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No-Mark Stall *




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Bloody Betty of Strawberry Hills. | 2006年12月31日(日)
ストロベリーヒルズの子供たちにとって、彼女の存在はまさしく『おとぎばなし』だった。
血のように真っ赤な巻き毛に、真っ黒いドレスをいつも身に纏っている彼女は、枯れた色合いの野原ではよく目立つ。
大人たちが眉をひそめるそれは、ひらひらとしたレースがふんだんに使われたもので、色はともかくそのデザインは女の子たちの憧れだった。
手にしたかごにはお菓子がいっぱい詰まっていて、野原で遊ぶ子供たちに行き会うと、彼女はいつもそれを配って歩いた。
仲良しになった子供は彼女の大きなお屋敷に誘われて、豪華な食事をふるまってもらえるという。

ストロベリーヒルズのブラッディベティ。
大人たちからは気の狂った娘と哀れみと嫌悪のこもった視線を向けられ、子供たちからの憧憬と畏怖を一身に浴びる彼女はいつも、笑っている。

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「ファルトヴォック、遊びに行きましょう」
彼の主人は一体何がそんなに楽しいのかとこちらが呆れるくらい、無邪気な笑みを浮かべている。
「どこへですかと聞く必要はありますか?」
「ないわ。シンシアに約束したのよ、いちごのパイを持っていくって」
彼女の軽やかな動きに合わせてスカートの裾がふわりと舞い上がる。軽い素材のせいか膝近くまで足が見えて、彼は溜息をついた。
「ああ、昨夜私を叩き起こして作らせたのはそういう理由ですか」
「そうよ、あのこは可愛いわ。うちに招待したいくらい」
うきうきと楽しげな彼女に、彼は顔を凍らせる。
「やめておきなさい」
「ファルトヴォックはいつもそれね。してはいけない、そればかり」
従者のこわばった表情に気付いていないのか、それとも気付いて無視しているのか、彼女は甘えるように口を尖らせた。
「あなたがそういうことばかりするからでしょう」
「主人に口答えするなんて悪い下僕ね」
「あいにく、私の役目はあなたを危険から遠ざけることですので。そのためならば多少の反抗は構わないとあなたのお父上からもお許しを頂いておりますが?」
その言葉に気分を害したらしい彼女は、そっぽを向いて歩き出した。その半歩あとに彼は続く。

「……ファルトなんてきらいよ」
「知っておりますよ」
「ほんとにきらいなんだから」
「はい」
「……ほんとよ?」
ちらりと振り返る主人に、彼は微笑を返した。傍若無人に振舞おうとして、どこかそうしきれないでいる彼女の甘さを彼は何より愛している。
「ええ。嫌われようと泣かれようと、私の役目は決まっていますから」
「……そうね、あなたの役目は私にお小言をいうことだものね」
「おや、夜中にご主人さまに叩き起こされていちごのパイを作らされる哀れな下僕にひどいことを言いますね」
「結構根に持つのね、あなた」
「ええ、記憶力が良いのが私の自慢です」
言い負かすのを諦めたのか、彼女はこめかみを軽く押さえて首を振った。
「ああそう、それは良かったわ。じゃあ行くわよ。パイとティーセットは持った?」


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猟奇主従。従者のキャラ付けに迷っていましたがこの方向で決まりそうです。彼視点で書いたりしたらご主人さまを褒め倒す文章しかなさそうです。話すすまねえ。

お伽話っぽい感じで可愛くてえぐいというかちょっとぐろい話にしたいなあとか思っています。
つぐみの姫君とその下僕。 | 2006年12月05日(火)
ハイハラグーンの歌姫姉妹のことならば、石畳を裸足で走り回る五歳の子供でも知っている。

姉姫は艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、愛らしい小さな唇で、さえずるように歌を紡ぐ。美しいかんばせに笑顔は絶えず、小鳥のような有り様に、ついた仇名は鶫姫。
その目は光を知らないが、軽やかに喜びを謳い上げるその声に、罪人ですら希望を見出し涙するという。

妹姫は肩ほどまでの黒髪に、そらすことを許さぬ強い瞳をもって、あらゆる歌を朗々と歌い上げる。魂を穿つその歌声は空前絶後、世界の至宝、楽の音を好む竜王ですら彼女の前には頭を垂れ歌を乞う、とひとびとは讃える。

