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JIROの独断的日記
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2006年05月26日(金) オーボエ奏者、宮本文昭氏、5月26日付日経文化欄に登場(やっぱり来年3月で引退だってさ・・)

◆宮本文昭氏とは誰か。

宮本文昭さんという世界でも一流のオーボエ奏者がいる。

ケルン放送交響楽団というドイツのA級オケ(ベルリンフィルだけが、超A級。その次に位置するのがA級、だそうだ)で19年間も首席オーボエ奏者を務めていた人。

自分が所属するケルン放送響以外のオーケストラのソリストに呼ばれる(オーボエ協奏曲をコンサートプログラムに入れるときに、ソリストとして招待される、という意味である)、

本当の超一流の、「世界のミヤモト」なのである。



1949年生まれということは、まだ50代なのだが、昨年夏、「2007年3月で演奏活動を停止する」と宣言したので、クラシックファンの間(多少なりともオーボエが分かる人)は大変驚いた。

宮本さんの誕生日までは知らないが、早生まれだとしても、来年3月時点では58歳である。まだまだ、吹けるはずだ、と少なくとも、私のような素人は思う。誰もがそう思うはずだ。

楽器も人種も違うが、アメリカで一番上手いと言われている(異論もあるだろうが)シカゴ交響楽団の首席トランペットはアドルフ・ハーセスという人で、なんと、首席を50年間も務めた。

80歳をすぎていたのである。


◆本日(2006年05月26日)付、日本経済新聞文化面(最後のページ)に宮本さん自身が書いている。

宮本さん引退の話は私も知っていたが、何かの冗談であって欲しい、と祈るような気持ちだった。

が、祈りはミューズの神(ギリシャ神話の音楽の神。音楽をミュージックというのは、ここから来ている)に届かなかったようである。ショック。


◆宮本さん自身の言葉(日経から転載。問題なら言って下さい。宮本さん、日経さん)

音楽家や主婦や、学生さんは、日経を読む習慣がないだろうから、誰も言わないと今日の記事の事を永久に知らずにいるだろう。

そこで、お知らせの意味もこめて、一部転載させていただく(いずれ、全文写しますが、今日は間に合わないので、勘弁して下さい)。

何しろ、この文化面が一番面白いのに、日経のウェブサイトでは読めないのだ。
【引用開始】

昨年夏、「2007年3月で演奏活動を停止する」と宣言した。

多くの人に理由を訊かれるが、以前から「オーボエ奏者としての価値は、引き際の判断とそれまでの生き様で決まる」と考えてきたのを実行に移すだけだ」。

1968年に旧西独へ留学してから2000年に帰国するまで、32年間に及んだドイツ生活のうち、27年余りをオーケストラ奏者として過ごしてきた。

巨匠に巡り会い、失敗もあった演奏家人生を振り返ってみたい。



♪ ♪ ♪

突然の抜擢でミス

最初はデットモルトの北西ドイツ音楽アカデミーへ留学、日本では「ドイツ・バッハ・ゾリスデン」の指揮者として著名なヘルムート・ヴィンシャーマン教授に4年ほど師事した。

さらに一年在籍した後、エッセン・フィルハーモニー管弦楽団へ入り、三年を過ごし、その後はフランクフルト放送交響楽団に五年、ケルンの西部ドイツ放送協会交響楽団に十九年となった。

エッセンでは、音楽総監督のハインツ・ワルベルクさんに格別の目をかけられた。

ワルベルクさんは、2004年に亡くなるまで、NHK交響楽団を150回以上も指揮、日本人に愛された演奏家でもある。



27年間で最大の失敗もまた、ワルベルクさんの下で起きた。

ある晩、別の指揮者が稽古をつけた、リヒャルト・シュトラウスの歌劇「サロメ」を急遽、百戦錬磨のワルベルクさんが代役で振ることになり、僕を首席に座らせたのだ。

しかし、当時の僕は「サロメ」では「七つのヴェールの踊り」しか演奏したことが無く、その部分を無事に吹きおおせた途端、どこを演奏しているのか、わからなくなった。

オーボエとヴァイオリン、ヴィオラの音が重なる場面に入ると、一人、二人と弾くのをやめ、イングリッシュ・ホルン(引用者注:オーボエ族の楽器でオーボエよりも5度音域が低い。

