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2015年03月29日(日) 4年遅れの再出発――ハリルホジッチ初戦勝利で飾る

27日、大分で行われた国際親善試合、日本(FIFAランク53位)対チュニジア(同25位)は2−0で日本が勝った。この試合は「疑惑の」アギーレの退任に伴い急きょ代表監督に就任したバヒド・ハリルホジッチ(62)の初戦。いろいろな面で注目を集めた試合だったが、ハリルホジッチは初戦を白星で飾った。

試合前、ハリルホジッチは「勝負にこだわる」ことを強調していたものの、先発にはFW川又、DF藤春、DF槙野ら新戦力を起用した。以下に試合展開を大雑把に示す。立ち上がりから日本は新戦力を中心に早いプレスと厳しい球際のプレーでチュニジアを圧倒。相手に攻撃の形をつくらせなかった。けっきょく前半は川又の惜しいシュートなどあったが、0−0で終了。後半になるとチュニジアの足が止まり、攻守の動きが鈍くなってきたところで、主力とも言える香川、本田(同38分ゴール)、岡崎(後半33分ゴール)を投入。彼らの活躍で2得点を上げ勝利した。

新監督の采配は親善試合ならではのレギュレーション(交代枠6人)をうまく使った、極めて合理的なものだった。前半、日本は厳しいプレスで追い込み、遠路はるばる北アフリカのチュニジアから25日に来日したばかりの相手を疲労させ、動きが鈍くなった後半になって前出の日本の主力を使って得点した。このような選手起用はもちろん公式戦では不可能。新監督が試合前「勝負にこだわる」と宣言したとおり、言葉どおりの勝利をものにしたことになる。だが、そのことは繰り返すが、公式戦とは次元が異なる。

だからといって、ハリルホジッチの就任初勝利が無意味だと言うわけではない。この勝利の価値は第一に、新戦力のテストをきちんとしたこと、第二に、ブラジルW杯、アジア杯の惨敗で陰りが見えた日本代表人気凋落に歯止めをかけたこと、第三に、主力を試合出場させ活躍させたことで、スポンサー、広告代理店、メディア、代表サポーターを喜ばせたこと、第四にアギーレでミソをつけたJFA幹部の批判をかわせたこと――が挙げられる。なによりも、この勝利に被害者はいない、すべてがハッピーに終わった――と換言できる。

代表の流れを変えたとは言え、日本代表がいきなり強くなったわけではない。ハリルホジッチは、「試合後半、主力投入でチームのレベルが上がった」とコメントしたらしいが、本気ではないだろう。日本代表のクオリティーが上がったわけではなく、相手チュニジアのクオリティーが下がっただけ、なのだから。このような展開はホーム開催の親善試合(練習試合)だからこそのものであって、公式戦では不可能だ。ザッケローニ時代、このような親善試合における日本の勝利を散々見せられ辟易している常識あるサッカーファンにとって、親善試合の結果は参考にすぎない。この手の試合に100勝したからといって、公式戦で勝ち抜ける保証がないことは、ザッケローニ時代に経験済みだ。

もちろん代表監督経験の豊富なハリルホジッチが、そのことを知らないはずがない。彼はなによりも就任初戦勝利がほしかっただけであって、それはそれで仕方がない。

チュニジア戦の見どころは前半にあった。新戦力を中心に堅守速攻型のサッカーを目指していたことを認めよう。ポゼッションよりも早い前への動きを重視した形、球際の激しさ、相手に当たり負けしない闘争心が垣間見えた。疲労度が低かったチュニジアに当たり負けしなかった先発陣のフィジカルの強さを認めよう。世界の強豪に対して「自分たちのサッカーをするだけ」と己惚れていたブラジル組への否定が彼らに見えたことを認めよう。FW川又、FW永井らに得点という結果はなかったけれど、彼らの献身的な動きに希望を見た。

