『 hi da ma ri - ra se n 』


「 シンプルに生き死にしたかった 」


2003年11月24日(月) 灰色のいろ

つらくて、ともだちに電話をかけました
ともだちだったひとに電話をかけました
叱咤激励、されました

がんばれ、
がんばれ、

そうして
くるしい状態のことをぼつぼつ話すと
わたしもそういうことがあるよ、とか
そのきもちわかるよ、とか
そういうことばをたくさん聞きました
壁は破らなくちゃなんにもならない、とか
本当にもう駄目だなんて思うことなんてありえないとか

受話器を置いてから、ぼくは、泣いてたみたいでした

やっと吐き出したつらいというきもちがスルーして
ただのありふれた生活の中に溶けていったみたいで
やっぱりぼくなんかたいしたことなくて
大袈裟に騒ぎ立てているだけなんだと思いました

ぼくの、からだに見える病気は大変だねって言ってもらえました
だけど、目に見えないところは、
受話器のむこうにまでは、届いてくれなかったみたいでした

せかいじゅうがみずたまりになっていて
そのまんなかにひとりでしゃがみこんで
いちめん灰色の風景を
ひとりで見ているみたいな気持ちです

だれもいません
だれもいません
だれもいません

だれかぼくのそばにいてくれないかなさびしいよって
言いたいけど

ことばもありません

だからさよならって
だからさよならって

なにもかもいろんなことが灰色のいろに変わっていって
なんにも感じないぼくが黙ってぽつんと座っていればよくって
それでも、死んだら、死んでまで、叱られるんだなって
そう思うとすごくかなしいです



11月24日、深夜 真火



2003年11月22日(土) 無言

話せば話すほどひとりになっていく
ことばをつらねるほどひとりになっていく
そうしてだれも、傍らには寄り添わないことを知る
そうやってぼくたちはすこしずつ
何かをなくしながら何かを手に入れていくのかな

砕けてしまったアイのかけらつみあげてきみだけのお城をつくろう
とうめいな壁のむこうでゆがんだほほえみをうかべながら
ひとりっきりのお城のお姫様が王子様が
世界中に満ちあふれているよ
ひとつひとつとうめいな壁を叩くのに
みんなのこらずただ鏡にうつる姿を眺めるのに夢中でいて
たびびとのぼくのこと、目の端にもうつらなかったね

砕け散ってしまったアイのかけらつみあげてぼくだけのお城をつくりなさい
そう、みんながぼくに言ったね
ほかにはなんにも聞こえなかった
ぱりぱりとかすかに音をたてて割れたプレパラートグラスを
オブラートに包んで口のなかに入れて飲み込み続けてる
細かな傷が無数につくに決まっているけれど
頓着もせずに続けてきた
気のちがったピエロみたくぼくは痛みのことを思っている
誰かの受けているはずの痛みを
誰かの受けるはずだった痛みを

夕焼けを背景にしてきみとまためぐり合いたかったよ
ガラスの向こうのお城のお姫さまと目を合わせて
そのぶあつい壁を両側から叩き壊して
傷だらけのきみが傷だらけのぼくと出会ったら
そのときはきっとぼくはきみを抱きとめるのに
血だらけの腕でもかまわないからぼくはきみを抱きとめるのに

砕け散ってしまったアイのかけら積み上げて
きみだけのお城、つくられていく
話せばな話すほど積みあがる無言のかたまりは
ぼくをひとりのなかに落としていって
ぼくは果てしなくひとりを知るから
パパもママも恋人も近寄れないぼくだけの孤独のことを知ってしまうから
ことばをつらねるほどひとりになる破裂したコミュニケーション

そうして、そのうち
何も感じないときがぼくにもやってくるのかな
砕け散ってしまったアイのかけら
砕け散ってしまったアイのかけら



11月22日、深夜 真火



2003年11月20日(木) さようならなんてきらいなのに

さようならなんてきらいなのに
ある日とつぜんそれはぼくのこと襲ってきて
いろんなものをむしりとっていってしまった

可愛がっていたねこも
楽しかった時間も
だいじなともだちも
おいしかったごはんも
書き綴ることで手に入れていた勇気も
紅茶の中にうかんでいた安心も
たくさんのものが
ぼくのなかからプチプチとはじけて消えていってしまった

もうふくらんでくれないの?
あたたかいものは戻ってこないの?

