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No-Mark Stall *




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やりとり。 | 2005年08月25日(木)
「……」
ずい、と目の前に差し出されたものを前に、彼は口を閉ざしてしげしげとそれを観察した。
「その沈黙は何?」
珍獣でも眺めるかのような彼の行動に、口の端を引きつらせたアマーリエが怒りの滲んだ微笑を浮かべる。
ようやく視線を彼女に戻したツィレルは、人差し指を突きつけて心底不審そうな顔つきで訊ねる。
「……食べても平気なの、これ」
「――当たり前でしょ。それとも食べ物に見えない?」
白いこめかみに青筋が浮かび上がる。
慣れているのか気付いていないのか、彼は火に油をどぼどぼど注いだ。
「傍目には美味しそうでも実際はひとを殺せるような料理を作る男を知ってるから信用できないんだよね」
「……あたし家の中じゃ料理担当してたのよ。美味しいって評判だったんだから!」
ばん、と皿を載せた盆を机の上に叩きつけてアマーリエが叫ぶ。
衝撃でオムレツが宙を舞った。妖精たちが何とか死守して皿に戻す。
その様子を見守っていたツィレルが首を傾げながらフォークを手に取った。
「ふうん。まぁ死人が出てないなら即死するような毒物ではないかな。じゃあいただきま――」
言い終えない内に皿が視界から消える。
見上げると、微笑む般若の如き様相でアマーリエがツィレルを睨みつけていた。
「そんなことを言うんなら食べなくて結構ですッ!」
「誰も食べないとは言ってないよ」
「態度で充分言ってます。いいわよもう絶対あげない」
つーんとそっぽを向いた彼女の袖を、しまったなぁという顔つきでツィレルが引っ張る。
「だから食べるって」
「だから無理して食べなくていいですー皆と分けながらあたしが食べるわ」
折れないアマーリエに、彼は気付かれないようそっと溜息をついた。相変わらず強情だ。
「有り難く頂きますよ。だからほら」

「……文句言わずに完食してよね」
「はいはい」

******

何だかんだで段々バカップルになっていくひとたち。
変態魔法使いに甘えてる場合じゃないぞアマーリエ(でも先に絆されたのはツィレルの方)(……)。
雨月の夜。 | 2005年08月19日(金)
静かな雨音に、彼女はゆっくりと瞼を開いた。
宵闇の向こうで、雨が降っている。
さあさあと耳の底に残る音楽は酷く心を落ち着かせる。
雲の上では月が輝いているだろうか。

ふわりゆらりと漂う意識は再びまどろみにひきずられ。
意識――魂は何か大きなものに呑み込まれていく。

そうして消えてしまう寸前に優しい手にすくい上げられたような、或いは完全に沈み込んでしまったような、そんな錯覚を覚えた。


その夜、雲の海の上で月と踊る夢をみた。

めもめも。 | 2005年08月15日(月)
白道メモ。
多分8月終わる頃までには何とか始められるはず、だと思うのですが。
4〜5話くらいで収まる中編です。ジャンルとしては和風現代FT風味ホラーもどき?(どれ)
時機を逃してずるずるときてしまっているのでいい加減終わらせたいとじりじりしています。

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月の光がひとを蝕むのは、それが一度死んだ光であるからだ。
誰にも知られぬ奥深いところで、自身の泥に呑み込まれてしまいそうな者をたすけてくれるのは太陽ではない。