残念なのは、世界サッカーのトレンド変化がブラジル大会前に始まっていたのにもかかわらず、日本代表(ブラジル組)はザッケローニの下、緩慢な「自分たちのサッカー」にこだわり続けていたことだ。ブラジルで負け、アジア杯で負けて、やっと「自分たちのサッカー」が世界から取り残されている現実を知ったというわけだ。いまさらながら、JFA幹部の無知の罪は重い、と言わなければなるまい。日本は4年、世界から遅れての再出発である。



2015年03月27日(金) 開幕メンバー発表

読売の開幕メンバーがすでに発表されているのでおさえておこう。

開幕メンバーは以下のとおり。

投手=(10)沢村、菅野、高木京、西村、山口、笠原、土田、戸根(ポレタ、高木勇)
捕手=(3)小林、相川、実松、
内野=(7)寺内、藤村、井端、坂本、片岡、阿部、村田
外野=(7)セペタ、長野、亀井、鈴木、高橋由、松本哲、橋本
合計=(27)(ポレタ、高木勇は上がり)

※筆者が24日に予想したメンバーは以下のとおりだった。

投手=(11)沢村、菅野、高木京、西村、山口、笠原、香月、青木(ポレタ、高木勇、杉内)
捕手=(3)小林、相川、実松
内野=(7)寺内、中井、井端、坂本、片岡、阿部、村田
外野=(7)セペタ、長野、亀井、鈴木/代走、高橋由、松本哲、橋本
合計=(28)(ポレタ、高木勇、杉内は上がり)

筆者の予想が外れたのは、投手では香月、青木が外れて土田と戸根が入ったこと。上がりの杉内はどうでもいい。

野手では内野の中井が外れて藤村が入ったこと。外野手は予想どおりだった。

開幕戦先発オーダーの予想については、

1-長野(中)、2-亀井(右)、3-坂本(遊)、4-阿部(一)、5-セペタ(左)、 6-井端(二)、7-村田(三)、8-小林(捕)、9-菅野(投)

と予想したが、一番に坂本が入り、3番に高橋由、5番に村田、7番に井端が入る可能性もある。



2015年03月24日(火) 読売の開幕メンバーを予想する

オープン戦が終了し、開幕まで数日となった。オープン戦の成績はあてにならないという通説があるものの、今シーズンの成績の参考となりそうな事象も多々認められる。その中から読売の動向について、まとめておこう。

◎読売の「新成」は大失敗

「新成」を掲げた読売――オープン戦終盤には故障者続出で「読売野戦病院」とまで呼ばれた時期があったものの、ここにきて故障者が次々と戦線復帰を果たしている。けっきょくのところ、開幕に間に合わないのは、野手では矢野、アンダーソン、大田、堂上、投手では内海くらいか。エース級が間に合わず、レギュラークラスの野手が4人も故障なら他球団ならピンチだが、選手層の厚い読売の場合、騒ぎにもならない。

読売のオープン戦の結果は惨憺たるものだった。打てない、守れない、抑えられない・・・とりわけ貧打線が目立った。しかし、打撃陣に関しては昨シーズンからこんなものだった。貧打線にもかかわらず有効打が出て終盤にひっくり返し、勝利をものにしてきた。セリーグの5球団は総じてブルペンが弱い。せっかく先行しても読売のリリーフ陣に追加点を阻まれ、試合後半・終盤になってセットアッパー、クローザーが読売打線につかまり、逆転負けするケースが多かった。読売は投手陣(ブルペン陣)の豊富さで勝ってきたチーム。おそらく、このスタイルは今シーズンにも持ち越される。

◎予想される開幕メンバー

開幕一軍メンバー28人は次の通り。

開幕ベンチ入りを予想しておこう。プロ野球のベンチ入り選手は28人。うち25人が試合に出られる。内訳は、捕手3人(相川、実松、小林)、内野手7人(阿部、坂本、中井、寺内、井端、片岡、村田)、外野手7人(長野、セペタ、高橋由、亀井、松本哲、橋本、鈴木/代走)、投手11人(菅野、山口、沢村、高木京、香月、青木、笠原、西村。上がり=ポレタ・高木勇・杉内)と予想する。クローザー・マシソンが不調のため二軍調整となり、開幕に間に合わない。

