で なおかつ時間を余らせていっ
て自分の時間を確保するというのが理想でしょうね
河部 ロス・タイムと申しましてね 
一人のために何人で何時間のロスタイムが生じた というわけですね
吉藤 この会でも 一分につき百円というふうに決めてもいいんじゃな
いですか
── ロスタイムについては しばしば聞きますね 一人の人が六分お
くれて 十人を待たせたから つごう一時間の損だという論理ですね 
これは私いささか疑問の点もあると思うんてすがね
河部 原則だけは通してもいいんじゃないですか 電話一本で欠席とい
うのは ちょっと軽すぎるから やはりペナルティを課したほうがスム
ースだと思います
── ペナルティについて 私はひとつ考えていることがあるんです 
たとえばある会社で 社員が遅刻するとしますね当然 上司が文句をい
う 叱るわけですその上てペナルティを課すかどうが が問題なんです
 この場合のペナルティは昇給賞与で合理的にあらかじめ契約にもとづ
いたものとしての話ですけど 私の考えでは ペナルティがきちんとし
たものなら叱るという行為は 無意味なのではないか ないしは 叱っ
た場合には ペナルティを免除するとか 実状をみると どうも半分づ
つ というケースが多いみたいで どちらも徹底していない 
吉藤 その点で典型的なのは日本の警察ですね 叱って 点数とりあげ
て さらに罰金をとる アメリカじゃ 点数か もしくは罰金ですね
── 叱らないんですか 毎度ありがとうという(笑)
吉藤 点数をとりあげる のが叱ることでしょうね ところで この会
の規約のようなものを みなさん いつごろ作るべきだと考えておられ
るでしょうか
── まったく規約のない会というのも考えられますね もうひとつは
メンバーのうちの誰かが つまり一人が 草案のようなものを作って 
それを修正・承認する形でまとめあげる方法ですね 私の考えを申しま
すと 後者の場合 どうしても最初の草案をこしらえた人の雰囲気が支
配的になるのではないか あるいは一般性をもちながら なおかつこの
会の独自の性格を織りこんだもの ということになると 相当にむずか
しいんじゃないか ですから ある程度までメンバーが固定して その
上で 先の紳士協定のような原則がいくつか必要になってくるペナルテ
ィにしても 最初は ともかく時間だけ守りましょう という風な期間
を経て ゆるやかに育てていくのが理想的でしょうね
土井 最終的な構想といいますか この会の方向のようなテーマを も
っと時間をかけて たとえば半年くらい阿波さんなりが話をつづけられ
て その間にいろいろあ業種の人たちに呼びかけて 一度でもいいから
聴きにきてもらう その席でフリートーキングの時間もある というの
が 当面 必要じゃないですか
吉藤 正式の入会ということじゃなくてとにかく一度 参加していただ
くわけですね 気にいった人には 会員になっていただく
── 大きなテーマとしては販売促進があるわけですから それに至る
きまざまのコースが考えられます ケース・スタディもその例ですね 
問題は そうしたケースにどれほどのかかわりが得られるか という点
でしょう 今日の話はまるで関係ないじゃないか ということも 当然
あり得るわけで しかし そのことこそ 平素失っている問題意識なの
かも知れませんね
 
 【昭和52年12月21日(水)第3回例会】
 
── 今回の収穫は 販促の実際面でのケースが くわしく述べられた
ことだと思います 録音テープを要約してみると新聞・放送などの媒体
の機能にはじまりその前後に 通信社や広告代理店が存在することが解
明されています これらの媒体を活用する上で パブリシティという分
野があり 単なる企業広告でなく 公共的な情報提供であれば 広告以
上の効果が生じます その異母姉に当る概念がボランティアであり も
ともとは地域内の発想であることが認められました 限られた地域内で
のコミュニティとしてミニコミが再評価されるわけで 技術的な向上と
ともに まだまだ開発さるべき魅力を秘めています たとえばお年玉つ
き年賀はがきの番号を 顧客の会員番号と一致させるユニークなアイデ
ア(河部氏)をはじめ 童話乍家とイラストレーターの合作による少部
数の紙芝居(土井氏)などは注目すべきものと思います さらに アル
バイト高校生の活用によるいくつかのメリット(賃金・機密・人間関係)
が のちのち有力な顧客層に成長する例も興味しぶかく議論されました 
 