ぼくはぼくを殴っている
ひっきりなしに殴っている
日記をやっと書きながら右手でキィを押しながら
ひだりてで右の顎をがつんがつんと殴っている
異様な目つきでみんなが見るけれどやめられなくなってしまったんだ
どうしたらいいのか自分でもよくわからなくなってしまったんだ

たびかさなって積もっていくさようならの数は
すこしずつぼくのことを削りとっていく、それだけはわかる
削られたばらばらのぼくを眺めてぼくが途方にくれていたら
涙もどこかに行ってしまったって
SOSを誰かに出してみたいと思ったけれど
あたまの中にもうだれも浮かんでこなかった
ひとりずつ、ひとりずつ
こんなだめなぼくにさようならを言い捨てて
みんなどこかへ行ってしまうから

さようならなんてきらいなのに、きらいなのに、
ぼくの毎日は、さようならにあふれていて
もう目なんて醒ましたくないって何度も何度も
思ってしまう
考えてしまう

どうしたら晴れた空を喜べるようになるんだろう
いつまでこのじかんに耐えていたら
お日さまをよろこんで、うたをうたえるようになるんだろう



11月20日、夜 真火



2003年11月16日(日) がらんどうの野原

一分一秒がくるしいです
だれかたすけてといいたいけど
こえが出ません
だれもたすけてなんかくれません
電話は切られるばっかりで
もうぼくはどこにもいたくない
目を醒ましたくなんてなかったのに
また朝がきてしまったから
容赦なくおひさまがぼくをたたきおこして
だれもいない荒地に放り出して
きらきらと照っています
照っています
あんまりそれがまぶしすぎてもうぼくは
目をあけているのもくるしいです

だれからも消しゴムのかすみたいに捨てられたぼくは
たぶんもうはんぶんくらい死んでいるところに
足を突っ込んでいるんだって危険な場所にいるんだって
わかっていても耐えていくしかありません
はやく消えてしまいたい
もうくたびれてしまったよ

病院に行ったら抗欝剤がこれまでの倍にふえました
デプロメール1日150mg
これ以上はもう増やせないところ

効くなら、はやく、効いてください
それでぼくをこのあかるいのに寒くてがらんどうなところから
息をするのがつらいところから
抜け出させてください

だれもいません
ここはひとりぼっちです


真火



2003年11月12日(水) 幼子に言い聞かせることば


かみさまが、もう、死んでもいいっていうまでは

生き続けなくちゃ、いけないんだよ


ね?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ばかな考えが頭をよぎるたびに
自分で自分をあやすようにそう言って聞かせよう

壁際にかかったおようふくを見つめる目はうつろ

ふとんの上にちらばった脱ぎ捨てられたわたしの残骸、は
何をまとっていいかわからなくなってしまたことを
ただ雄弁に物語っているとしか言えなくて

わたしが目をそむける


クローゼットに火を放つ空想は消えない

自分の両腕をたたきつぶす空想は消えない

包丁をからだにつきたてる空想は消えない

そらに、おどりだす空想は消えない


消えないものだらけの中で
消えないものだらけの中で

もう少しだけ息をしつづけているにはどうしたらいいのって
だれもいない電話の向こうにただしぼりだすみたく尋ねたら
ぽーぽーと泣いて応えた

こたえは自分で見つけなさい
こたえは自分で見つけなさい

みつけなさい
みつけなさい


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


腕を伸ばしてもなんにも触れない
てさぐりでさがしてもなにも見つからない
やるべきことだけふりつもっていって
雪みたいに
わたしをおおいかくしてしまった

まっしろく、まっしろく、なれたらいいのにね

……でもそうじゃなくて



「神様が、もう死んでもいいというまで、ひとは生き続けなくちゃいけないんだよ」


サトくん、心からあなたにそう言いたい
きっと神様に尋ねなかったあなたにそう叫びたい
このことばを知ってしまうのが遅すぎた
残されちゃったわたしがしなきゃいけないのは
心までこのことばを
刻み付けることなのだろう
だってこのことばに出会ってしまったから
あなたをなくしてから
このことばに出会ってしまったから


ばかな考えが頭の中に巣食ってる
それをふりはらうようにくりかえさなきゃいけない
神様がもう、死んでもいいというまで
ひとは生き続けなくちゃいけないんだよ

自分で自分をあやすように
くりかえして、くりかえして、くりかえして・・・・・・



11月12日、深夜 真火 



2003年11月10日(月) 挑みかかる

雨の新宿というところをひとりで歩いた
自分が一人じゃ何もできないわけではないことを
証明したくて
雨の新宿というところをひとりで歩いた

通勤時間がすぎていて、そうして雨がふっていて
買い物にはまだ少しはやい新宿は思いのほか
誰もいなかった
ひとより多いかもしれない鳩がばさばさと頭の上に飛び立ったのを
こうべをぐるりとまわしてみおくった

