KENの日記
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2008年09月28日(日) スリランカ内戦激化(13)

スリランカの情勢です。来週からのスリランカ政府軍の攻撃が非常に重大な局面になります。紛争が本当に「武力」によって解決されるのでしょうか。

ニューヨーク国連総会出席で外遊中のらラジャパクサ大統領の談話。

In all fronts we are very superior, on the ground, the sea and air," said Mr Rajapaksa in an interview with the BBC.

"Our numbers are very much greater than theirs, our firepower is much greater. We are very confident we can win and we want to finish this very soon."

陸・海・空全ての面においてスリランカ政府軍は非常に優勢である。兵士の数においても武器の質・量とも敵に勝っている。この長かった戦いにまもなく終止符を打てることを確信している。(大統領)


Kilinochchi is within the firing range of our troops and we will fire the first shot on (it) next week" Sri Lanka's army chief, Lt Gen Sarath Fonseka declared triumphantly in the Sri Lankan capital Colombo.

"Our campaign will not stop until we liberate our motherland from the Liberation Tigers of Tamil Eelam (LTTE)" he stated, adding that their elusive leader Velupillai Prabhakaran was "struggling" to cope with the military's successful advance on Kilinochchi, 220 miles north of Colombo.

敵の本拠地のキリノッチは既に我が軍の射程距離に入った。来週から我々は敵本拠地への攻撃作戦を開始する。我々の作戦は我が祖国の土地をLTTEの手から完全に取り戻すまで決して終了するものではない。姿を現さない敵のリーダのプラバカランは我が軍の一連の攻勢に対して非常に苦しんでいる。(フォンセカ将軍)



2008年09月27日(土) ベルリンフィル演奏会模様

NHKの衛星放送で録画しておいた「ベルリン・フィル ヨーロッパ・コンサート 2007」を聞きました。

曲目は

1.舞台神聖祭典劇「パルシファル」 前奏曲(ワーグナー)
2. バイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調(ブラームス)
3.交響曲 第4番 ホ短調 (ブラームス)

バイオリン : リサ・バティアシヴィリ
チェロ : トルルス・モルク
指 揮 : サイモン・ラトル
2007年5月1日、ベルリンのオーバーシュプレー・ケーブル工場 で録音

昨年5月の収録です。場所が広いケーブル工場で少し寒々とした会場。5月のベルリンはまだ寒いのか観客には厚着の方が多いようです。最初のパルジファル前奏曲から非常に「密度の高い」、演奏者の意気込みが伝わる音楽です。「これは素晴らしい音楽会になるな」という予感がする第一曲でした。果たせるかな、ブラームスのドッペルコンチェルト、4番の交響曲も稀に見る名演でした。

ドッペルコンチェルトでは何と言ってもチェロの「モルク」の素晴らしさの圧倒されました。左手の正確さをなんと表現したら良いでしょう。大きな「クモ」のような4本の指が自在に指板の上を這い回るのです。高いところから素早く正確に弦をおさえるので、正確の音程の音の立ち上がりがはっきりしています。そして弓を扱う右手の強さ・長さは尋常ではありません。大きな身体をしていますから、もともと腕全体が長いのですが、その圧力が弦と弓の接点に集約されるのです。ここぞという時の音の力は凄いものがあります。

最初こそ少し遠慮がちであった「バティアシヴィリ」さんのヴァイオリンもモルクの熱演に触発されて後半はかなり力がこもっていました。モルクの「これならどう?こうしたらどう反応する?」と問いかけるような演奏は、ヴァイオリンとオケをぐいぐい引っ張っていたようです。これこそ「ラトル」の思う壺だったのでしょう。

メインはブラームス4番。本当に渋いプログラムです。1楽章の冒頭こそ少し遠慮がちなブラームスかなと思いましたが、さにあらず一つ一つの音全てに魂の入った稀にみる快演でした。一言で言うならば、全パート演奏者のレベルが非常に高いスーパーオケが、ラトルといっしょに音楽を奏でることを大きな喜びとして認め、自分達の音楽性を100%繰り出して演奏している素晴らしさ・・・とでも言うのでしょう。弦楽5部の分厚いフォルテ、しなやかな弱音に加え、名人揃いの管楽器軍はソロにテュッティに自在な音色を聞かせてくれます。オーボエ、フルート、クラリネット、ファゴット、ホルンのトップの素晴らしいこと。

今回の演奏を聞いて改めてベルリンフィルの素晴らしさを再認識しました。というのも、双璧のウィーンフィルとの対比で思うところがあるからです。ベルリンフィルはフルトヴェングラー、カラヤン、ラトルとしっかりした常任指揮者を据え、指揮者との密接な関係で音楽を作り上げていると思います。カラヤン音楽の好き嫌いはあるにしても、その時代を反映した最先端の音楽であったことは確かです。

