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No-Mark Stall *




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まよいました。 | 2007年01月31日(水)
セシル・ケージは、霧に濡れそぼつ自慢の金髪を指先で払いながら大仰な溜息をついた。
「なあバーレイ、俺たちこのまま遭難するんじゃないかなあ」
「既に遭難してるだろ」
彼より二回り近く小柄なアラン・バーレイは、帽子を被り直して嘆息した。
「大体お前がだな、あの御者の言うことに従ってりゃこんなことにはならなかったんだ」
彼らをこの近くまで運んできた御者は、霧が広がり始めたのを見るなり町に戻るとふたりに告げた。何が何でも今日中に目的地に着きたかったセシルと意見が合わず、結局彼らを此処に下ろして御者は帰っていったのだが、友人など見捨てて一緒に町に戻れば良かったかとアランはこっそり考えた。
セシルはそれを見透かすように目を細め、けれどそんなことなど微塵も感じさせない呑気な調子で曇った空を見上げた。
「あの御者はこんな霧ひとつをそんなに怖がってたんだろうねえ」
「僕が知るか。不測の事態が起きたときは地元民の言うことに従う。セオリーだろ。それを無視しやがって」
「だってねえ、海や山じゃないんだし。近くだっていうから歩いても行けるかなあと思うのは変じゃないだろう。何せ俺たちが暮らしてるのは霧の都と謳われるカプトゥ・ムンディだ、こんな田舎の霧に怯えて引き返したとあったら友人に笑われる」
手に馴染んだ杖を軽やかに振り回しながらセシルは笑う。
濡れた外套の重みと冷たさに疲労が溜まりつつあるアランは、諦めたように首を振った。
「それで迷ってたら世話ないっつの」
「まあそうなんだけどねえ」

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必要から誕生したABCCコンビ。
道に迷って辿り着いた屋敷に宿を求め、その夜に起こる惨劇――とかテンプレっぽい感じですね。ホラーファンタジーとか好きです。
ていうかぶっちゃけベティさんの話なんですが。何度か冒頭を書き直して第三者の視線が要ることにようやっとこ気付いてキャラ固め中。
新たなる時が巡りてまた繰り返される。 | 2007年01月19日(金)
――そうして、千年の王国は滅びゆく。

建国の祖はヴィンツェンツ、東の故国を兄に追われて一族と共に西の地に逃れ着きたり。都の礎を築いて世を去りぬ。
父の名を継ぎ王に立ちたるヴィンツェンツ・アントーン、国の理を定め、人々を率いて周辺の土地を平定す。
それより五代の間は平穏な時を過ごしたり。蛮族の襲来はあれど、輝かしき王国に一片の曇りなし。
次に立ちしはオスヴァルト、東の帝王シルヴェストルと約定を結び南の都を陥としたり。されど盟友シルヴェストルの裏切りにあいて命を落とす。
伯父の仇討ちを神に誓いし次王アンドレアス、己が地盤を固めしのちに、老齢に至りたる帝王シルヴェストルの首を討ち取りて誓いを果たす。
北の地は西も東も我らが王国の土となりき。
以後の四代は嵐を受けることなくその治世を終え墓所に眠る。南の蛮族の襲来他瑣末はあれど磐石たる王国を揺らすに足らず。豊穣の大地を離れるべき理由なし。
栄える王国を次に継ぐのは鷹の目と恐れられし王ライヒアルト、武勇はなけれどその英知をもちて国を治むる。己が国の民を愛し、また彷徨う民を迎え入れ、慈愛の君とも仇名されし。
夭折せし兄王の位を継ぐ賢王クラウディオ、健やかなる王国のために尽力す。その新しき定めには未来の民も賞賛を惜しまず。
時代は下りて三代のちの王テオバルト、先代よりの無軌道な政により民の粛清を受ける。各地での蜂起になす術なし、斬首に処され弟王アンゼルムの治世となりき。
これを境に国は緩やかに衰えゆき、最後の王リューディガが立ちしは建国より九百八十九年、代にして二十を数える。
大国として北の地に君臨せども、其が眼差しは力を失くし、威光は薄れ、ついに身の内より滅びの扉は開きたり。偽王が立ちて国は乱れ、豊かな土地を求める国々の侵攻を待つまでもなく崩壊す。
建国より千年、最後の王は玉座を穢しし偽王ともども戦によりてその命を失い、光満ちたる北の王国はついに終焉を迎えたり。
次に国を纏めたるは民自ら、攻め入るかつての同胞と蛮族を辛くも押さえ、新たなる国は血に塗れて誕生す。
written by MitukiHome
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