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宴を終えた鶫姫は、自室に戻ってそっと溜息をついた。
常に彼女の傍に控える従者が、耳聡くそれを聞きつけて眉をひそめる。
「リューディア、疲れているようならば――」
「違うわ、ミスラ。……私はどうしてこう才能がないのかしらと、ちょっと思ってしまっただけよ。あの子と比べるのは無意味だと、誰より私が知っているのにね」
通っている学校が長期の休暇に入ったからと、父親に呼び戻された不機嫌なクリスティアーネは、やはり彼女の都合を無視して開かれた宴で歌を望まれた。
自分は感情のままにしか歌えないがそれでも良いのかと問われ、頷いた聴衆に向かって彼女はひとつの歌を紡いだ。
とある歌曲の一節、良家の令嬢が望まぬ夜会に連日駆り出され、「どうしてお父様は私のお願いを聞いて下さらないのかしら、見世物になるのはもううんざりよ」と不満を誰にともなくぶつけるという、まさにクリスティアーネの現在の状況そのままの歌である。
けれどその歌は、宴に出ていたひとびとの心全てをあっという間にさらっていった。
美しい声を聞く、酩酊するような快さと、聴くものの心を跪かせ、歌声にこめられた不満を自身の感情と錯覚させかねない強さにあてられ、大半のひとびとはその場を辞してしまい、その流れのまま、夜会は終わってしまった。

「自分の感情に従ってでしか歌えないとは、彼女はまだ歌姫としては未熟なのでしょう」
心を酔わせる歌声には慣れているミスラは冷静な顔を崩さずに言ったが、リューディアは小さく首を振った。
「ミスラ、……あれはね、あの子が歌を聴かせたいと思っているひとがその場にいなかったから、あんな荒削りでどうでもよさそうに歌ったんだわ」
「つまり、歌いたくないけれどしょうがないから適当に歌ってすませようという自分の感情に忠実だったということでしょう」
いつものことではあるが、どこか刺々しい従者の反応に、姫君は苦笑をこぼして肩を竦めた。

「ミスラはクリスティアーネが嫌い?」
「素晴らしい才能とは思いますが、興味はありません。私が望む歌姫は彼女ではなくあなたですから」
迷いなく断言する声に、彼女は不思議そうに瞬いて苦笑すると、ミスラの方を振り向いた。
リューディアの目は現在、完全に見えないわけではない。以前はそうだったが、ここ数年で光の明暗や、顔を限界まで近づければ、おぼろげながらもかたちや色を見て取ることができるほどに回復している。
それでもこの距離では彼の姿を捉えることはできないはずだが、彼女はいつもミスラのいる位置を正確に振り返る。

「……リューディア?」
困ったように名前を呼ぶミスラに、彼女は困ったような顔で笑いかけた。
「私ね、……本当は、あんまり、人前で歌うのは好きじゃないの。顔が見えなくて厭だわ。あなたやお父様やお母様に歌うときのように、聴いてくれるひとの気配がすぐ近くにないと、怖い」
彼を探して伸ばされる腕をすぐに手に取り導きながら、彼はじっとリューディアを見下ろした。
ミスラの胸に体を預け、彼女はゆっくりと目を瞑る。

小さく柔らかな唇が囁くように歌うのは、クリスティアーネが歌った歌曲の続きの一曲。
昼間にお忍びので出かけた彼女が運命の恋人に出会い、けれど周囲には認められず、壊されかけている恋を必死に守ろうとする歌だった。


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えらいぶつぎれですな。

歌姫とその従者3組目。珍しくしっとり度高めのひとたちです。
ちなみに1組目はこの彼女の妹とそのへたれ従者で、2組目は今は下げてしまったちんまいお姫様と尻に敷かれてる従者。
ていうかこのひとたち前にもちょこっと書いた気がしますが、かなりの高確率で前とは名前とか設定が違うだろうと思います(アバウトすぎだお前)。

ハイハラグーンは3人兄弟です。兄姉妹。
妹ふたりが結婚する気全くないので、あからさまにシスコンなお兄ちゃんは親の期待を一身に背負い、邪魔者従者を追い払おうと画策したりで大変です。
WHL。 | 2006年12月04日(月)
――秘される伝承。