一方ウィーンフィルは歌劇場管弦楽団有志ということもあって、一人の指揮者と密接な関係を持つというより、様々な指揮者といっしょに別な面の可能性を追求する一方、一旦歌劇場のオケピットに入ればウィーンオペラの音を醸し出す伝統をしっかり保持しているのです。ゲルギエフとの競演はその際たるものでロシアオケと間違えるようなロシア的な音を出してしまうのです。しかし安全運転の演奏は相変わらず「ムーティ」「メータ」であったりします。小沢とは心の底から納得してコンサートをしているのかどうか。若い「メスト」がどれくらいの才能があるか分かりませんが、ラトル・ベルリンフィルのような関係を築けるのかどうか興味があります。とにかくラトルはまだまだ若い世代です。これからの演奏には目を離せないかんじです。



2008年09月21日(日) コバケンのマーラー交響曲第5番他

文京区(文京アカデミー)と東フィルとの協力で開催されている文京シビックホールの「響きの森 クラシック・シリーズ 」。その第25回目の本日のコンサートに行ってきました。コバケンのマーラーを「S席」4000円で聞くことの出来る非常に「お徳な」コンサートでした。選んだ席は2回9列(最前列)33・34番。音のバランスは非常に良かったと思います。

演奏曲目、演奏者は以下の通り。

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 ヴァイオリン:長尾春花
マーラー:交響曲 第5番 嬰ハ短調
演奏・東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:小林研一郎

最初のブルッフは長尾さんのバイオリンが非常が良かったと思います。一楽章のソロの入りが素晴らしい音でびっくりでした。左手のテクニックが非常に安定していることに加えて音が素直でかつ非常にしっかりしています。何度か双眼鏡でアップで見ましたが、ボーイングが非常に美しく、非常に力強いことが分かりました。大学1年生だということですがこれから本当に楽しみです。なにより誠実にかつ謙虚に演奏されているところが観客に伝わってくる演奏でした。

休憩の後はマーラー。休憩時間にステージの裏でトランペットが最初のソロの「さわり」を練習しているのが聞こえます。正直言って少し心配になりました。ところが始まった一楽章のトランペットの素晴らしいこと。最初こそ少し硬く聞こえましたが、曲が進むに連れてどんどん素晴らしくなっていきました。御本人もさぞ満足のいく出来だったのでしょう。曲が終わってコバケンさんに起立するように指名されて、嬉しそうに手を振っていました。

感動的な演奏で久し振りのマーラーの「音の洪水」に全身それこそ頭まで浸かった感じでした。演奏する側もさぞ疲れたことでしょう。コバケンさんの挨拶は「完全燃焼でアンコールのエネルギーは残っていない」というものでした。これに対しても会場から大きな拍手でした。1楽章・2楽章も良かったのですが、やはり圧巻は「アダージェット」でした。はっきり言って5楽章が余分に思えました。このまま「じっと静かにしていたい」という気持ちでした。他の楽章で管楽器ソロの時にたまに「色気の無い弱音」を聞かせる場面がありましたが、そんなことは直ぐ忘れて音楽に引き込まれてしまいます。こんな感動的な演奏会は久し振りです。だからコバケンさんからは目が離せません。

帰りの丸の内線後楽園駅はビックエッグに向かう野球ファンで混雑していました。今日は巨人・阪神3連戦最終日でした。



2008年09月19日(金) スリランカ内戦激化(12)

「Fresh clashes in Sri Lankan north」

The military has mounted an offensive to retake Tamil-held parts of the north There have been fresh clashes between Tamil rebels and government troops in northern Sri Lanka, as the military offensive there continue.

The military also announced details of casualties from Thursday's fierce fighting, saying more than 60 Tamil Tigers were killed in multiple battles.

A pro-Tiger website said rebels had killed 25 soldiers.

Troops are trying to retake the Tigers' political hub, Kilinochchi, as part of a government vow to crush the rebels. The government bars most journalists from the north of Sri Lanka and the accounts cannot be independently verified.

