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No-Mark Stall *




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おっさんの相談室(違)。 | 2006年01月19日(木)
「……なあ、おっさん。結局巫女姫とやらって何者なんだ?」
一見黒にも見える、深い緑の瞳が呆れたようにじろりと少年を見下ろす。
最初こそ思わず肩を竦めていたが、険のある目つきの割に人畜無害な性格をしていることを既に知っているアーウィーはそのままじっと答えを待った。
「お前、そんなことも知らないで竜を扱っているのか」
零れた溜息に、むうと彼は唇を尖らせる。
「俺に限らず、都の出の奴らは皆そうだよ。せいぜい知っててそういう名前で呼ばれるえらいねーちゃんがいるってことぐらいだし」
「……別に偉くもないのだがな」
「?」
「巫女だの姫だの仰々しいもったいぶった名前で呼ばれているが、実際のところ一族にとってあれは危険物、厄介な代物でしかない。ここ数代は特にそうだ」
「とりあえずアンタの意見はいいからどういうものか教えてよ」
そのまま脱線して愚痴を零し始めそうな青年を押し留め、アーウィーは答えを催促する。
鬱々とした心情を吐露し損ねたオーディは、その代わりにこっそりと溜息をついた。彼女に関するあれこれを思い出す度、胃がきりきりと痛む。

「端的にいうならヒトと竜の狭間の生きもの、といったところだな」
「人間じゃねえの?」
「肉体は人間そのものだ。だが在り方というか考え方というのか、そういうものが人間よりも竜に近い」

それは竜のことばを解し、ひととの間を取りもつもの。
竜の因子を持つ生きものは、母を姉を慕うが如く、彼女の言葉には――それが例えどんな無茶なことでも、盲目的に従うのだという。

説明を聞いていたアーウィーの顔が渋る。
「それさあ、不謹慎だけど、例えば崖から飛び降りろとか言ったら」
「迷うことなく飛び降りるだろうな。けれど彼女たちは気でも狂わぬ限りそのようなことは言うまい」
「何でさ?」
「竜のことばを解すということは、半ば感覚を共有するようなものだ。竜が深い傷を負えばその痛みは彼女自身にも返ってくる。傷を負わなくてもその痛みは壮絶なものだと聞いたな」
「……」
「まぁそんなことがなくても竜を死なせるような命令をする巫女姫などおるまい。全ての竜にとって彼女が絶対的な母であるように、彼女にとって全ての竜は半身のようなものだ」
オーディの視線は、手綱を引いている自分の相棒に向けられている。
彼の一族にとって、意思を交し合うことの出来る『半身』の竜を見出すことは、ときにヒトの伴侶を得るよりも重大なこととされている。

*

「……俺さ、コイツと話せないんだよね」
「ほう?」
緑の瞳がそっと細められる。
「乗せてくれるし、嬉しいとか怒ってるとか、そういうのは何となく分かるんだけど。アンタらのいうように会話までは出来ないんだ」
「気にすることはない。私もこれと出会ったばかりの頃はそんな感じだった。ともあれ触れ合い理解しあうことが重要だ。そのうちに何となく『通じる』」

******

竜のお話を練り練り。片付けてない中編片付けてからになると思いますが。
竜はえーと、でかいトカゲていうか恐竜あたりをイメージして下さい。
忠告。 | 2006年01月05日(木)
「……いいか、ひとつ教えてやろう坊主」
頭ふたつ分ほども慎重に差のある少年を見下ろしながら、大真面目な顔でオーディは忠告する。
「おっさんに坊主呼ばわりされる筋合いねぇよ」
「俺はまだ二十八だ」
「十以上も俺より上だし何より人生五十年、半分も過ぎてりゃ十分おっさんだろ」
「……」
ちょっと立ち直れないかもしれない。
黄昏つつも生意気ながきんちょにきっちりと一発拳をくれてやったオーディは、気持ちを切り替えて話を元に戻した。
「いいから年上の忠告は静かに聞いておけ」
「へいへい。そんで?」

「――女には逆らうな。特にアレだ、恋は盲目状態に陥ってる他称夢見る乙女、自称恋するオンナノコ、というような傍迷惑な存在だけは全力で避けるか、そうでなければヤツらの言うことには大人しく従っておけ。下手に現実的な突っ込みを入れると命が危うい」

「……」
かなり目が本気だった。
「つーかそれおっさんの経験談?」
「ああ、経験談だとも。そうでなければこんなこと言うか」
彼の後ろに控えてるこれまた生真面目そうな顔つきの従者が真顔で大きく頷く。
「あいつらほど物騒な輩はいない」
「あのさー、それ、あんたの周りの女だけだろ。フツーに考えて、この世の中そんな女ばっかだったら世界が滅ぶ」
オーディが難しい顔で黙りこむ。
「……心配せずともこのままだとじきに都のひとつやふたつは崩壊するだろうな」
「何そのつまんない冗談」
しかも笑えない。

「冗談ではない。私の知る限りでこの騒ぎに関係している女たちは皆そのような性格の人間だ。しかも周囲に物理的な損害を与える能力はかなり高い」
「……げー……」
やだ近寄りたくないそんなの。
「今代の巫女姫は武芸にも長けていらっしゃいますからね……確かに本気で暴れられたら屍の山が出来てもおかしくはない」
従者がぽつりと呟く。
「――巫女姫?」
聞いたことのある単語にアーウィーが首を捻った。
「今回の騒ぎの大元だ。全く放っておけばいいものを、下手につつくからとんでもないことになる」
「……何かやらかしたの?」
「追い詰めたのは貴様らであり、そして我々の仲間が迂闊にもトドメを刺した。最早アレを止められる可能性があるのはひとりしかいない」

「……可能性、なんだ?」
「可能性、だ」

******

アホ会話ですが内容は実は割と真面目。なはず。
この話はぶっちゃけたところ「オンナノコ、大暴れ。オトコノコ、大慌て。電波とへたれだらけの中、目指せ(自分の)ハッピーエンド!」なお話です。カッコがつくところがミソ。ついでに電波は(以下略)。

しかしオーディはやっぱり狂言回しな役どころになるなあ。
written by MitukiHome
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