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| 2005年12月17日(土) | フォルトゥナ�供 平瀬薀咫� |
２人が教団に来てから、２年が経った。
神田は対アクマ武器である刀に「六幻」と名称を付けられ、腕を上げていた。
その「六幻」のメンテナンスで刀鍛冶のもとへ２人で訪れた際に、
「へーぇ、重そうな槌さぁ、やっぱ教団特注製品？」
などと云いながらひょいと手にとった槌が、雷を発するようにパリリ、と光を放ち、鈍い共振音を響かせ反応を見せたことで、対アクマ武器が何故か槌だということが判明し、そのまま科学班送りとなった。
その年、新しく科学班室長に着任した、随分と歳若い化学者は変わった男だった。
「えー・・・っと、ラビくん？君、鍛冶屋さんの息子だったりしたの？違う？変だねぇ、うーんどうしようかなぁ、先ずは小さいのを作ってみようか。君、センスありそうだし合わせて作り変えるから云ってね」
物腰は柔らかく丁寧で、言葉遣いも偉ぶったところが無い。
ただ、ラビを椅子に固定して、その上で土木工事にでも使うかのような工具とヘルメット着用といういでたちでマッドな笑みを浮べながら「じゃ、取り掛かろうか★」
と云ったのだった。
「んぎゃー！！俺は寄生型じゃないさぁあああああああ！！何で俺まで拘束される必要があるんだよぉおおーーーー！！！」
泣き喚いて暴れるラビを見ながら、神田は青ざめ（コイツ・・・苦手だ！！）と固く心に刻み込んだ。
カタカタと小刻みに震える神田のほうをくるりと振り向くと、にたぁと笑って「神田くんのも次に診てあげるからねぇ」と云い放った。
ぞわりと悪寒が駆け巡り、明るい日向の猫のように瞳孔を見開き、長髪を逆立てると六幻を抱き締めて走り去ろうとする。「ユウーーーーーー！！ひどいさーーーーーー！！」と背中から掛かるラビの悲痛な叫びに「すまん！」と心の中でだけ詫びを入れるものの、振返りもせずに走った。
ドアに手をかけた瞬間に、不意にドアが開き、神田は勢いで前につんのめって激しく転んだ。「きゃっ」小さなか細い声が頭上からした。
はっとして２人が顔を向ける、随分と痩せこけ、やつれた少女が驚きのあまりか硬直している。
「リナリー！！まだ寝ていなくちゃ駄目じゃないか！」
コムイが工具を投げ捨てて駆け寄る。
（・・・ユウ、ユウ！）
ラビが顎でしゃくって、紐をとけと促した。
神田は無言のまま肯くと、音も立てずに開放していない六幻で椅子にくくりつけられたラビを自由にしてやった。
「じゃーな！俺の武器よろしくさ！！」
ラビはそう怒鳴り、２人は窓からひらりとその場を逃げた。
怯えた目で２人を見ていた少女に、ラビは目を細めて少し笑いかけた。
「っつあービックリしたさ、２３歳で科学班室長なんつーからどんなヤツかと思ってはいたけど、やっぱ変わってたな。助かったぜ、ユウ。あんがと」
はあはあと息を切らして、２人がよく居る、人気の無い裏庭の隠れ場所に腰を下ろす。
「しかしお前もやっと武器が判ったって云うのに根性ねーな」
ぼそっと神田が呟くので、「じゃあお前はいきなりアレで”はい解りましたよろしくどーぞ”って応えられるのかよ」と声を低めて云うと神田は硬直した。
「しっかしまさか例の子の兄貴とはな・・・」
ふいに遠い目をするので
「知ってるのか」と素早く切り返した。神田がせっかちなのはもうとっくに知っている。
「あー。俺らの１年前に中国人の女の子が来てたってのは聞いたことがあるんだ、家族をアクマに殺されたときに適合者だってのが解って、生き残った兄貴とも引き離されて教団送り。・・・だいぶ心身弱ってたって話さ」
一度も姿を見たことはなかった。心が壊れてしまったのかもとすら聞いていた。（それじゃあのコムイってヤツは妹のためにわざわざ・・・？）異常なまでにやつれて怯えきった目をしていた少女が目蓋に甦る。
「そりゃ随分と年の離れた兄弟だな」
