カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 大ストリングス錠

=大ストリングス錠=

スピード狂が僕の耳をかすめた。轟音は内耳を揺らせ、揺らせ。不動毛は平衡感覚を、知った。けれども、それをかなぐり捨てる。俗世間に、嫌気が差したからだ。そうして、彼は浮遊の感覚に浸る。酩酊感覚と、不妊治療は共存せずに、耳毛を剃りました。頬にも産毛が、ほら、曲線に沿いながら、だらだらと。君。あごのライン、綺麗だね。カメレオンの肌。カメレオンの舌先。十二年前の、今日、カルメンを踊りました。赤い衣装が、照明に映えました。夕日が今まさに、ブラックホールに飲み込まれようと、喪失。君が、貞操を失ったのはきっと十一年前のあの夜でしょう。清い血潮が、ベッドのシーツを汚したね。でも、あれは、汚いもんなんかじゃないんだ!紺色の夜空に、不自然に大きく、丸く、黄色帯びた月が。きっと、そこは古い洋館の二階。ベランダに、僕は蔓をつたって登る。愛が結晶になるとき。その瞬間、蔦が剥がれ落ちる。私の、僕の体は、一息の後、宙に放り出される。私/僕はそのとき、人間の根悪や輪廻の鎖、諸行無常の叫びから、ぽかりと放たれた気がします。重力の圧から逃れた脳が、そう勘違いしたのでしょう。創、と書いて、キズ、と読みます。刹那。いや、私/僕/貴女の心臓が一つ打つだけの間。君は僕を見つめたね。僕は君の目を見ました。目の奥の、脳漿がうずうずしているところまでを覗き込んで、君の感情を酌みました。ああ、なんて、なんて、素敵な瞳。−−食べちゃいたいわ!

2007年04月27日(金)



 瞬黒

=瞬黒=

常備薬を懐に忍ばせて、街灯の瞬きにあわせて姿を消します。月光の下では、私、猫に変身し、流動的な筋肉をしならせる。跳躍した先に、転がるのは、街の光。肖像を失いつつあり、行き先は誰ともなしに告げて行けば、そのうち。情哭したなら、風を喰らいましょう。焦燥的疾走感がうやむやに消えそうなのは、ただ肉体にかまけた自分がいるから。
夜は深まるばかりで、候。


=芳香=

場所によるけど、君の座ったところはまだぬかるんでいるらしいよ。誰かがそこの水溜りに足をとられて、奈落のそこへ落ち込まないか、って、遠くから見てる。君はまだ尊法を知らない。知っても意味ない。だから、昨日見た夢のことを語ってみたんだ。君は聞くふりをして、何も聞かない。なぜかといえば、向こう側のベンチに座る僕が気になって仕方ないから。そんな、理を沙羅双樹の木の下で、もとい、桜の木下で悟ったってわけだ。


=黒猫の彼女=

ロゼッタストーン噛み砕いたのは私。どうもこの頃寝つきが悪くて、相談しにきましたら、彼女は留守さ。インターフェロン。は、フェロモンの一種でしょ。十二分につづられたレポート用紙から、艶かしい脚がはみ出してます。太ももには筋肉のみぞ。神のみぞ知ると、彼女に問えば、するり、さはり、とこり、と逃げられてしまったのだよ。

2007年04月26日(木)
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