開幕ローテーションは、菅野、ポレタ、高木勇、杉内、大竹、小山の6本柱。ブルペンは、セットアッパーに山口、クローザーに沢村が決定的で、中継ぎは西村、香月、高木(京)、田原、青木、笠原、戸根、江柄子、マイコラスらが流動的にベンチ入りするものと思われる。

開幕戦先発オーダーは、1-長野(中)、2-亀井(右)、3-坂本(遊)、4-阿部(一)、5-セペタ(左)、 6-井端(二)、7-村田(三)、8-小林(捕)、9-菅野(投)と予想する。

となると、今季の読売のどこが「新成」なの――という疑問があって当然だ。若手は、投手陣で高木勇、戸根の新人二人。野手は内外野とも若手の台頭はゼロ。捕手で小林くらい。小林以外でレギュラーを押しのけて先発に名を連ねる若手選手は皆無。その小林も阿部の一塁コンバートにより、自然にできた空席を埋めたに過ぎない。実力で正捕手を奪ったとは言い難い。




2015年03月15日(日) 故障者続出――問われる読売の選手健康管理

◎内海、沢村が開幕間に合わず

「新成」を掲げた読売が開幕前に非常事態に陥った。投手陣ではベテラン内海及び今季抑え候補の沢村が故障。昨シーズン終盤にリタイアしたエース、菅野も筆者の目から見れば本調子ではない。肘が下がり、外角に小さく曲がって落ちる変化球に頼った投球で、このままならシーズン途中でダウンするだろう。

◎主砲、阿部の体調は60%程度ではないか

打者では今季捕手から一塁にコンバートされた阿部がキャンプ中に故障した。14日のオープン戦に一塁で先発したが身体はきれていない。アンダーソン、長野、矢野が昨年受けた手術等の影響でオープン戦にいまだ出場していない(2015/03/14現在)。プレシーズンで好調だった育成から選手契約した堂上、「四番候補」大田が故障で開幕は無理。故障ではないけれど、村田が極度の不調で開幕に間に合うかどうか不明という。

◎故障者続出でもそれなりのオーダーが組める読売

読売以外の球団ならまともにオーダーが組めない状況だが、今の戦力でたとえば、1-坂本(遊)、2-井端(三)、3-亀井(一)、4-セペタ(左)、5-高橋由(右)、6片岡-(二)、7-橋本(中)、8-小林(捕)、9-○○(投)、といった具合に、他球団に劣らぬ先発オーダーが組める。分厚い選手層を誇る読売なればこそといったところか。

控えは、内野=中井、寺内、片岡、藤村・・・。外野=松本、金城、隠善、鈴木(代走)・・・。捕手=相川、実松・・・。投手陣=先発/菅野、大竹、小山、西村、高木(勇)、ボレタの6本柱。ブルペン/マシソン、山口、香月、高木(京)、田原、青木、笠原、戸根、マイコラス・・・

ざっくりと挙げてみたところ、他球団とほぼ互角の戦力だ。シーズンが進むうちに阿部が完治し、アンダーソン、長野、大田、矢野、堂上が復帰し、先発投手陣のベテラン勢が復帰したら、選手層からいえば読売の優位は動かないように見える。

◎ベテラン勢はけっきょくは下り坂

筆者は――常々当コラムで書き続けていることであるが――ベテラン勢の故障が癒えても、彼らの力は下り坂にあり、それほどの活躍は期待できないと思っている。そればかりではない。いま現在元気な高橋由は腰痛の持病があり、井端は超ベテラン、片岡も昨シーズン末に故障した。彼らはフルシーズンは無理。ベテラン勢は、いつつぶれてもおかしくない存在のだ。

◎大田、中井はせいぜい2割5分の才能

読売が「新成」のスローガンをわがものとするには、中井、大田がブレークする以外ないのだが、この二人のバッティングの才能は、どう甘く評価しても2割5分がやっとだろう。

大田の弱点は(以前書いた通り)外角の変化球。打てる球は真ん中低め及びやや外よりの高め。しかも球速は140キロ以下と狭い。この範囲なら直球、変化球のどちらでも対応できるが、それ以外はバットが下から出る悪癖が修正できず、空振りか凡打に終わる。インハイ、アウトローはどんな打者でも打ちにくいが、なによりも、外角のボールになる変化球を見極めるバッティングアイを持ち合わせていないので、ボール球で打ち取られるケースが多い。