19日のBBCニュースはスリランカ北部の「キリノッチ」近郊での激しい戦いを伝えました。スリランカ政府は今年中に反政府勢力LTTEの政治拠点である「キリノッチ」を取り替えそうという作戦を遂行していて、現在キリノッチの数キロ手前まで進攻しています。そして戦果として毎日何十人の敵を殺したというニュースが流れています。

LTTEはこの進攻に抗戦しているほか、首都コロンボなどで自爆テロを敢行しています。また激しい政府軍の攻勢に対してLTTEが「毒ガス」を使ったという報道もあります。政府軍がキリノッチを取り戻すのはそう遠くないと思います。しかしそれで紛争が終了するわけではありません。LTTEは市民社会に紛れて姿を消してしまうでしょう。それからは本当のゲリラ戦になります。

米国がアフガニスタンで経験したように、一旦スリランカ政府軍がゲリラ勢力を追い払っても、ゲリラは決して消滅しません。深く潜ってしまいます。諸外国(日本を含め)がスリランカ政府の徹底攻勢を許容する姿勢を続ければ、テロの矛先は外国人にも及んでいくでしょう。その時には「LTTE」は完全なテロ組織に変貌してしまうでしょう。このようにしてテロ組織が生成されていくという見本のようなものです。

現在の世界各地の「テロ」の原因は「時間の不可逆性」であると考えます。紛争でも喧嘩でも、どこかに「仲直りできる」「立ち戻れる」ポイントがあるはずです。それは「比較的容易なもの」から「こじれて非常に難しいもの」まであると思います。スリランカ内戦はこじれてはいますが「まだ戻れまる」状況だと思います。近い将来、LTTEの「首都」キリノッチを陥れてLTTEが市民社会に潜ってしまったら最悪だと思います。

そのような祖国の緊迫した情勢の中、東京の代々木公園ではスリランカフェスティバルが催されたのでした。



2008年09月14日(日) スリランカフェスティヴァル、中秋の満月



スリランカフェスティバル2008が代々木公園で行われました。今日は妻と娘を誘って覗いて来ました。娘へのインド土産の「パンジャビ」はまだお披露目したことがありません。今日は妻と娘にパンジャビを来てもらっていってきました。(娘は上着とショールだけでパンツはジーパンでした)

日曜日それも3連休の中日の代々木公園(駅は原宿)はものすごい人出です。さらにものすごいファッションです。目立つ色の妻の娘のパンジャビもあまり目立ちませんでした。ファッションと騒音の溢れる公園を通り過ぎて、会場に行くと昨年同様、スリランカフェスチバルは賑わっていました。年々日本で働くスリランカ人が増えているようで、年に一回のこの催しは「スリランカ人」の同窓会のような感じになって来ました。

昼御飯を会場で食べたのですが、昨年同様食事を取るテントの椅子とテーブルが殆ど満席で座る場所がありません。仕方が無いので私が立って食べることになります。スリランカ料理はインド料理に比べても「美味い」ものではないのですが、今回もその感を強くしました。これではファンを増やすことにはなりません。

私達が注文の順番待ちで並んでいると、スリランカ仏教僧が横から割って入って順番を守らずに料理を購入していきました。文句を言うと日本人仏教僧(らしき人)が「ただ会話しているだけだ」と2回も誤魔化しました。スリランカ仏教僧は5百円払ってサモサみたいな食べ物を買って行きました。スリランカで仏教僧は特別の地位にあることは知っていますが、あまりにも礼儀を弁えない仏教僧の仕草に腹が立ちました。スリランカの仏教を堕落させているのはこのような節操にない仏教僧がいるからだと思います。彼等はいったい何を修行しているのでしょうか。今回スリランカ仏教を紹介するテントが沢山ありましたが、このような仏教僧の存在によって私としてはかなり印象を悪くしました。

今日は中秋の満月です。記念に写真を取りました。




2008年09月13日(土) コシ・ファン・トゥッテ:さいたまシティオペラ 




さいたまシティオペラ18回公演の「コシ・ファン・トゥッテ」を聞いてきました。会場は南浦和の「さいたま文化センター・小ホール」。12日から始まった3日間公演の第2日目です。左手の舞台の袖に伴奏ピアノ。指揮者が最前列の列の中央に陣取っていました。

キャスト

フィオルディリージ:稲見裕美
ドラベッラ:見崎千夏
デスピーナ:谷川深雪
フェランド:谷川浩之
グリエルモ:原田圭
アルフォンソ:杢子淳

結論から言うと、非常に丁寧な作り・心のこもった演奏で、良いオペラ(劇)を聞いたという感慨で非常に嬉しくなりました。帰りは電車を使わずに歩いて帰ってしまいました。原語はイタリア語のはずですが今日は「中山悌一」訳の日本語上演。衣装こそ洋風ですが、訳詩が良かったせいもあるのでしょうが、日本人が日本語を歌うのは非常に自然で違和感がありませんでした。むしろ日本語の方が感情移入がはっきりするし、洒落や台詞が音楽と演技にぴったりはまっていたと思います。