 【昭和52年12月28日(水)第3回例会】
 
── さきほど 皆さんカ喋られるまで約30分にわたって 河部さんに
美容業界の流通ならびに経営の実状を 伺っておりました その要約を
 私なりに復称してみますと まず 美容業界においては技術部門と販
売部門のふたつがあるわけで 販売部門とは要するに化粧品のことです
ね そのメーカーでビッグ・ファイブをあげれば たとえば資生堂……
河部 いえ 美容業界では資生堂はずっと下位になります
── すると 化粧品業界と美容業界はまるで別の市場なんですね そ
こで河部さんのお店では 美容業界のトップメーカーであるところのロ
レアルに力を入れられた結果 営業所の倉庫を上まわる在庫をもってお
られる こうなると 先の技術部門と販売部門のウェイトが 他のお店
に比べて あきらかに販売部門の伸長いちじるしく 将来予想される価
格面での競合についても 充分な対応力を備えたわけで マスセールに
不可欠な販路の拡張と実績は すでに確保されたようです 私たち素人
が美容室について抱いていたイメージは 主として技術部門に限られて
いましたが 現実はこうした段階に来ているわけですね ただし こう
なるに至ったのも 私よくは存じませんけれど 美容院のお客さんは 
平均して一時間ばかり座っているわけですから いわゆるセールス・ト
ーキングの時間に恵まれた商売でもある と思われますね
吉藤 これは正にそのとおりでしてね 先だって私も 河部さんのお店
を見せてもらって感心したことなんですよ たとえば数千枚のカルテが
ありまして 河部さんが たえず目を通されて いつ何時でも目的に応
じて選別できるらしいんです だからダイレクトメールにしても 
必要な内容を 必要とする顧客に対してだけ届けられるわけで まこと
に効率的だと思いますよ
── 密度のたかい顧客管理力晋求される時代になったんですね たと
えば野球ファンの例ですとセ・パ両リーグの選手登録数は約600名にす
ぎない(笑)
 