中井も大田と似たタイプで、アウトサイドに変化する球には目がついていかない。この二人にはフォーク、チェンジアップ、外に大きく変化するスライダー(あるいはカッター)が有効となろう。

◎昨シーズンと変わらない戦いぶり(消耗戦)になる模様

読売は自らが掲げたスローガン、「新成」とは真逆の状態で開幕を迎え、そのままシーズンを終了するだろう。別言すれば、昨シーズンと変わらぬベテラン頼りのシーズンということ。調子のいいベテランがしばらくレギュラーをはり、不調もしくは故障になると、厚い選手層を活かして別のベテランがレギュラーの座に就くという戦法だ。つまりは、2014シーズンの消耗戦スタイルの再現となろう。

消耗戦は投手陣でも同様で、ブルペン陣のスクランブル体制と先発投手陣の入れ替えでシーズンを凌ぐというやり方だ。こういうチームが優勝するのは、筆者の趣味に合わない。今季はなにがなんでも、他の5球団に読売のリーグ優勝を阻止してもらいたい。

◎球団、選手は健康管理に万全の備えを

読売における選手の健康管理に問題はないのだろうか。コーチ、トレーナーの中に、専門家がいないのではないか。選手の自主性にまかせて猛練習を続ければ、どこかにひずみが出てくるものだ。選手は成績を残したいから、厳しい練習を自己に課す。それは当然のことだけれど、第三者の目で適正化を図らなければオーバーワークが防げない。投手ならば自主トレからキャンプ、プレシーズンマッチを通じた球数制限が必要だし、打者ならば筋肉系の疲労の除去が重要となる。人間なのだから故障は避けられないと諦めるのではなく、故障を減らすシステムを球団が備える必要がある。選手も自費で専用トレーナーと契約するなどの自己投資が必要だ。

体づくりに細心の注意を払ったうえで万全の態勢でシーズンインし、野球ファンを楽しませてもらいたい。



2015年03月08日(日) 「サッカー日本代表監督」論――その特異な存在性

日本サッカー協会(JFA)の霜田正浩技術委員長(48)は5日、都内のJFKハウスで、W杯ブラジル大会でアルジェリアを16強に導いたバヒド・ハリルホジッチ氏(62)を、次期日本代表監督として12日の理事会に推薦することを明らかにした。

◎最初からハリルホジッチを選ぶべきだった

この決定について筆者は妥当な人選だと感じている。ただし、ザッケローニの後任としてバヒド・ハリルホジッチに直接行き着いたのならば・・・という限定的評価である。なによりも「疑惑」のアギーレを代表監督として契約したJFAの責任がまず問われるべきであるが、そのことは何度も本コラムで書いたことなので、ここでは触れない。

◎世界のサッカー市場の中心は欧州4リーグ

本論の趣旨は、日本代表監督人選に係る日本のスポーツメディア及び代表サポーター等の思い込みを晴らすことにある。アギーレ契約解除の直後、メディアが挙げた次期代表監督には、アーセン・ベンゲル(フランス)、ルイス・フェリペ・スコラーリ(ブラジル)、ホセ・ぺケルマン(アルゼンチン)、ルイス・ファンハール(オランダ)らのいわゆるビッグネームがあった。この予想は極めて実現可能性が低いばかりか、日本代表に対する高すぎる評価の表れで、無茶苦茶であった。換言すれば、日本のメディアの思い上がり、超主観主義であり、日本のスポーツメディアが世界の現実に反し、相対的独自に情報を発信している悲しい表象である。実際に契約に至ったのは前出のとおり、ハリルホジッチだったことが、そのことの証明になる。

世界のサッカーマーケットは欧州の4リーグ(イングランドプレミア、スペイン一部、イタリアセリエA、ドイツブンデスリーガ一部)を中心にまわっている。選手、指導者を問わず目指すところはそこである。欧州4リーグに比して、極東の世界(FIFA)ランキング55位の日本代表監督は魅力が乏しい職場である。