あっさりと云うので思わずかくんと脱力する。
「ユウ・・・お前、薄情っつーか、やっぱちょっとずれてるさ」
更に目付きが悪くなり、鋭さを増した美貌で心外だといわんばかりの表情をする。ふん、と鼻を鳴らした。
「俺たちより少し年下みたいだったな」
ちゃんと見てるんじゃないか、と思いつつ同感だと肩をすくめる。
「そうさな、もっともあんだけやつれてちゃ、よくわかんねーけど」
リナリーは７歳で入団し今は１０歳、ラビと神田は１０歳で入団、今は１２歳だった。
「髪、随分のびたなぁ」
神田が後ろで一つくくっている髪を引っ張る。
「切るのが面倒だからな、これで邪魔な長さになったら、」
「六幻でばっさり、だろ。対アクマ武器で散髪なんざ、罰当たりだよな」
にやにやしながら先に云ってしまうものの、単に神田が他人に触られるのを極端に嫌がるからだとは知っている。何故そうなのかはまでは訊いたことは無い。訊いたとしても云わないだろう、と思った。
「じゃあ、お前が切れ」
予想外の返答に思わず「へ」と間抜けな声が出る。
「なんだよ、お前は器用だろ。自分の髪だって切ってるじゃねーか」
頓着していない口ぶりにかえって驚く。
「まぁねぇ、俺は髪質がこうだし・・・まぁいいや、切ってやるよ」
ジェリーから鋏を借りてきて、シャキシャキと気持ちの良い音を立てて切ってゆく。このとき判明したのだが、神田の髪はしなやかだがこしが強い、一定の重さが無いとうまくまとまらないのだった。
「こりゃ長いまんまの方がいいかもな。でも羨ましいさ、俺はかなりの猫っ毛だから」
ふう、と服に付いた髪を払いながら「散髪シューリョー」と神田の肩と背中も払ってやる。
「猫っ毛は禿げるって云うしな」
「俺んちは禿げねー家系だよ！ホレ、髪の量も多いさ！」
と云うと「どれ」とラビの肩口を掴んで引き寄せる。わしわしと撫でる掌は硬いし手つきも乱暴だったが、「本当だな」と云って笑う顔は優しいものだった。
「・・・ユウは、俺に触られるのも触るのも平気なのか・・・？」
ぽかんと問うてしまってから、しまったと気付く。
「あっ、悪ぃ・・・」
地雷を踏んでしまったか、こりゃ仁王の形相になっているか蒼白になっているかのどっちかだ、と思って顔を上げられないが、神田が何も云わないので恐る恐る見上げてみる。
耳まで真っ赤にしているので、またぽかんとしてしまった。
「何・・・さ、ユウ。どーしたんだよ」
真っ赤な顔で口まで開けているので訊かずには居られない。
「お前は、頭が回りすぎるから、それは、そこは苦手だ」
ぱくぱくと息を継ぐようにして、人形のように応えた。
ラビは豪快に笑い出し、「なーんだ、そっか、そうかよ、大丈夫なんだな？なーんだ」と繰り返し、神田の首をグイと引き寄せた。気難しい友人が、心を許してくれているのが嬉しかった。
元々ラビは触られるのには慣れており、それは処世術の一つだとも思っていた。それでも、そうした世渡りを考えずに、他愛ないスキンシップを欲してもいた。後者は限られた人間だけだった。
そのまま庭の片隅に神田ごと倒れこむ。ごろごろと喉を鳴らすかのように摺り寄せる。ふわふわした髪が神田のこめかみや頬をくすぐった。
「俺に触りたかったのか？」
とそのままの体勢で問われるので
「まぁね。なんつーか、年上の奴らに触られるんは一種仕事みたいなもんさ。ただでさえここは子どもがいないし娯楽も少ない。家族を置いてきた奴らにゃ、それっくらいはな。かといってこっちだって無条件に甘えられるわけも無いんだ、バランスとれねーさ」
そうまでして付き合ってやる必要自体が理解できない神田は「ふうん・・・犬みてぇだな」と云いながら神田の首に手を回しているラビを抱き締めた。
ぽかぽかとした日溜りが眠気を招く。
そのままでうたた寝をしたら、びっくりするほどよく眠れた。
それ以来、ラビはふらと夜になると神田の部屋へ行き、他愛ない話をしては「眠くなったさ」と云っては神田の布団で一緒に寝ていくことが増えた。
