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No-Mark Stall *




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罪と罰を求める。 | 2006年10月27日(金)
「……私、あなたのことは好きよ。お義母さまもお義父さまも。でもあの子だけは認めないわ」
そう囁く妻の視線は遥か遠く、砂塵に煙る地平の向こう側を見ている。
彼は小さく息を吐いて、平行線を辿り続けるやりとりを何とか交差させようと口を開いた。
「彼女とてやろうと思ってやったことではないよ。誰ひとりとしてあんな惨劇は望んでいなかった」
「でも、罪を犯したことは事実だわ。そうして何の罰も受けず、自分のやったことも忘れてのうのうと生きてることも」
声に感情を抑える響きが混じる。
それが悲しみなのか怒りなのか憎しみなのか、或いはその全てなのかと考えを巡らせ、彼は緩く首を振った。そんなことを考えても意味はない。
「追放ということで一応決着はついたはずだがな。その上君は彼女に何を望む?」
「そうね、……私から奪ったひとを返してちょうだい。それが出来ないなら死んで」
彼女は一度も彼の方を見ようとしない。一歩近づき、彼はそのまろやかな線を描く肩に触れた。
「落ち着けナーシャ」
その手を払い、振り返った彼女は眉を吊り上げ目を潤ませ、きっと彼を睨みつける。普通の男なら恐れはしないまでも多少は怯むであろう剣幕にも彼は動揺せずただ、大きな瞳だなとぼんやり思う。彼女の黒い双眸はとても澄んでいる。怒りをこんなに美しく表現するものを他に彼は知らない。
「だって結局、あなたは私じゃなくてあの子の味方をするんでしょ」
「私はどちらかといえば君から母上を奪った立場だからな。――俺が気付いていれば、少なくとも妹はあんな傷を抱え込んで、挙句暴発させなどしなかったはずだ」
その言葉は幾分彼女の勢いを削いだらしく、ナーシャは気まずげに視線をそらした。
「……あなたは悪くないわ」
「さて、どうだろうな。……私は母の狂気に気付いていた。気付いて恐れて見ないふりをした。その結果があれだ」
「でも、あなたは子供だったわ。大人の暴力に怯えて当然でしょう」
「そう、私も妹も力のない子供だった。そしてそれすら罪になる」
彼は咎めるつもりはなく、ただ実感として出た言葉に過ぎなかったが、彼女はそれをそう受け取ったらしい。ふいっと顔をそらされる。
頬に手を添えてこちらを向かせると、彼女はどこかふくれっつらの子供のような、拗ねた調子で彼を見上げた。
「ねえあなた、結局あなた私にどうしてほしいの」
「妹のことを許せとは言わないが、できれば君の傷が癒えることを。ナシャークラ」

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シスコン兄貴は書いてみたら案外愛妻家だったという話。
しかし出てくる夫婦カップルそろって砂吐きたくなるようなラブラブっぷりはどうかと思います自分。

しかしいい加減書きたいところです。大筋の設定と話は出来ているので早く書かないと腐りそうだ。
というか夏休みに書く予定だったのにアビスに熱中してしまってさっぱり進んでおりませんorz
written by MitukiHome
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