みおくるわたし
みおくるわたし

いつもあなたをみおくるように
いつもだれもをみおくるように

うすあかるいひるまの中にたのしいと感ずることをさがしたく
わたしはひとりでふらふらと歩いた
ほら、あなたの手がなくてもわたしはひとりで歩けるよ
そう言いたくてショルダーバッグをかかえて歩いていた

シャーリーテンプルを見つけた
大好きなお茶のお店を見つけた
ジェーンマープルに立ち寄った

たのしい
が、
見えない

たくさんの布を前にしてこころが浮き立つはずなのに
どうしてわたしはこんなふうに
死んだ魚みたいな目をしてここに佇んでいるんだろう
どうしてわたしはここにいなくちゃいけないんだろう
カンヅメの果物みたいにシロップの中に沈殿していて
心の芯までしずかに甘いのにさびしくてつめたいのだ

元気をくれるもとをさがしまわるより先に
元気を生み出すなにかがわたしの中に欠けていて
こなごなのかけらさえもよくわからないのかもしれなくて

くたびれ果てたわたしが家に帰りつき
ただ咀嚼するだけになってしまった「ごはん」を口に入れる
すこしずつ削り落とされるように痩せていくのだけど
それも気にならず、ただ眠りたくていつまでも眠りたくて
ひるまに見かけたコルセットが頭に思い浮かんだ
あの中にすっぽりとおさまってきつくからだを縛り上げてやりたい

目を醒ましたくないのに
明日なんか欲しくないのに
夜中に目をさましてしまったわたしに
死にたいがまたうしろからそっと寄って来て
にっこりと親しげに微笑んでみせた



11月10日、深夜 真火



2003年11月08日(土) 顛末

結局ぼくはたんじょうびにおくすりをたくさん飲むことはしなかった

ひるまひとつひとつものごとをかたづけながら
これで別にあとにのこるもののことは
かんがえなくていいやと思っていた
母に誘い出されて地元のデパートのセールに出かけた
こんな時期にセールなんて珍しいと思ったけれど
創業30周年セールだそうだった
誕生日なのでスカートを買ってくれようとしたけれど
ぼくは、あたまのどこかで
お洋服を身にまとうのがつらくてことわってしまった

赤い色のフレアスカート、
あったかい素材のゆらゆらゆれる
似合っていたけれど
日常着にしたちょっとロリィタっぽい雰囲気のするスカートで
指摘されるのが恐かったんだ
またどこかから見えない刃が飛んできて
背中からぐっさりと突き刺されるのが
こわくて

口がきけなくなっていく
声が出なくなっていく
足ががくがくとして
だんだん歩けなくなっていく
だいじょうぶと笑う頬が変なふうにつっぱって
ああオクスリがきれてきたんだと頭のすみでばくぜんと思った

ただ出かけていって買い物をするというそれだけのことで
つかれはててしまったぼくの身体と心をを襲ってきたのは
死にたい死にたい死にたいと叫ぶただの連呼だった
もう終わりにしたい終わりにしてくださいもう
つかれてしまったよ、、、
どんどん萎えていく自分がよくわかってふるいたたせる気力がなくて
ただ、荷物を持ってひきつった笑いを浮かべていた

うちにかえって夜ごはんをむりやり飲み下したら
それがその日初めて口にするまともな食事だったせいもあるのか
それともぼくがもうそんな力も残っていないのか
どっちだかよくわからないけれど、おなかをこわして
全部トイレに出してしまった、ごめんなさい
お祝いの食卓というわけでもなくて特別なごはんでもなかったけれど
それでもやっぱり
固形物を吐き出す自分のからだは
どこかまちがっている、と
そのたびに思うんだ

そうして、もう、おわりにしたかった
頭のなかではもう、さようならしたかった
くしゃくしゃになってゴミみたいに
ひらひらと風にさらわれて消えていきたかった
くたびれはててよれよれになったぼくが

……おくすりさえも飲めなかった

そのまま敷きっぱなしになっているおふとんのところに倒れこんで眠ってしまった
泥のようになりはしなかったけれどそうしてぼくの誕生日の一日が暮れて
目がさめたときはただ6時間後で、
あんなにめちゃくちゃにくたびれ果てて30時間連続起きていた果てに
眠れた時間が6時間なのにかなしくなったけれど