他の人間がなんでそんなにも人との触れ合いを求めるかは解らなかったが、それに付き合っては疲れているラビもさっぱり理解できなかった。
嫌なら嫌でいいし、そうまでして他人に気を遣っているのに、結局ラビ自身も触れ合ってはいなくても神田の側に居たがるのかも理解できない。
（逆に独りになりたい、ってんなら解るけどな）
枕も無いままで、すぴょすぴょと気持ち良さそうに眠っているラビの寝顔を見ながら考えてもみたが、結局は（ぐだぐだ考えるのは苦手だ）と思って止めてしまう。
それでも隣で眠っているラビの体温は気持ちが良かったし、眠っているところを撫でてみたり（自分とは全く違う手触りの、柔らかい髪を撫でるのは結構好きだった）、鼻をつまんでみたりしているのはそれなりに面白かった。
親の違う野良の仔犬どうしが一緒に過ごすように、２人は一緒に過ごした。
時々は神田が部屋に戻ると、既にラビが眠っていることすらあった。
そういうときには大抵疲れの色が濃く浮かんでいて、無性に神田を苛付かせる。なのに神田が布団に入ると「おかーり・・・ユウ・・・」と寝惚けた声で云うのだ。必ず。
そうすると無言のまま撫でてやることもあったし、「ああ、ただいま、おやすみ」と答えることもあった。そうするとラビはふにゃり、と笑ってまた眠るのだった。
（どうして、人間に疲れるのに、人間を求めるんだ）
苛立ちながらも、一緒に眠ることの心地よさを認めてしまった神田は、そんな自分を恨めしくも思っていた。
ある晩、また訪れてきてはぐったりと腰を下ろす。
「適合率はどうだったんだ」
今日はコムイのところへ行って、そんでヘブラスカに観て貰うんだと云っていた。
「ん、あーバッチリバッチリ。でも、疲れたさー」
へろへろと小さなデスクに突っ伏しながら応える。
「体力無さ過ぎるんだよ、ひ弱だな」
修行莫迦で通った神田には云われたくない、と思いつつ、実質は
「ちがうちがう、コムイの相手。もーほんっとシスコンでやんの。リナリーも大変さ、ありゃ」
と突っ伏したまま器用に手だけ上げてひらひらと応える。
「リナリー？」
ふいに神田の中に気持ちの悪い苛立ちが湧いた。
「あれ、知らないっけ、コムイの妹。ホレあの前遭った・・・」
「それは解る。でも顔しか知らねぇ」
不快感で、即答はいつものことだが妙に棘を帯びてしまったと神田は内心舌打ちする。
「俺らの２個下なんだよ、７歳でここに連れて来られて、ずっと発狂寸前だったって。そりゃそうだよな、目の前で親を殺されてさ、独りだけここに放り込まれたんだもんな。しかもリナリーは咎落ちの実験を見たこともあるって、」
「ああアレか・・・まだやってるのか、あんな無駄なこと」
咎落ちについてもラビから聞いたものだった。あまりに身勝手でグロテスクな実験。上体を起こして大きく伸びをして続けた。
「んで、もう衰弱死寸前で、ベッドにくくりつけられたままのところに、コムイがよりによって科学班室長の肩書きを握ってまで逢いに来たんだとさ、すげぇよな。並大抵のことじゃねぇさ」
そう語るラビは嬉しそうだった。
（確かにファインダーでも科学班員でもなく、いきなり室長だ、家族のためにそこまで出来るのは普通じゃない、思ったって叶わない可能性のほうが高い。でも他人のことじゃねぇかよ）
「随分仲良くなったんだな」
落胆に似た気持ちが混ざる。
「へ？だってユウはコムイのトコ滅多に行かないしさ、コムイのトコには大抵リナリー居るし。素直ですげぇいい子さ、コムイと血が繋がってるとは思えないほど」
どんどん自分が滑稽に思えてくる。
「良かったな、年代も近い素直ないい仲間が出来て」
自分の信用が莫迦莫迦しく思えてくる。黒い感情が膨れ上がって気持ちが悪い。
「ユウ？なんかちょーっと云い方ひっかかるんだけど？」
「何もねぇよ、全く俺には関係が無い。それだけだ」
今更なんだというんだ。ラビは元々人間が好きだし人間に好かれる。それだけだ、今更当たり前のことだ。ただそれだけなのに、この感情は何なんだ。別に普通だ、当然のことだ。