 ■ 顧客管理の実際
 
河部 私どもの商売では お害さまの顔を覚えることが最初の仕事でし
てね 若い子をはじめて店に出しますと とりあえず十人くらい お客
さまの顔と名前を書かせてみるんです この覚えかたが なかなか苦労
でしてね なにしろ頭髪はシャンプーして泡だらけ 白いクロスをかけ
ますので顔かたちを覚えるというのは不可能なんです(笑)ひとつの方
法は履物の種類や色で覚えることですね そして早くお名前をカルテか
ら発見するのかフロントの任務ですね
吉藤 名前で 呼びかナることが重要なことでしょうね
── 客商売にかぎらず 記憶そのものを管理するというのが アメリ
カ方式といえるかもしれませんね《セールスマンの死》なんて戯曲もあ
りましたけれど 担当者が死んだり 配置転換になっても困らないよう
なファイリング・システムが完成しているわけです 新米の担当者がハ
イウェイをぶっとばして スーパーマーケットの仕入部長に会いに行き
ます“昨日は奥さんのお級生日でしたね 息子のジョン君はお元気です
か”というような話題を初対面でやってのけるんです
吉藤 FBIなんかも すごい資料室があるらしいですね
── FBIの資料室については 小噺がいくつかありますね この方
はたぶん犯罪関係者が中心でしょうけれど 日本の場合は 資料とかカ
ードの形式でなくもっぱら生き字引きが主役ですね 古い旅館なんかで 
何年ぶりかで訪れた客に支配人や女中さんだけでなく 掃除の爺さんま
でが顔を憶えていて“久しぶりでございます この前に来られた冬より
も今年はしのぎやすうございます”などという 最近はどうか知りませ
んけど
吉藤 ヨーロッパ・スタイルは また別のやり方になるんでしょう
── ヨーロッパでは 伝説みたいなのが多くて たとえば ライカで
したか ベンツでしたか 砂漠のまんなかで故障したので 無線連絡し
たらへリコプターで運んできたとか(芙)
吉藤 ロールスロイスの話じゃなかったですか
── 各社それぞれに伝説があるのかもしれません アメリカ式がカー
ドによる知識情報サービスであるとすれば ヨーロッパ式は 技術もし
くは物的保証なんですね たとえば ダンヒルのパイプは吸口の部分を
 最初から二つ作ってあって製造番号が刻んである 吸口が折れたり損
傷した場合には 早速おなじものが届けられるわけです 最初からスペ
アとしてお客に売るんじゃなくて 料金だけは先にとっておく 顧客管
理の前に品質管理の傾向が強いんですね
吉藤 きもの屋の例で 私が感心したのは顧客カードに反物の切れはし
を貼ってるお店があるんですよ これなんか欧米のいいところをミック
スしてまして(笑)先方の 好みやコレクションが 一目でわかります
からね
── きものの場合は カケツギなんてことはやらないんですか
吉藤 あんまりないですね 染め直しなどは きものだけの技術でしょ
うけど
── 切れはしを用いる例は 洋服屋さんでボタンのついたのを昔から
くれますね あれなど先のヨーロッパ的発想からしますと お客に渡す
べきではなくて お店やメーカーで保管したほうが いいみたいですね
吉藤 婦人服などでは 来店の回数が多いから利用価値は高いでしょう
 色彩の組みあわせなんかも お店で相談できるようになれば便利です

── 美容院では この応用はできませんか たとえば毛髪の見本をカ
ードに貼るとか(芙)
河部 顕微鏡など使って 徹底的にやるお店も出てくるでしょうね い
まの私の店では 簡単な器具を使って診断したりしています 毛髪の規
傷などを早く原因を発見して適切な処置をする上でもいろいろ応用でき
ると思います
 
…… このあと美容院と歯科医院の共通点などが論じられ、後半はオフ
セット印刷に関する質疑応答がありました。第3回例会でもスクリーン
印刷への関心が高まっていますので、まもなく《印刷シリーズ》として、
例会のテーマになることでしょう。
 
 ◆
 
(2005/09/08)


1977年12月05日(月)  PRAD《印刷入門》 発題:販促の拠点

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19771205
 
 発題:販促の拠点
 
 きょう発足して、年内に四回の例会が予定されておりますが、この期
間はおそらく総論に当たるかと思われます。だいたいの方向が定まった
ところで、来年からは一定のテーマによって各論が展開されることが望
ましいと存じます。
 各論に際して、私は個人的な見解とともにデザイナーとしての経験か
ら、つとめて具体的なノウ・ハウを披瀝するつもりです。ただし一方通
行ではなくて、私自身が未だ知らざること、かねて疑問の点などを、明
らかにしながら、皆さんのご意見や、それぞれ異なった分野からの専門
的なアドバイスをいただきたい、というのが本心であります。
 このあたりの呼吸を、ご理解いただいた上で、今から数十分、そのあ
と皆さんとともに懇談いたします上で、話の糸口となるような材料を求
めて、とりとめのない話をさせていただきますので、どうかおつきあい
願います。
 
 怒れる男たち
 
 きょうお集まりいただく方が、はたして何人になるか今まで予想でき
なかったものですから、率直に申しますと準備しにくい点がありました。
 もし九人のメンバーであれば、私の役目はピッチャーであり、十人な
ら最初の打者といえるかもしれません。そんなわけで私の予想は当りま
せんでしたが、アメリカ映画《十二人の怒れる男たち》を引きあいに、
はじめてみようと思います。
 十五年ばかり前の作品で、ヘンリー・フォンダの製作主演によるもの
です。
 題名から想像されますと、まるでアクション劇みたいですが、これが
何とも地味な映画でして、興行政策上、日本だけかと思ったら、原題も
《12 Anger Men》というわけで、要するに凝った作品なんです。悪く言
えばピンと来ない、玄人ごのみのテクニックで徹底した映画です。
 