オペラを見てくると「誰が良かった、誰の声が出ていなかった」などという感想を持つのですが、今日は別でオペラ全体が面白かったと思います。日本語上演なので「訳」を見る必要もなく、内容がしっかり把握できたと言う理由もありますが、今日のオペラの作りが素晴らしかったことが最大の理由だと思います。「チームワークの良さ」と演技、衣装、舞台装置が非常に丁寧なものになっていたことが公演を素晴らしいものにしていたのだと思いました。

チームワークと言うと、フィオルディリージ役の稲見さんとフェランドの稲見さんが御夫婦であることもひとつの要因であるかもしれません。二人の姉妹、二人の親友、二人の仕掛け人(アルフォンソ・デスピーナ)のコンビが非常に息が合っていたことも特筆されます。またそれぞれの登場人物の性格の描き分けがしっかりできていたと思います。二重唱の場面は非常にバランスが良かったと思います。

このようなオペラでしたが土曜日の午後の公演、それも小ホールなのに空席が目立ちました。本当にもったいないと思いました。内容が内容だけに小中学生に聞かせるオペラではありませんが、もっと多くの人に聞いてもらいたい水準だったと思います。



2008年09月05日(金) パーヴォ・ヤルビ/フランクフルト放送交響楽団演奏会

NHK教育テレビの芸術劇場でフランクフルト放送交響楽団演奏会を聴きました。演奏曲目などは以下のとおり。

ベートーベン作曲ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73「皇帝」
ブルックナー作曲交響曲第7番ホ長調ノバーク版
アンコール:ステーンハンマル カンタータ《歌》より間奏曲
ピアノ独奏:エレーヌ・グリモー
指揮:パーボ・ヤルビ
2008年6月3日、サントリーホールでの録音

全部をキチンと聴いた訳ではないのですが、非常に好感の持てる音楽が聴けて幸せな気分になりました。水曜日に同じサントリーホールで聞いた「ヴィルトゥオーゾ・オーケストラ」の演奏に落胆したばかりだったので、久し振りに「心に染み入る音楽」を聞いた感じです。

最初の「皇帝」は今話題のグリモーのソロ。彼女は演奏よりその容姿で注目されています。少し「硬い」感じで、力が完全に抜けていると言うわけではないですが、音楽をキチンと丁寧に弾いているところは好感が持てました。特に本人がそのことが分かっているようで弱音部では緊張を解すかのように深呼吸をしていることが分かります。これから場数を踏んでいくともっともっと力の抜けた演奏が可能ではないかと思いました。今後が非常に楽しみです。

ブルックナーでは「パーヴォ」の音楽を十分に楽しむことができました。第一楽章から非常にゆったりと始まりました。この交響曲では2楽章が全体の山場になる演奏が多いですが、パーヴォは1楽章も決しておろそかにせずにタップリと聞かせました。特に弦楽器の美しさが目立ちます。その美しさは2楽章においても全く変りませんでした。金管楽器の音のまろやかなこと。決して咆哮して弦楽器の音を消しません。特にトロンボーン・ワーグナーチューバの「押さえた演奏」は白眉だったと思います。こんな2楽章は珍しいです。

テレビカメラがやたらとソロをアップする画面構成が音楽を聞く邪魔をしていたと思います。2楽章のワーグナーチューバ、3楽章のトランペットは決して目立つ演奏ではありません。あくまでも全体の流れ、他の楽器の音とのバランスで聞いて欲しいというのがパーヴォの狙いだと思うのに、そこだけアップされます。確かにそういう演奏もありますが・・・。

パーヴォの作り上げるブルックナーは独特のものだと思います。番組最初のインタビューで彼は「神々しい音楽ではなく人間的な音楽」というようなことを言っていました。ブルックナーの交響曲を「神々しい」あるいは「人間を超えた」と言うように考える向きをありますが、パーヴォはもっと素直に、自然に演奏したのだと思います。それが非常に新鮮に聞こえたのではないでしょうか。同じことを別の人が考えてもこのような演奏になるとは限りません。パーヴォの人間的な魅力がオーケストラに伝わっているのだと思います。

アンコールはスェーデンの作曲家「ステンハンマル」の間奏曲が演奏されました。非常に美しく、パーヴォのステンハンマルに対する思いが現れた感動的な演奏でした。水曜日のヴィルトゥオーゾオーケストラのアンコールがスラブ舞曲・ハンガリー舞曲、それも騒がしい曲を2曲も演奏したことに比べると、そのセンスの良さが際立ちます。「パーヴォ」に目が離せないと言う感を強くしました。