別に俺が居なくてもこいつは全然大丈夫なんだ。
「他人にそんな興味が無いのは知ってる、一人で勝手にペラペラ喋って悪かったさ」
真面目な声で謝る。
「別に。俺には関係が無いってだけだ。誰ん処でも勝手に行けよ」
荒んだ声が出て、泣きそうになるほど惨めだった。
「なんか話が飛躍してるさ。俺はユウん処がいい、ここが落ち着く、だから来てる。迷惑だったか？」
他人を必要とする奴らの気持ちは解らない。
必要と利用がどう違うのかも。
そんなことには関わり合いたくない。関わりたくなかった。
「ユウ・・・」
立ち尽くす神田に、ラビが歩み寄る。
ぎゅう、と抱き締められると棘がびっしり刺さったような気持ちとは裏腹に、妙な安心感が体温から伝わってくる。酷くそれも不愉快だった。やりきれなかった。
「莫迦で単純だけど嘘は吐かないし、だから解りやすいし、融通利かないほど真っ直ぐだし、俺はユウと一緒に居るのが一番安心する」
とつとつと語るが、あまりにも失礼な内容に、違う意味で神田は眉間に皺を寄せる。
「喧嘩売ってんのか」
「違う」、と抱きついたまま首を振る。オレンジ色の髪がふわふわと触れる。
神田の耳の下辺りに触れるラビのピアスが冷たい。
「ここに、居たいんさ」
理解できなかったし、したくもなかった。
ひとりで居られない奴らの気持ちなど。
けれど違った。独りでしか居られないのと、独りでも大丈夫なのと、独りでも大丈夫だけど誰かを欲するのと、独りでは全く居られないのとは。
「ぐだぐだわけわかんねーことを考えるのは嫌いだ」
と溜息を吐いて、ラビの背中に手を回した。
さほど変わらない身長の肩に、顎をうずめた。
「うん」
と応えた。声が少し震えているようだったけれど、顔が見えないのでよく解らなかった。
ＮＥＸＴ
ラビが神田大好きっ子みたいになってしまいました。アチャー。
今のラビは、「赤冠」のラビでイメージは固まっているのですが、どうしてもカップリングで話を書くにはこうした導入部、原因から書かないと駄目なたちなのでズレが生じてしまいます。
本当はこの�兇韮隠穏弌腺隠敢个△燭蠅泙任鮟颪�たかったのに、１２歳のままでストップしてしまいました。しかも１２歳の話題じゃないよな・・・。とにかく思春期編、かつ二人が肉体関係をもつようになるのは次からということに相成りました・・・。
遅くなりましたが拍手の返信です！
★ネウロの笹塚×弥子をリクエストしてくださったあなた様。
申し訳ありません、ネウロは比較的最近まともに読み始めまして、ネウロ弥子かなぁ、と思いつつ吾代かわいいなぁ、とか思っている段階で、とてもではありませんがＳＳを書けるほどの妄想を出来ておりません。
今既に手がけているジャンルなら、何かお応えは出来るかと思うんですが・・・ごめんなさい！
★山本の描写にぞくぞくします、と仰ってくださったあなた様。
ありがとうございます！山本妖艶系（失笑）を目指しておりますもので、そういうお言葉は本当に嬉しいです！
今はちょっと続き物でＤグレを書いておりますが、また本誌で山本復活の暁には何がしかちょぼちょぼ書いていきますので、宜しかったらまた遊びにいらしてくださいませ。
★リバミラを気に入ってくださったあなた様。
ありがとうございます！これもそうなんですが、原作で出てきていないことが多いので、Ｄグレはかなりの妄想が入ってしまうのですが、そう云っていただけると嬉しいです。安心すらします。（苦笑
最近はリバミラで固まってきてしまい、うまくラビを絡められるか解りませんが、原作でようやく出会ったので、それが書けたらな、と思っています。ありがとうございました！
最近は『銀魂』に萌え、というよりも描き手としての空知自身に燃え、みたいになってきてしまっていますが、高杉がようやく出てきたので、このシリーズが終わったら先ずは銀魂で書きたいです。
明日はジャンプの発売日。Ｄグレ再開が楽しみでなりません。
ＢＧＭ：『キャシャーン』サントラ