 全篇そのほとんどが、陪審員室のセットで撮影されておりまして、十
二人の陪審員が、有罪か無罪か全員一致するまで議論するわけです。
 はじめ十一人が有罪といい、二枚目のH・フォンダがひとり無罪を主
張するわけです。被告の生命を、わずか数分で決定するのは早すぎる、
もっと時間をかけて検討しようじゃないか、というところからドラマが
展開するわけです。ひとりひとりを逆転していって、最後に全員一致で、
被告の少年を無罪にしてしまうので、やっぱりアメリカ映画なんですけ
ど、地味で重厚な映画です。
 ヒューマニズムなどと申しまして、そういう良心的な意図だけで、か
りそめにも映画産業の一端に参加できるかどうか、私が、きょう取りあ
げたのはその点なんです。
 さきほど申しました、玄人ごのみのテクニックの一例を挙げますと、
せまい陪審員室をカメラがゆっくりと、ひとりひとり十二人のアップで
一巡する──何でもないようですが、大きなカメラがレールに乗って、
照明係やその他のスタッフとともに、せまいセットの壁を取ったりはず
したりしながら作業しているわけですね──こんな面倒くさい台本を書
かせたのは誰なのか、少くとも、出資者や株主ではないでしょう。しか
し脚本家や製作者の単なるひとりよがりと断定していいかどうか。
 芸術的良心、というものも現代では説得力がありませんね。商業的な
裏づけがなければ、世に出ないシカケになっています。しかし、だから
こそ、ヒューマニズムや芸術的良心は、現代もっとも求められているは
ずです。
 不道徳なもの、非芸術的なものが、かならずしも目的を達しない、と
いう点から、私たちのテーマである宣伝販促についても、あらためて考
えてみたいと思うのです。
 
 現代のユダ
 
 ちょっと思いついたんですが、陪審員が十二人というのは、あるいは
宗教的な発想かもしれませんね。つまり十三人目が被告で、ユダに擬し
てある? どなたか専門のお立場から、ご教示いただきたいものです。
 先の映画に関していえば、興行的にもまずまずの成果をおさめたよう
で、さもなければ、怒れる十数人の株主という結果になったかもしれま
せん。
 その場合のユダは、もちろん製作者であります。非難は監督から脚本
家、カメラマン、照明係におよびます。
 
 11月25日(金)三木記念ホールで全日本CMコンクールの映写会があり
まして、ご同席の吉藤さんに誘われて、観てまいりました。
 数秒の作品から、数分におよぶコマーシャルを、絶えざる連続映写で
眺めるわけでして、実のところ私は、一時間もしないうちに疲れはてて、
吉藤さんとともに会場から逃げだしました。
 秀作であればあるほど、瞬間的な集中と緊張を迫られ、駄作であれば、
その数秒が耐えがたい重圧となってくるのです。つまり、それほどのエ
ネルギーを秘めているのが、今日のコマーシャルなんです。
 せっかくですから、私たちの観た作品だけでもご紹介しますと、大別
してつぎの四つのグループになります。
【 国際版 】アメリカについでイギリスのものが多くわがナショナル、
ホンダ、トヨタなど堂々たる貫禄ぶりです。たとえばゼロックスなど、
日本版とイギリス版の二種類があり、その対照は興味あるものでした。
【 日本全国版 】一部の準国際版ともいえる作品の他は、おなじみの
コマーシャルばかりですが、欧米の作品と異なる点は、計算されたユー
モア、というような面で何かとりちがえているのではないか、と思われ
ます。
 この点は、かりに“情感の設計、訴求の技術”と呼んでおきましょう。
【 日本地方版 】山陽・中国地方のものは、幸か不幸か観られなかっ
たのですが、前述のとりちがえが、より強く感じられました。ローカル
色というものが、意外に共通していること、むしろ予算の限られたテロ
ップの作品に活路があるように思われました。
【 発展途上国版 】たとえば、台湾・韓国などで放映されているもの
らしいです。聞きなれない言語や、極彩色でのアニメーションなど、と
きには観客の失笑もありましたが、私にはむしろ、ひたむきな情感とし
て映ったものも少なくありません。
 