ドヴォルザークの「新世界より」の第2楽章で有名な「家路」のソロを延々と吹くので有名)奏者も、「こりゃ、だめだ」と手を振って止めてしまった。

だが、ここでやめたら上演が崩壊する。自分のミスと分かっていても吹き続けるしかない。

ワルベルクさんは「止めるな、止めたらクビだぞ」と言っているかのように真っ赤な顔で懸命に振り続けていた。

楽員代表のティンパニ奏者が大声で譜面の練習番号を叫んで全員が我を取り戻し、最後まで演奏できたが、私はクビを覚悟していた。



♪ ♪ ♪

「彼は今日の英雄」

ところが、ワルベルクさんは終演後、僕を抱きかかえ、他の楽員に向って「彼は今日の英雄だ」と叫んだ。

「ごめんなさい。すべて僕のせいです」と訂正したかったのだが、ついに言い出せず、クビもつながった。

音大を出たばかりの若者を独奏者として認め、大きな音楽で包んで下さったワルベルクさんこそマエストロ(巨匠)だった。(中略)



♪ ♪ ♪

教育の場で恩返し

帰国を決意したのは、ある日、ケルンの終演後、楽屋口で握手を求めてきた一人の婦人の言葉だった。

「あなたのソロは素晴らしかった。ヴィンシャーマンの弟子ではありませんか?」

ヴィンシャーマンには留学の最初にたった四年師事しただけだった。

以後の二十年、僕なりに懸命にドイツで働いたつもりなのに、先生の痕跡が残っていたことが、半ば哀しく、半ばうれしかった。

それはひとに教える立場の「師匠」の醍醐味に目覚め、師から注がれ、自分の中で育った財産を、今後は日本の音楽教育の場で生かしたいと思った瞬間だった。(後略)

【引用終わり】


◆コメント:補足、解説、感想。

宮本さんは、わざわざ、演奏家人生での最大の事故を詳しく述べているが、これは、ヘタクソだったというのではなく、経験の問題である。

それにリヒャルト・シュトラウスと言えば、宮本さんが書いているように各パートが複雑に重なり合って、ややこしいのは、素人ながら分かる。

それをほとんど初見で吹かされて、何処を吹いているのか分からなくなるのを「落ちる」というけれど、

一旦落ちたのに、そのままガタガタとならず、何とか立ち直って最後まで通したのは、やはりプロだ。


◆R・シュトラウスはプロでも難儀らしい。

今、思い出したが、かつて紹介した、N響で30年、ファーストバイオリンで弾いている鶴我裕子さんが書いた、ものすごく面白い本、先日紹介した「バイオリニストは肩が凝る」の中に、やはり、リヒャルトシュトラウスでN響が止まりそうになった(演奏が止まるのは、演奏における最大の事故である)、

いや、一瞬止まった、という話が出てくる。ちょっと、御紹介する。これは、指揮者、ヴォルフガング・サヴァリッシュ氏の実力につくづく感心したと言う話。
【引用開始】

あれは、忘れもしない「マクベス」序曲だった。R・シュトラウスの作品だが、誰も知らない曲で、弾いてみたら案の定むずかしい。

いつも各声部が互い違いに絡み合っていて、スパッと切れるような目印がないので、CDを聴きながら楽譜を見ていても、どこだか分からなくなるほどだった

(引用者注:プロの音楽家は子どもの頃から読譜の練習=ソルフェージュの訓練を受けているから、大抵の曲は楽譜を見ればおおよその音は頭の中で鳴らすことができるのである。

そのプロが「CDを聴きながら楽譜を見ていてもどこだか分からなくなる」、というのは、並大抵の複雑さではないことを非常に雄弁に物語っている)。



練習が始まってからも、一度始まると、大波にのまれたようになってしまい、最後に岩に打ち上げられて目をパチクリ、という感じ。(中略)