――Witchcraft
王子の謎と魔女の秘密。
運命は黄昏と共に墜ち、けれど断たれるはずだった未来を繋ぐ。
誰も知らない奇跡を起こした魔女の力。

――Heaven's orbit
夕暮れの東の空に浮かぶ月、星をも手にする稀代の歌姫、黎明を待たぬ太陽の担い手。
隠された小さな真実を追い求める旅路は、やがては世界の深部へと辿り着く。
福音を受けた天国の軌道は狂い、雲纏う白き城砦に神の鉄槌が撃ち落とされる。

――Last prophecy
創生の鍵、死人の門。
宵闇を渡る王、蒼穹の覇者、旗手たる黒羊。
偽神の天秤、神降る白き虹、三天を統べる女王の到来。
六十と六の巡りを重ね、ついに旧き契約の棺が開かれる。

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伝承歌予告もどき風要旨メモ。
自分の趣味と好みをこれでもかとめいっぱい詰め込んだ話なので1度妄想スイッチが入ると止まらなくなります。原形考えたのが中学生の頃なので厨くささ全開です。それでもいいんだ好きだから。
メイン張る3ペアからしてどれも青年少女、内2組が主従なあたり原点とかそういう言い方してもいいかもしれない(……)。
Witchcraftも4歳差で本文での形容は青年と少女だものなぁ……。

とりあえず生きてるうちに書けるように頑張ります。この話より先に書きたい話も溜まってますギャー。
めも。 | 2006年12月02日(土)
伝承歌世界の超個人的メモ。

伝承歌/Vulgata
├Witchcraft
├Heaven's orbit
└Last prophecy

元々はふたつだった世界がひとつに融合したのが伝承歌世界。
ひとつの世界にふたつ分のエネルギーが詰まっているため非常に不安定。
世界が不安定であるため余剰分のエネルギーを用いて世界に干渉、つまり魔法の使用が可能になっている。

世界のかたちを模して生物も生命力という器を維持する力と、それとは別の魔力の二種類の力を持っている。両方ないと生きていけない(人間は元々Aの世界の生物であり、Bの世界の残滓が異物であるAの世界の生物を排除しようとする力に常に干渉されるため、それに拮抗するための力として魔力が必要)。
魔力と生命力は本質的に同価値同性質であるが、全く別の力と認識される。才能があればどちらかをもう片方に変換することも可能。
何かふたつのボトルがあってそれぞれ中身が一定量以上入ってないと死ぬけど、片方の中身をもう片方に移したりすることができるといった感じが近い。
生命力のボトルは皆同じ大きさだけれど魔力のボトルの大きさはそれぞれ(しかし最低ラインは絶対値なので皆一緒)。
生命力は時々ちょっとだけ回復もするけれど基本的に減っていくだけ。魔力は減っても世界の内にある無色の力を魔力に変換して吸収して回復することができる。無色の力→魔力変換装置は誰も持ってる。機能は個人差。無色の力を変換せずに取り込むのは毒。
魔力が減りすぎると生命力も引きずられて減ったりするので要注意。


Aの世界とBの世界がダブるように存在している。その「向こう側」の生物がいわゆる魔族と呼ばれる人外の存在。説明のためにAとかBとか呼んでいるものの分離はできない。色の違う半球状の粘土をふたつ捻りながらくっつけて球状にした感じ。全部が全部まざりきってしまっているわけではなく、純粋なAの世界やBの世界も一部には残っている。それが「向こう側」。
基本的に魔力はBの世界に干渉するもので、その結果が大元の新世界に反映される。純粋なBの世界で魔力を使うとダイレクトにBの世界に結果が出る。大きな魔法はAの世界にも影響を及ぼすが、基本的に混じり気のない部分で起こったことは他に影響しない。魔力がBの世界に干渉するのはBの世界がもともとそういう性質を持っていたから。純粋なAの世界では魔法はほとんど使えない。
新世界は余剰エネルギーが多すぎるが故に安定できずに力の干渉を受けやすくなり、更にBの世界のそういった性質を大なり小なり受け継いだので魔法を使うのが元々のBの世界より容易になった。
Aの世界の方が小さく、Bに殆ど食われ気味。
魔族も生命力と魔力のふたつの力を持っているが生命力の比重は小さい。

2つの世界のルールが同時に適用されている感じといったら近いのかなあ。
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