 情感と訴求
 
 情感の設計、と申しますのは、ドラマ性といっていいでしょう。人間
の興味や好奇心を引きだす技術ですね。心理学的な順序で、観客に好ま
しい余韻を与えるためにたとえば起承転結とか、序破急のような様式が
設定されるわけです。
 表現としてもユーモアであったり、喜怒哀楽の状況をわずかな時間内
に説明するわけですが、それ自体は使いふるされた、あるいは誰でも知
ってる世界ですから、何がポイントになるかというと“意外性”ではな
いでしょうか。
 あっと驚かせるもの、しみじみと納得させるものなど意外性ひとつに
絞ってみても、多くの手法があります。今日のコマーシャルに関してい
えば、いかなる意外性も絶えずくりかえされるべきものとして考えねば
なりません。計算されたユーモア、というものが、こうした反復性を考
慮しているかどうかが、当面の課題でしょう。
 もうひとつの課題としては、技術というものが、それ自体ひとつの主
張になり得るように思えます。
 たとえば色調の統一です。ひとつの作品を、一貫した色調で表現する
ことはもちろんですが、そのためには、いわゆる適正露光というような
観念を捨てることもあるわけです。光学的に忠実であることが、かなら
ずしも正しい結果をもたらさない、個有の感覚を与えられないという問
題です。
 そこで、最近のテレビ映画《アンタッチャブル》などセピア調という、
往年流行した色調を採用しています。カラーフィルムを使って、わざわ
ざモノクロ時代の再現を試みている例です。
 もうひとつの例では、最近の新着映画《ニューヨーク・ニューヨーク》
も、どことなくセピア調を思わせる色彩です。いずれも、ストーリーの
時代性を強調した結果であると思われます。
 こうした単純な目的のものだけでなく、もっと人間の深層心理にふみ
こんだ段階で、黄色っぽい画面とか、青っぽい画面が登場するのは、き
わめて当然のなりゆきでしょう。意図的に作りだされた色調というもの
は肌の色や空の色、すべての事物を忠実に再現することよりも、カメラ
マンあるいは色彩監督の、冒険を優先していると思われます。こうした
ケースは、色彩にかぎらず、他の分野、たとえば音の世界でも同じ事態
が想像されます。
 彼らを、ひとりよがりのユダども、というべきか、あるいはコマーシ
ャルそのものが、人類にとってユダではないのか、われわれ販促の担当
者は、謙虚な姿勢と大胆な発想で事に当りたいものです。
                     阿波 之雄(19771205)
────────────────────────────────
▲ マイクロ・ニューズレター(はがき新聞)の形式見本。郵送費その
他のコストを下げるのが主目的であるが、虫メガネを必要とするほどに
小さな文字の羅列が特殊な効果をもたらす。この見本では約四千字、は
がき表面の下半分を加えると六千字の情報伝達が可能。
── 《PRAD No.2 19771205-19780629》
── 販促懇談会 PRAD 12月例会 19771205

── ユダはイエスが選んだ「十二使徒」の一人で、十三人目の弟子な
どではありません。13が不吉とされるのは、イエスが捕らえられた夜
の「最後の晩餐」に集まったのが13人――つまりイエスと十二使徒―
―だったから。
── 《反銀英伝・設定検証編 5−B 銀英伝の宗教事情(2)》
── http://tanautsu.duu.jp/the-best01_02_05_b.html














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