ハリルホジッチの前職アルジェリア代表監督の席はアルジェリアがFIFAランキング18位にあることから、日本代表監督のそれより格上である。経済大国の日本(の代表監督の席)はCM出演料、講演料、サッカー関連本の出版等の余禄が期待できるから、FIFAランキング以上の魅力がないわけではないが、それでもビッグネームが目指すところではない。

◎世界の指導者が目指すのは欧州4リーグのクラブの監督

日本においては、代表監督の職は世界標準に比べて異常に高いのだが、客観的に代表監督の職を見てみると、腕の見せ所といえば4年に1度のW杯だけ。その間に行われる公式試合は大陸大会(日本の場合はアジア杯で既に終了)、地域大会(同じく東アジア杯)くらい。W杯の予行演習としてコンフェデ杯があるが、大陸王者と開催国しか出られない。

親善試合については、日本では騒がれるものの、世界標準ではあくまでも練習試合であって、例外を除いて盛り上がらない。例外というのは因縁試合のことで、たとえばイングランド−アイルランドとか、セルビア−クロアチアといった国際紛争を背景とした試合は異様な盛り上がりがあり、日韓戦もその範疇にある。対戦国間の背景に紛争や歴史的対立等を伴ったものという限定がある。ただし、親善試合(練習試合)に関心を払うのは当事国の国民に限定される。日韓戦を手に汗握って見守る欧州人は絶無である。

一方、欧州リーグは、シーズン中、最低週1回のTV中継が全世界に中継等される。リーグで好成績を残せばUEFAチャンピオンズリーグ(CL)が待っている。どちらもグローバルに熱狂的支持があるし、そこで成功すれば莫大なギャラが約束される。職業として、代表監督か欧州4クラブの監督のどちらを選ぶかといわれれば、議論の余地はない。

◎クラブ監督と代表監督とは異なる職業


代表監督というのはクラブの監督とは異なる職業ともいえる。サッカーにかわりはないものの、監督という職能に限れば、クラブチームと代表チームとでは全く異なるノウハウが求められる。

日本代表監督の人選において成功した事例は、2002年のW杯日韓大会におけるトルシエの起用であった。1998年に日本代表監督に就任したトルシエだが、当時、彼を知る日本人サッカーファンは少数だったと思われる。

JFAはベンゲルに監督就任を打診したが断られ、ベンゲルからトルシエを推薦されたといわれている。この逸話の真偽のほどは不明だが、あっておかしくない話である。なぜならば、トルシエは日本代表監督に就任する前、コートジボワール(1993年〜)、ナイジェリア(1997)、ブルキナファソ(1997〜)、南アフリカ(1998)の代表監督を歴任し、「白い魔術師」という異名をとっていた。つまり、トルシエの代表監督としての手腕は、アフリカにおいてそれ相応の評価を得ていたからである。

トルシエに近い存在として、ポール・ル・グエン(フランス)、フォルカー・フィンケ(ドイツ)、ブルーノ・メツ(フランス)らの指導者の名が思い浮かぶ。彼らと同等のカテゴリーに属する人材は、豊富とはいわないが一定程度のストックがある。つまり、代表監督人選については、焦る必要はないということである。

焦った結果の日本の失敗事例は、ジーコ及びザッケローニである。この2人に共通するのは、代表監督としての経験がないこと。彼らはクラブチームのように代表チームを愛し、自分の好みの選手に固執した。このような傾向は、代表監督にあってはならない。この2人は日本における特殊な代表監督としての名声を利用して自身の蓄財に成功したものの、残念ながら肝心のW杯の成績のほうは惨憺たるものだった。

ではアギーレはどうなのだろうか。「疑惑」によってすでに契約を解除した者であるから、いわゆる死んだ子の年を数えるに等しいのだが、「疑惑」がなくとも、アギーレは「トルシエ」になれなかったような気がする。というのは、日本代表監督就任後の代表選手選考やアジア杯における選手起用等を見る限り、代表監督としてのノウハウに疑問が残ったからである。