さて、演奏会本番。曲は始まった。しかし、船(引用者注:オーケストラのこと)は座礁した。

「始めからやり直しかな?」と思う間も与えず、暗譜で振っていたサヴァリッシュは目の前のスコアをイッパツでめくり、静かな声で「E」と言ったのだ。

一秒後、音楽は再開し、無事に最後までいった。

お客さんは気づいたろうか?曲の途中で、指揮者が「いい」ということになっているんだと思ったかな。

私はもう、事故が起きたことよりも、サヴァリッシュの「頼れるボス」ぶりを見ることが出来て興奮していた。

あの一瞬に、彼のしてきた膨大な量の勉強と経験を垣間見ることが出来た。

【引用終わり】


◆宮本さんから離れるけどちょっとコメント。

これは、すごいですね。

勿論演奏上の「事故」はない方がいいのだが、プロの音楽家の実力は、事故が起きても、そこで動揺して後が滅茶苦茶になるのではなくて、何事も無かったかのように立ち直れる「復元力」にある。

素人だとすこしばかり上手い人はいるのですが、何かソロを弾いていて、一カ所ちょっとミスタッチをしただけなのに、そのままパニックに陥って自滅、という人がよくいるのです。



鶴我裕子さんはサヴァリッシュ氏が、それまでしてきた膨大な量の勉強が分かったというが、これはプロだからこそ本当に分かるのだろう。

それにしてもいきなり練習番号を思い出せるのもすごい。スコアのどのあたりか分かっているから、イッパツでめくれたのだろう。

それもすごい。しかし、「E」と言われて、瞬時に反応出来るN響もさすがだ。

一瞬にして指揮者がどこからやり直すかを察して、すぐに弾けたのだ。やっぱりすごいなあ・・・プロは。


◆宮本さんはヨーロッパの名人と並び称されるぐらいのひとなのです。

宮本さんの話に戻ります。

詳しく一人ずつ、解説しませんが、宮本さんは、西洋人のオーボエの天才たち、ローター・コッホ、ギュンター・パッシン、

宮本さんの師匠のヴィンシャーマン、ホリガー、シュレンベルガーなどと並び称されるほどの、日本が誇る名オーボエ奏者です。



「宮本文昭」で検索すれば宮本さんのサイトがすぐに見つかります。

そして、教えて欲しい人は連絡を下さい。とご丁寧にも書いている。こんな先生いないですよ。



ここからは私の想像ですが、教えることになれば自分の演奏のための練習時間を削られます。

世界最高水準のオーボエ奏者としては、自分で許せる演奏のレベルが保てない可能性が出たら、人前では吹かない、と言うことなのではないかと思います。

どんな楽器でも才能のある一流の音楽家は楽しいだろうと思うとそうではなくて、常に、前回の自分の演奏と闘わなければならない辛さ、があるそうです。

「この人なら、上手くて当然」という聴衆の期待から受けるプレッシャーは、私のような凡人には、想像できないほどのものなのでしょう・・・・。


◆お薦めCD

モーツァルトもオーボエ協奏曲を書いていますが、バロックのヴェニスの作曲家の作品が、オーボエにはとても合うとおもいます。

マルチェルロ、アルビノーニ、チマローザというような人達ですね。

バロックの名曲を集めた、ミラノの午后~宮本文昭イタリア協奏曲集を薦めます。

とにかく、ロマンティックです。


2005年05月26日(木) 飛行中の日航機の座席でボヤ騒ぎ←JALに業務停止命令を発し、隅から隅まで点検するべきだ。
2004年05月26日(水) 「アル・カーイダが夏に大規模テロ計画…AP報道」にも関わらず、日本企業は米国駐在員を引き揚げない。それに対する批判もない。
2003年05月26日(月) 「青少年のためのバッハ入門〜広くクラシックに興味を持つ聴衆も対象に」←おすすめ。

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