もう、おくすりを
たくさん飲む気持ちは
少し遠くのほうに
去っていてくれた

こっちを見ていることには変わりはないけれど
それでも肩を叩いて引き寄せようとはしない、
そのくらいの、距離が
ぼくたちの間に生まれていたから

26歳

この年齢をぼくはまた生きてみようと思う
弱音ばかり吐くだろうし不愉快なことも言うだろう
ここにこうしてばかなことばかり書いて
お目汚しだ、とひとりで考えているかもしれない逃亡しているかもしれない
また死にたい病に取り付かれるかもしれない
そうしてまた
うつくしいものを見るかもしれない
満点のほしぞらに、ふいうちの流星に、
もしかしたらふってくる雪景色におおわれた空に
たくさんの花に、ともだちとの笑いに
何かを見るかもしれない

とりあえずぼくはここにこうしていきてる
今日を生きのびようとしている
死にたいはすぐ近くにいるけれどそれほど近くにはいない
ただ、ゆっくり注意深く
それを避けてやっていくすべを
ぼくは学び取らなければいけないと、
思った


また一年、また一年、こうしてつながれていったらいいのに

こんなどうしようもないぼくだけど、


マダ、ココニイテモ、イイデスカ



11月8日、誕生日の翌日 真火



2003年11月06日(木) 再び、不眠の力

おたんじょうびにこの世界からサヨウナラしようと思ってた
365日のなかにたったひとつ選ばれた一日だから
おたんじょうびにこの世界からサヨウナラしようと思った
とりあえず溜め込んであるお薬ぜんぶ
飲み下して行けるところまで行ってみたら
なにが見えるんだろう、って
そう思った

そらも飛べるだろうか

真夜中はおかしなほうにぼくの思考を捩じ曲げる
捻じ曲がったまま目覚めつつけたぼくがまた
ひるまの中に立ち上がる、剥がれ落ちない
暗いはずの夜中の思考が背中に
貼り付いたままで

何日か何日か暮らすうちになにかがびみょうにゆがんでいって
そうして、ぼくは、ぼくを世界から消しちゃえと決めたんだ
持っているおくすりは併用禁忌もふくめて数百錠は軽くあるだろ
それをぜんぶぜんぶ飲み込んだら少しは
次に何か事件が起きることも期待できるんじゃないだろうか?

数日間そのアタマをくっつけたままごはんを食べて
起きて寝て編み物をして電話をして
在宅ワークの勧誘に引っかかりパパの愚痴を聞いて
恋人がつめたいといってさみしくて泣いた

・・・・・・たんじょうびになったらぜんぶぜんぶさようならしちゃおう

でもちがうんだほんとうは生まれかわりたいんだ
羽根のはえたタマゴみたいに窓から飛び出して
ぐしゃりと粉々のつぶてになって割れて、そうして
まぶしい、あたらしい、みずみずしいところへ
生まれかわりたいんだ、たぶんそうなんだ

こんな子どもじみたことばかり言っていてごめんなさい

死にたいんじゃないんです、ほんとうは
ただ、くたびれただけなんです

ことばを流し続けることに
ことばをせき止めることに
大切なものを守り通すことに
大切なものをこなごなに打ち砕かれることに
あらゆる刺激に
騙そうと近寄ってくる人たちに


もう少しだけ
あと一年だけ
がんばり続けられる
勇気をください



11月6日、深夜 真火



2003年11月04日(火) やがて来る

誕生日は世界から消えるのに最適な日なんじゃないかと
まよなかに眠れないまんま目をぱっちりとひらいて
おふとんの向こうの薄い影を見ながらぼくがぼうっとかんがえていた

せかいから消える日は

せかいから消える日は

大好きだったおようふくに全部火をつけて燃やして
ぼうぜんとそれをみているまぼろしを最近よく見る
ぼくのいちばん上の皮膚を焦がしている行為なのか
痛みを感じないことがふしぎに思えて仕方なかった

今日の一日を暮れさせる前に
のまなかったおくすりが
明日をはじめさせなかったりして

目をさましたら朝でそこがまっさらな白で塗りつぶされていて
気持ちがすがすがしくとうめいであかるかった、はずの
一日のはじまりを
ぼくはどこになくしてきてしまったんだろう