◎日本代表監督の特異性――日本代表マーケティング

日本代表監督という職はグローバルな視点から見れば、極めて特異な存在である。日本には「日本代表マーケッティング」があり、JFAと大手広告代理店が共同で莫大な代表マネーを生み出している。代表選手及び代表監督のCM起用はスポーツ用品に限定されずあらゆる業種に及んでいるし、代表試合に係る公式スポンサーとTV中継は不可分の関係にある。「日本代表マーケティング」はスポーツを越えたビジネスとして、日本では大きな位置を占める。そのことが、代表選手の選考、起用に大きな影響を与える。

「日本代表」の付加価値を構成する要素はいくつかある。「海外組」という代表選手の特殊存在性があり、「外国人監督」という存在も重要な要素の一つとなっている。これらは日本の消費者の海外ブランド信仰及びグローバル(国際化)志向と通底している。

◎CMタレントとしての日本代表選手

「海外組」の初代はカズ(三浦知良)で、彼は10代でブラジルのクラブとプロ契約をした。カズは日本代表選手のなかでトップスターの地位を長年保持したが、W杯出場に失敗し、その座をヒデ(中田英寿)に譲った。ヒデ引退後の今日、本田圭佑が続いている。

ヒデはイタリア語を話し、外国人(とりわけ欧米人)と対等にわたりあう最初の国際派スポーツマンである。本田もヒデがつくった「日本代表」の像を忠実に追っている。彼らは今日の日本人が拭いきれない欧米人コンプレックスを吹き飛ばしてくれる国際人で、憧憬の的である。そして、彼らは間違いなく、CMタレントとして貴重な存在なのである。

代表キャプテンの長谷部誠はヒデ、本田とはポジショニングを異にしたキャラクターである。彼は世界を舞台に活躍する謹厳なビジネスマン風なイメージを漂わせる。代表キャプテンというリーダーシップを象徴する地位も重要である。スポーツ選手は、タレント(芸能人)が虚構的存在なのに反し、掛け値なしの本物なのである。その結果、日本代表監督が自己の信ずる選手選考及び選手起用を行うことはかなり困難となる。

◎舶来ブランド信仰の範疇にある代表監督

さて、いささか横道にそれたが、外国人代表監督も「日本代表マーケティング」に重要な存在である。日本サッカーは欧米、中南米に比べればはるかに歴史が短い。世界のサッカー界から見れば後発組、ちょうどアフリカ勢と同じレベルにある。だから、日本人指導者のレベルは、選手以上に低い。代表監督に外国人を招聘するのは仕方がない面もある。

と同時に、外国人監督に率いられた日本代表というのは、“国際化された”という意味において、付加価値が高まる。海外有名ブランド信仰、外国人知識人を必要以上にありがたがる日本人の風潮からすれば、日本代表監督は外国人でなければならない。最近の話題は、トマ・ピケティの経済本が異常に売れたことがその事例である。

◎「日本代表ビジネスモデル」が終わるとき

日本のプロサッカー界は、日本代表に限らず曲がり角にある。急成長を遂げた20世紀末から2014年までの一つのサイクルが終わり、新たな局面に到達した。サイクルとしてはリセッションに近い。その表れが2015年のACLにおける日本のクラブの惨状である。クラブレベルで日本がアジアで負け続けている現状は、遅かれ早かれ代表戦に投影される。そのとき、日本の代表マーケティング、代表ビジネスは崩壊する。

「日本代表ビジネスモデル」がマネーを生まなくなれば、資本はサッカーから撤退する。そうなれば、日本のプロサッカーは消滅の危機に瀕する。消滅しなくとも、リーグを構成するクラブ数は減り、メディアも取り上げず、日本代表がW杯出場を逃せば、親善試合もできなくなる。日本サッカーは完全に世界から忘れ去られる。そんな事態を回避するために、JFA幹部は自己を厳しく律しつつ、適正な舵取りが求められる。ところが現実には、成功のぬるま湯に浸りきっているように筆者には見える。



