カエルと、ナマコと、水銀と
n.446



 a short film

= a short film =

昔友達に、芯がはっきりしない、とか言われたことがあったけど、今まで実感せずに生きてきたと思う。でも、今回はさすがに「芯がはっきりしなさすぎ」たかもしれない。
 ジャケットの胸ポケットからマルボロを取り出して、少し風の強い中火を付ける。百円ライターがカチカチ音を鳴らせながらちっぽけな火をともして。
「おーい。長岡君この河原沿いのススキってなんかよさげじゃない? って、おっ。た、煙草。か、体に悪くないの……?」
 明らかにまじめそうな顔で見てくるもんだから、吸うに吸えなくて、結局地面に押しつけてもみ消した。少し離れたところにまだ全然長い煙草を投げ捨ててから、余所行き用の笑顔を石井に向ける。


=フレームアウト=

カメラから覗いたとき、その狭められた景色の隅々でモノモノが生きているのを感じた。写真はぴたりと動きをやめた瞬間を捕らえるモノだと思っていたのだけれども、それは確かに生きていた。捕らえられた瞬間死んでしまうような写真ではどうしようもない。いっぱしの写真家気取りで考えて、シャッターを押す。
フレームの外の景色を撮る。

2003年06月19日(木)



 濁り水

=濁り水=

堤防から飛んだ。夏だな、と思った。
「右にクラゲいる」とか、なんとか。驚いてしまって体をひねって。なんか、青春。「今度は左」「いや、右にも」「そしておまえの回りほとんどクラゲ」……マジですか?「って言うのは嘘。ははは。でも近くにクラゲはいるぞ」少し濁ってて、何も見えないような海は恐い。いつサメに襲われるか、いつ水死した亡霊に足を引っ張られるか分かったもんじゃない。でも、そんな海が好きだ。色々混ざってて、そんな中に自分も入りたいと思う。いや、水死したいとかそういうのじゃなくてよ。

=ずれていく=

隣で俺があげたマルボロをまずそうに一本吸いきってげろ吐きそうになってるのをみて、花火がなんでずれていくのか分かった気がした。音が後からやって来て、おもしろいんだけど、笑えなくて。ずれた時間は取り戻すことは難しいだろうけど、やっぱ戻ってみようと思った。そんでもって、学校の屋上から青春の音を聞いて、煙をおいしそうに吐き出すんだ。

2003年06月13日(金)



 青空に煙り

=青空に煙り=

校庭の部活動の青空に良く映える声を聞いていて、何で自分はこんなところにいるのだろう。っと、思った。タバコさ、やめろよ、とか言われて、自由だとか自由じゃないとか言わないけど、タバコはやめないと思うな。多分。わかんないけどね、とか格好良く答えて。青空に煙る。なんで煙草吸うの? なんでだろ? 自己慢だよ自己慢。ははは。
遠く遠く。

=ゆっくり=

少し少しずれていった時間はいつの間にか大きすぎて手に負えなくなっていた。息を抜く。いや、そういうわけではないけど、理由はないんだと思う。何でこんなところにいるんだろ、俺。
がたんごとん。田舎の音。ぴーひょろろ。田舎の音。眠たくなる。仄かな草の匂い。ゆっくりと流れてく。

2003年06月11日(水)



 タばコ

 ふと、その瞬間。自分が周りの時間に置いて行かれてしまっているのではないかと恐くなる。僕の意識していない間に時間が何年も進み、僕以外の人達は3年後の世界を普通に生きていて。
 震える煙草を唇に挟んで、震える炎で火を付ける。一息吸って、体内にタールの回るイメージを。血管が収縮する。中枢神経が麻痺し、鳥肌が走る。足下が揺れる。吐き出した息の中から、一酸化炭素をより分ける作業。目閉じる。
 目を開く。ここはどこでもない。こうして、自分は取り残されていくのだろうと。
 ドロップアウト。

2003年06月06日(金)
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