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知らなければならない、と思う。
知っている、とも思う。

思い出さなくてはならない、と。

けれども。
関わってはいけないと、もうひとりの私が囁く。
其処から一歩でも進んでしまったらもう元には戻れないと。

*

来てはいけない、と声がする。

けれども、その声こそが私を惹き寄せる。
誰より優しいその手をどうして離すことが出来るだろう。

私を救い上げてくれたあなたが私を破滅させるというのなら。

*

忘却は罪だ。
けれど、断罪者は何処にもいない。

だからこそ苦しい。

*

全てを受け入れて、今までの全てを捨てる覚悟がある?
見舞い。 | 2005年08月12日(金)
「……痴情のもつれ、ってやつ?」
「せめて愛情の証と言って欲しいね」
「や、ありえないだろ」
見舞いに来たはずの男は枕元でけらけらと下品な調子で大笑いしている。彼は、何処か冷たい印象を与えるらしい僕とは違って、深い笑い皺の目立つ人好きのする造作をしている。
だからと言ってここまで笑われればさすがに不快感を覚えるというものだ。
「もう帰っていいよ君。ていうか二度と来るな」
「やー、はるばる山を越えて見舞いに来た親友に対して冷たくないかそれは」
抗議をする間にも彼は引きつったような笑い声を断続的に上げている。
「……過去の悪行、君の可愛い奥さんにばらしてもいいんだけどね?」
「うっわ本当酷ェ! 鬼! 浮気がバレて刺された男に告げ口される謂れはねェよッ!」
「――君が帰ったらさっそく奥さん宛に手紙を書こうか。さて、どれから知らせて欲しい?」
ひゃあと情けない声を上げて彼は僕に縋りついた。彼女に抱きつかれるなら嬉しいが男相手は暑ッ苦しくて耐えられたものじゃない。
「待ってマジ勘弁! な! 俺たち親友だろ!」
「どうでもいいが背中を叩くのはやめてくれないか。――傷が開く」
「あ、悪ィ」
ぱっと手を離す。日頃からうざったい男だとは思っているが、長所を認めるにやぶさかではない。素直さは僕にない彼の美点のひとつだろう。
胴に包帯を巻いている僕をまじまじと眺めて、彼はしきりに頷いている。
「……何」
「んー? 傷の治り遅くなったなと思って」
「……そういえばそうだね、随分長引いている」
以前の僕ならきっとこの程度、七日もかからず完治していただろう。
しかしこの怪我を負ってから既に十日。――呪いは確実に弱まってきている。
「普通の人間に戻る日も近いかな。良かったじゃん」
「ああ」
真白い包帯を見下ろす。
しみじみと感慨にふけっていると、すっと襖が開いて彼女が顔を出した。
「えぇと、頂いた西瓜切り分けてみたんですけどいかがですか? どうせふたりだけじゃ食べ切れませんし」
「うっわありがとーやっぱこいつには勿体ないなァ。何ならもっとイイ男紹介するよ?」
この手の軽口に慣れない彼女は、苦笑を浮かべて「ごゆっくりどうぞ」とだけ言い残すと早々に退席してしまった。

「……そんなに睨むなよ」
「別に睨んでない」

******

落ちないまま強制終了(……)。

77題60番、微エロ気味意味不明バカップル彼氏視点のその後的没小話。
プロットもなしの一発書きなので設定が色々とぼろぼろです(ていうか大抵短編はそんな感じ)(……)(Aquariumと蒼の向こう側は部活に提出しただけあってさすがに事前に道筋くらいは立てていましたが)。
過去の遺物公開。 | 2005年08月05日(金)
メモライズ時代にしたためていた詩もどきが出てきたので載せてみます(えーと1番新しいもので1年ちょっと前くらい? の代物)。

***

未だ蕾の冬の花。
いずれは醒め逝く眠りの淵に咲き誇れ。

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藍の褥に夢見る花弁の白き夢。
闇色の彼方に銀に閃く現の幻。

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精神を何処までも澄ませる無音の夜。
いずれ還る闇の感触に深淵へと沈みゆく。

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湖面の向こうに揺らめく都。
今は廃墟となりにし彼の地に眠る魂の、夢のかたち。

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魔女の館は緑の夢に満ち溢れ、
茨の小路は現へ繋がる捩れた未来。

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いのちは芽吹き咲き誇る。
しかし、咲いて散るは花の宿命。

儚きものは夢か現か。

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巡り逢う必然のために。
一体幾つの偶然を積み重ねれば足りるのだろう。

やってくる季節は春。
暖かさに満たされる、出逢いと別れの刻。

*

いつかは還るもの。いつかは失うもの。

心の痛みに目を閉じて、
その"いつか"を待ち望みまた厭うのは。

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炎の絶えた祭壇の上から、姫は騎士に爵位を与える。
命の絶えた白き棺の前で、騎士は姫にすべてを捧げる。

An ostrich and a marginal man.
They're my titles. They're my names.


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蝋の翼を負う者よ、
どこまでも高く遠くへ飛翔せよ。

その背の翼が溶けるまで。

*

すべての終わる冬が来た。

雪色の渡り鳥は南へと飛翔し、
私はひとり静かに灰色の空に還る。

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空に落ちる涙はいつしか、
海に溺れる月になって蒼く染まるの。

*

望むのは数瞬の安らぎ。
夢を見ないほどに、深く落ちていけばいい。

永遠なんて願わないから。

*

帰らぬ日を想う心は、
静かにさざめき絶え間なく淵に寄せ、

いつかあのひとの心をうつでしょう。

*

くるくるくるくる、世界が回る。
小川の流れに躓いて、回り続ける花弁のように。
風に吹かれて空回る、子供が手に持つ風車のように。

同じ場所を廻り続ける、捩れた時間と運命のように。

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麦藁帽子を被って、白紙の地図を持って。
さぁ何処へ行こうか。

夏空の雲色の旗に青色の筆で何を描こうか。
今を忘れることのないように、この夏の全てを描こう。

*

海から生まれて陸に生き、死して魂は空に還る。

それは生命と祈りの紡ぐ永遠の螺旋。

*

無限の彼方に広がる夢幻。

So I find up my dear who have glaring eyes there.

紫電のひかりが導くものは。

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セピア色の天球儀と、銀色の本。

***

……うん何か若いなァ(遠い目)。
written by MitukiHome
since 2002.03.30