2015年03月03日(火) 読売の「新成」は失敗に

またまた読売批判である。読売球団に恨みがあるわけではない。日本のスポーツメディアが人気球団の読売(巨人)の現状批判を行わないから、スポーツ評論の現状についてバランスをとろうというのが筆者の読売批判の趣旨である。

◎「新成」というスローガンは間違いではない。

今季、読売の原監督が掲げたスローガンは「新成」――造語である。チームを一度解体し、選手全員が同じスタートラインに立ち、公正な競争を経てレギュラーを決めようという意図が込められている。

新キャプテンに坂本勇人が指名され、捕手阿部慎之助を一塁にコンバート、昨シーズン末から四番候補に大田泰示を抜擢するなど、キャンプ、紅白戦、練習試合を通じて「新成」に相応しい手を打ってみせた。

原監督の構想及びチーム改造計画については賛成である。筆者は常々、読売の選手の高齢化や、FAによるチーム編成の歪みを指摘してきた。セントラルリーグでは、広島、DeNA、ヤクルトが早々と選手の若返りに着手し、なかで広島は今シーズン、その努力が実りそうな気配が感じられる。広島には「カープ女子」と呼ばれる若い女性ファンがつき、セの人気球団に成長しつつある。

一方の読売は相変わらず、V9時代前後の高齢者ファン中心で、若い新しいファン層の獲得に失敗している。読売の場合、主軸はFA中心で、若い生え抜き選手は坂本勇人ただ一人。エースの菅野智之は「ドラフト破り」の暗いイメージを背負っていて、若いファンの支持を得る魅力に乏しい。

◎「新成」の象徴、「四番太田」は無理筋

原監督のチーム解体の方針は言葉として正しいのだが、それを裏付ける選手編成が手遅れであった。まず、「四番大田」の構想はキャンプ、練習試合までは実績を残したものの、オープン戦に入るとあたかもメッキが剥がれた如く、頓挫しようとしている。大田泰示の打撃はどうみてもせいぜい2割5分程度の実力。彼の打撃の欠陥は、打者の根本にかかわるバッティング・アイにある。先天的反応力と換言できる。説明しにくいが、センスとも言えるし、打者が球筋を先天的に気極める能力とでも別言できるだろう。

大田泰示のウイークポイントは、右投手のスライダー。自分の視線から遠ざかる球筋を見極める「視力」が弱い。ここで言う「視力」とは検眼で測定する視力とは異なる。

わかりやすい対比の例を出すならば、大田泰示の対極に位置する打者がイチローである。イチローは先天的に球筋の変化に反応する感覚が備わっていて、それがバッティング(球をとらえて振り抜く動作)に連動できる。イチローの反応力を「レベル5」とすれば大田は「レベル3」程度。練習すれば向上するというものではない。

◎昨年と同様、「日替わり四番」に逆戻りか

となると、阿部慎之介が4番を打つしかない。阿部慎之介は一塁コンバートで復活できるのかどうか。筆者は2013シーズン後半から「阿部限界説」を唱えているので、昨シーズンよりは率が上がることはあるだろうが、完全復活は難しいとみる。つまり今シーズンも、読売の4番は、阿部慎之介、村田修一、フレデリックセペタ、レスリーアンダーソン・・・のうち調子のいい者を充てるしかない。つまり、昨シーズンと変わらない。打撃について「新成」は果たされないだろう。

◎捕手が読売の弱点に

読売のアキレス腱ともいえる捕手は深刻である。「新成」の象徴である小林誠司はリードについては向上しているだろうが、打率2割5分はおそらく無理。ベテラン相川亮二(FA入団)との併用だから、捕手も「新成」にならない。

◎内野は先発と控えに実力差

内野については、1塁:阿部慎之助(故障中)〜レスリーアンダーソン(故障中)、亀井善行、井端浩和、堂上剛裕(故障中)で競争、2塁:片岡治大〜井端浩和、寺内崇幸で競争、3塁:村田修一〜中井大介、井端浩和、寺内崇幸で競争、遊撃:坂本勇人〜井端浩和、寺内崇幸で競争――となるから、昨年と変わらない。どこが「新成」なのか。