世界の楽壇を担うであろう若手指揮者を概括して見した。自分と同じ世代・自分より若い世代が楽壇を引っ張る時代になりました。それぞれがユニークな個性を持っていて目が離せません。

ワレリー・ゲルギエフ(1952)、キーロフ、ロッテルダム、ロンドン
チョン・ミョンフン(1955)、ローマ(スカラ)、フランス国立放送
サイモン・ラトル(1955)、ベルリンフィル
ケント・ナガノ(1951)、モントリール
フランツ・ウエザー・メスト(1960)、クリーブランド、ウイーンフィル
クリスチャン・ティーレマン(1959)ミュンヘン、ドュッセルドルフ
パーヴォ・ヤルビ(1962)フランクフルト、パリ管



2008年09月03日(水) ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラ演奏会

日本のプロオーケストラの首席演奏者等から構成されているジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラの演奏会に行ってきました。会場はサントリーホール。実は2日の演奏会を希望して当選していたのですが、急用が入ってしまい、主催のNTTデータの広報室にお願いして3日に変えて貰ったのでした。随分昔NTTデータに所属していたことがあったので、広報室の方は知る由もないのですが、気安くお願いしてしまいました。演奏曲目・指揮者・ソリストは以下の通り。

1.歌劇「リュスランとリュドミラ」序曲。
2.ベートーベン交響曲第7番
3.交響組曲「シェラザード」
(アンコール)
1.ドボルジャーク「スラブ舞曲第8番」
2.ブラームス「ハンガリー舞曲第5番」

指揮:ムーハイ・タイ(上海音楽大学教授)
コンサートマスター:ハーヴィー・スーザ


NTTデータ主催で抽選で当たった「無料」のコンサートだったのですが、正直言って少し「後味が悪い」のものでがっかりして帰ってきました。「ビルトゥオーゾ・オケ」は三枝成彰が提唱して組織されたもので、各プロオケの首席クラスの臨時編成オケ。確か最初の演奏会の曲目は「ローマの松」だったと思います。テレビで放送され、日本人オケとしてしっかりした(馬力の面)演奏だったことを記憶しています。始めから細かいニュアンスだとか、こなれた美しい音色は期待できませんが、指揮者がムードを盛り上げれば「名演」も可能だろうと考えて応募したのでした。

「サイトウ記念オケ」が一応「斎藤秀雄門下生+小沢の音楽に付いていく」というコンセプトがあるとすると、こちらは「とにかく首席クラスを並べる」というコンセプトだけで、どのような音楽を演奏するのかは指揮者次第であるといえます。

その指揮者(ムーハイ・タン師)の音楽は期待の正反対のものでした。これは技術の確かなオケから、ものすごいスピードでも音楽の輪郭が崩れないスリリングな音楽、あるいはここぞと言う時の管楽器・弦楽器の分厚い音を引き出すことを狙ったように思えます。細かくニュアンスだとか、弦楽器の艶のある和音だとか(例えばべト7の2楽章)を聴くことはできませんでした。

集められた演奏者からすると、代表して意見を言うべきコンサートマスターが外国から招聘されていて主催者側に文句が言える立場ではないし、指揮者は主催者側が選んだ人であるのですから、解釈に不満があっても黙って演奏するしかないですね。選ばれたという「名誉」とある程度の出演料をも貰っているのでしょうから。因みにコンサートマスターはインドのボンベイ出身の若手のバイオリニストでした。ひょっとするとボンベイ室内オケで「ジニー先生」の教え子かもしれません。

ムーハイ・タイさんは「決め」を重視する指揮手法に加え、過剰な「キュー出し」が気になり、どういう音楽をやりたいのかまったく見えてきません。とにかく「スピード」と「強弱(キメ)」だけを強調した音楽に聞こえてしまいます。日本とインドと中国が力を合わせても西洋音楽の分野では新参者という域をでない演奏になってしまいました。

三枝さんが日本楽壇の成長の真価を見せるために組織した「ヴィルトゥオーゾ」ですが、正しく現在の状況を表しているようでした。つまり現在のプロのオーケストラが非常に危険な状況を迎えているということ。音楽大学の増加、子供の頃からの訓練環境の大幅な進歩によって、技術的には非常に高いモノがあるけれど、演奏者自身が本当に音楽を楽しんでいるとは決して思えないのです。少なくとも今日のベートーベンの7番などは、演奏者側もつまらなかったと思います。

サッカーの全日本も頼りないし、オリンピック野球チームもしまりのない試合をしましたが、似たような組織の「ヴィルトゥオーゾ」も名演を聞かせることはできませんでした。




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