今から戻っていっても
まだ
見つかるだろうか
今から捜しに帰っても
まだ
遅くないだろうか


たんじょうび。

世界から消えるのには最適な日だとぼくはおもった。
夜が終わったのに、お日さまがのぼったのに
その思いは消えてくれなかった。
頭の隅のほうからじわじわと侵食されてきてもしかしたらぼくは
このたくさんのおくすりに手を出してしまうのかも、しれない
ぐっさりとふかく閉じないきずをじぶんに突き立ててしまうのかもしれない
屋根からあのそらへ飛ぼうとするのかもしれない
いつかいつも憧れていたとおりに
ふっと
そら、へ

(全速力で食い止めろたとえそれがどんなにのろい動作に見えたとしても)

親より先に死んではいけない
ましてや
祖父母より先には

それだけがいちばんぼくを食い止めているような気がしている
やがて来る
自分を消す日を決めることを



11月5日、未明 真火



2003年11月02日(日) 狩られる物に

ふあん、という薄灰色のものを背中におんぶして
パソコンにむかっている

ふあん、という薄灰色のものを背中におんぶして
食卓にむかっている

ふあん、という薄灰色のものを背中におんぶして
かかってくる電話を、うけとる

ふあん、という薄灰色のもの
こわい、という極悪色のもの
おそれ、はビニールのように
ナイフ、はわたしを救わない
なのに、振り下ろされる刃物

ロスト・アウト

できたらどんなにいいだろういいだろういいだろう
と頭に浮かぶその事柄から一生懸命走って逃げるのが
今のわたしの目をさましているかぎり
しつづけなければいけない一秒一秒のオシゴトだった

走れ走れ走れ獲りつかれないように走れ

おくすりを飲み下すのに疲れてしまいました
でも飲まなきゃ、でも飲まなきゃ、
おふとんから這い出してきて、マグカップを用意して
おくすり袋を、出して
シートからぷちんぷちんと、外して
手が震えてころがり落としてしまったカプセル拾って
おくすり壜に手をのばして黄色のふたをあけて、
・・・・・・つかれてしまいました

いちどに14錠とか18錠とかおかしな数を飲んでいるからこんなに疲れるのかな
こわれているわたしの体のシステムを補おうとしてビタミン剤まで飲んでいるから
そんな数になるからいけないのかな


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


うつと不安をやわらげるためにいちにち三回
 アモキサン25mg
 デプロメール25mg
 セニラン3mg

うつを改善するために、きちんと起きているために
 ベタナミン10mg×2

食物アレルギーに対処するために
 インタール10%1g×危ないごはんの数だけ
 アレジオン20mg×1

皮膚の再生をたすけるために
 ビタミンCカプセル×3
 ビタミンB2×2
 セラミドタブレット×4

眠るために
 デパス1mg×3
 ハルシオン0.25mg×2
 ユーロジン2mg×2

・・・・・・でもせんせい、
もう30じかんもねむれないんだけど
わたしどうしたらいいのかな
くたびれてしまったんだけど
もうどうにもならないのかな

きらりきらりとナイフがひかる
はやく逃げよう、逃げよう、逃げよう


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


パソコンをつかって在宅ワークしてみませんかの勧誘の電話がきました
わたしみたいにずっとうちにいるとこのたぐいの電話はよくかかってきます
どうして、わたしが何もしないで家にいること知っているんでしょう、
よくわからないけど真火さんって名指しでかかって来るので
どこかでなにか名簿でも流れているんですね

お断りしたら怒られました
なんと言われたかもう忘れてしまったけど
早口について行けなくてわからなくなってしまったけど
寝たきり老人でもない限り働けるんだよ
本当に病気だったら入院してろよ
あんた俺より若いんだろ?
病気で自宅療養なので仕事ができませんなんか
ただ社会に出て就職したくないだけの口実なんじゃないのか?
……そんなことを言われたのはおぼえています

寝たきりの人に失礼なんじゃないのかなあとか
入院している人に失礼なんじゃないのかなあとか
いろいろ思いはしたのだけれど

……このひと、よっぽどしんどいことかかえながらお仕事しているのかなあ
って
そればっかりをあとから思いました


口実
口実

おしごと、わたしも、したいです
したいんです
図書館のお仕事大好きだったんです

でもこんな動かない頭で人に会うと翌日つぶれてしまうからだで
痛いのを我慢してこわいのを我慢して給湯室のすみで不安で泣いて
そういうのがわかっていて、どんなまともなおしごとを
もらいに出て行けるって、言うんだろうかと思うと

あんまり情けないのでぼくは、もう
じぶんをつぶしてしまいたく
なります



11月2日、深夜 真火


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