◎人材豊富な外野陣だが出られるのは3人

外野も同様で、拙コラムで何度も書いた通り、ほぼ3球団分の有り余る戦力のうち、結局は左翼:フレデリックセペタ、中堅:長野久義(故障中)、右翼:亀井善行がレギュラーで、補欠が橋本至、高橋由伸、レスリーアンダーソン・・・と続くことになるのだが、前出のとおり、「新成」の象徴的存在である大田泰示がベテラン勢を追い抜く余地はないだろう。

キャンプ、紅白戦、練習試合、オープン戦序盤を見る限り、今年ブレークしそうな「新成」=新戦力=若手は育っていない。

◎戸根、高木勇は即戦力投手

投手陣には多少、変化の予兆が見える。戸根千明、高木勇人、アーロンボレダの新人及び新加入外国人3人が即戦力として期待できる。

◎それ以外の若手投手陣は伸び悩み

とは言え、戦力がアップしたとは言えない、なぜならば、先発はいまのところ、杉内俊哉、菅野智之、内海哲也、大竹寛の4本柱が確定的だが、5人目の小山雄輝はプレシーズン調子が出ず、宮国椋丞、田原誠次、今村信貴、江柄子裕樹、笠原将生が伸び悩み状態。抑えから先発にまわった西村健太郎もはっきりしない。中継ぎ抑えは、福田聡志、高木高広、久保裕也、マイルズマイコラスが不安定。香月良太、青木高広、山口鉄也、スコットマシソンは勤続疲労からの回復は難しい。先発から回った沢村拓一ただ1人が好調である。

◎菅野はシーズン中に手術か

昨シーズン終了間際に肘を痛めた菅野智弘は、プレシーズン、なお故障から癒えていないような投球が続いている。前から下がり気味の肘の位置がさらに下がり、球に体重が乗らない手投げ状態である。菅野智弘の投球フォームの欠陥については拙コラムで書き続けてことだが、こんなに早く肘を悪化させるとは思っていなかった。今シーズン中に手術に踏み切る可能性も否定できない。

前出の新戦力3枚が加わったところで焼け石に水、マイナスの幅が大きすぎて埋め合わせ不能である。先発4投手の「確定的」という意味は、OKを意味しない。ほかに代替戦力が見当たらない、すなわち、仕方なしの「確定」である。

◎いわゆるキレキレのアスリートがいない

こうして読売の戦力を概観してみると、投打に軸となる選手の不在が見て取れる。体力、気力が充実したリーダー格、伸び盛りの若手、閃きを感じる異能選手といいた、キレキレのアスリートが見当たらない。セリーグの他球団を見ると、広島ならば、MLBから復帰した黒田博樹及び前田健太は投手の軸というにふさわしいし、野手ならば菊池涼介(内野手)、丸佳浩(外野手)は才能あふれる伸び盛りの選手。ヤクルトならばウラディミールバレンティン(外野手)、山田哲人(内野手)、川端慎吾(内野手)が絶対的存在感をもっている。阪神にも藤波晋太郎(投手)、ランディメッセンジャー(投手)、鳥谷敬(内野手)、マウロゴメス(内野手)に安定感がある。

◎解体したまま戻らなくなった「新成」読売

読売はチームを解体してみたものの、改めて組み立てようとしたら前の材料を使うしかなかった、という惨状。けっきょく再度組立てみたら、もとにもどってしまったというわけである。これも正確に言うならば、もとにもどらず、前より悪くなった――ということ。「新成」とは名ばかりで、旧態依然のチーム状況に変化なしである。

◎一回キャンプをはったくらいで新しいチームはつくれない

筆者の感想としては、読売が「新成」という内容の伴わないスローガンを掲げたのが間違い。開き直って、戦力はカネで買える――を貫徹すればよかった。戦略なきドラフト指名、FA頼みの補強、育成システム整備を怠ってきたツケが、いままわってきたことに気が付いたことは評価できるが、「ローマは一日にしてならず」。一回キャンプをはったくらいで「新成」が成就できるほどスポーツは甘くない。スローガンとかけ声だけでは新しいチームはつくれない。


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