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母の嫁入り

4月某日。私の母の結婚旅行がとりおこなわれた。
両家の親戚が集まっての温泉旅行。
当日は、部外者であるはずのダーも同行してくれた。
ニュウ父が、ダーも招待したのだ。
私ははっきり言って私は憂鬱だった。
言うなれば、私は母の「連れ子」。
ニュウ父は、32の若さ。
ニュウ父の両親、つまり、ニュウ祖父母が、私をどう見るか、それを思うと嫌で嫌で仕方なかった。
はっきり言って、母とニュウ父、二人で勝手にやってくれという気持ちだった。
といっても、別に二人の結婚に反対していたわけではない(むしろ、賛成してたし)。
これから一生付きあっていくだろう、血の繋がりのない「家族」に対しての、第一印象が、今日決まってしまうのかと思うと、不安で仕方なかった。
こう言う時、世間知らずで、礼儀知らずな自分をすごく恨めしく思う。

旅館に着き、挨拶はさておき自分の部屋に行き、くつろいでいると、しばらくして母が
「リカちゃん、挨拶しにいこ」
と呼びに来た。私はダーに
「どうしよう」
という顔を向けると、ダーは
「大丈夫。行っといで。待ってるから。」
と言ってくれた。
母と二人、手をつないでへっぴり腰で、ニュウ祖父母の部屋へ。
そこにはニュウ父の家族一同が集まっていて、私は少しほっとした。各部屋に回って、何度も緊張しなくていいからだ。
正座をして、三つ指を着いて、
「リカです。これからどうか、よろしくお願いします。」
と言う。無理やり笑顔を作る。向こうの家族は思ったよりもいい人たちで、私の事も笑顔で迎え入れてくれた。少し、ほっとした。

部屋に戻り、しばらくして、夕飯前に温泉に行こうという話しになった。
温泉につかり、浴衣のまま、大宴会場へ。
かくして魔の両家顔合わせの宴会は始まった。

各自、自己紹介が済んで、宴会は始まった。
私は緊張のあまり、ご飯がのどを通らず、終始半泣きだった。
横に座ったダーは、
「おいしいよ。」
と、綺麗に平らげてゆく。
一番部外者で、微妙な立場なのに、堂々としているなぁ、とちょっと尊敬した。
そのうち皆お酒が入り、仲居さんがカラオケセットを持ってきた。
母、ニュウ父、叔母、祖父、と、歌を歌う。
私は、私に振られない様、小さくなっていた。
すると、叔母が近づいてきて、
「リカちゃんもなんか歌わな。」
といった。私はどうして良いかわからず、
「いや、あのな、私、今、いっぱいいっぱいやから、無理やねん。勘弁して。」
と言って、泣いてしまった。顔は笑っているのに。緊張のあまり混乱していた。
ダーが、笑って、
「リカの代りに、俺が歌います。」
と、身代わりになってくれた。
私は、向こうの家族に気づかれないよう、涙を拭いた。
叔母には、
「感激して泣いてる事にしといて。」
と釘をさして置いた。その方が都合がいい。幸い、その時、誰も私の涙に気づいてない様だった。
だけど、ボンヤリ、母とニュウ父が歌っているのを見ている時、一番下の叔母が私の涙に気づいて、
「何泣いてるのー」
と言いながら、私が感激して泣いているのだと勘違いして
「よかったな。」
と、貰い泣きされてしまった。
ごめんなさい。いっぱいいっぱいなだけなんですが。

私は、その後も、向こうの方がお酌して回っているのを見て、私もしなくちゃ行けないんだろうか、だとしたらいつ行けばいいんだ?なんてことでいっぱいいっぱいになったり、母に促されてお酌をして回っている時も、一人一人になんと言って挨拶すれば良いかでいっぱいいっぱいになったりして、あっぷあっぷだった。
ダーが、
「お母さんの事でそんないっぱいいっぱいになって、自分の結婚の時どうすんの。」
と笑った。私は、
「・・・その時はきっと気絶してるから、yowちゃん、後は頼んだで。」
といった。

宴もたけなわになり、酔っ払い続出。
叔母の元夫(つまり離婚した人。第二の部外者である。変なメンバーだ。)に手招きされ、行くと、彼もかなり酔っ払っていて、かなり説教された。
「リカ、新しいお父ちゃんの事、大切にしたらなあかんで。これからはお前のお父ちゃんやねんから。でもな、ほんまのお父ちゃんの事も大事にしたらなあかん。でもな、ほんまのお父ちゃんの話は新しいお父ちゃんの前であんまりしたらあかんで。」
といった内容の事だった。私が冗談で、
「経験者は語る、ってか?」
というと、
「あほ」
とはたかれた。いい人だ。
私が席を離れて、叔父と話している間、母とダーがなにやら話しこんでいた。
気になったので、
「なにはなしてたの?」
と聞くと、
「いや、リカのどこが好きになったん?って聞かれた。」
「・・・で、なんて答えたん?」
「一目ぼれですって言った。」
・・・母は後に、
「yowちゃん、いっつもあんなに優しいの?」
「うん。なんで?」
「・・・今までにないタイプやな。あんな人、今までの人生の中でおらんかったわ。ニュウタイプやわ。珍しいわ。」
と言っていた。
なんだか、失礼な事言われた気がするが、まぁいいや。

最後に皆で写真撮影をした時、母も、ニュウ父も、本当に嬉しそうだった。私はこれからも、微妙な親戚付き合いに悩まされるかと思うと気が重くなるのだが、その顔を思い出すと、
「まぁ、いいか。」
と思うのだった。
今回は、ダーが着いて来てくれてほんとに良かった。
2002年05月30日(木)

全うする事。

ダーは、お酒が大好き。カニ味噌と、日本酒があったら、一升は飲む。
それはいい。早死にしたって、美味しいものを食べて、幸せを感じて一生を過ごしたんなら本望だと思う。毎日飲んでるわけじゃないし、酒乱でもないし。

私が心配なのは、ダーが、仕事の付き合いで遅くまで飲んで、車で帰ってこなくちゃ行けない時。ダーは接待中にもたまに、電話をかけてきて、遅くなりそうだと言う報告とか、愚痴だとかをこぼす。それはいい。でも、その口調を聞いただけで、ダーが酔っ払っているかどうかわかってしまう私は、帰りの車が心配になってしまう。
「いっぱい飲んだんでしょ。」
「うん。日本酒の珍しいのがあって、ついつい。」
「もー!車で帰ってこなあかんねんで!あぶないでしょ!」
「大丈夫。」
「大丈夫ちゃうわ。ちょっと回ってるやん。家ではいくら飲んでもいいけど、車の時は控えろっていっつも言ってるでしょー!」
「ごめんなさい。」
「もー。酔い覚ましてから気をつけて帰ってくんねんで。」
「はい。」
接待で、飲まされてしまうのは仕方がない事だと思う。でも、一言「車ですので」って言えば、そんなに飲む必要もないだろう。
でも、電話を切った後、きつい事を言って、もし、彼が事故にあって、死んだりした時、最後の会話がきつい事なんて嫌だ。後で絶対後悔するだろう。だから、じゃないけど、いつも、電話を切る前に、お互い「愛してる」を言う。
彼は、「人間、死んだ時がその人の寿命で、人生を全うしたのだから、悲しんではいけない、悲しんだら、魂だって、天国に行くのを躊躇ってしまう。って親父が言ってて、俺もそうだと思う。」と言っていた。私はそこまで割り切れないから(彼も、彼のお父さんも割り切ってるわけではないだろうが〉怒ってしまう。自分の身を守ろうとするだけで、生存率〈と言うとオーバーだけど〉は上がるのだから、それをしようとしないのはただの怠慢だと思う。ぎりぎりまで戦って死んだのだったら、たしかに全うした事になるだろう。
未来はわからず、いつ何時、何が起こるかなんて分からない。
そりゃいつも、結婚して、子供を作って、子供が大きくなって、幸せな老後の後に死ねたらいいと思うけど、それが出来るかどうかは神様しかわからない。
だから、せめて。
「愛してる」というたった一言の幸せでも、彼の人生の中に、私の人生の中に、沢山のこして、幸せな人生を全うしていこうと思う。
2002年05月28日(火)

宝物 / リカ

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