再生するタワゴトver.5
りばいぶ



 『華々しき一族』当パン挨拶文。

演出の戯言「心を開いて」

今回、この冬季公演の題材に、森本薫の作品を選んだ。
文学座の座付き作家として活躍、34歳で早逝したが、「女の一生」など現在にも上演され続ける名作を多く残している。「華々しき一族」(1950)ももちろんその内の一作で、文学座(ひいては杉村春子)の代表作(財産演目)とも言えよう。僕自身は三十年前に出会い、その後の芝居作りに大いに影響を受けた作品でもある。
だが、当時の最初の印象を略して、

「なんだか違和感のある言葉を話す身勝手な家族の旧い話」

であった。それが演っていくうちに、表層的な印象であったことに気が付き、いかに自分の感覚頼りがいい加減なものであったかを思いしらされた。人物配置・造形の匠みさ、設定の妙、日常と非日常、関係の奥行き、弾む会話、静寂と喧騒、心理戦、そして何より、それぞれの人物たちが己の欲求を果たすべく、選ぶ言葉たち(心とは裏腹だったりする)、つまり持っている感情とは違う、相手を動かす「嘘」が見事に飛び交う、演劇の、ドラマのバイブルのような作品である。
とはいえ、今改めて読み返しても、時代に照らしても旧態依然とした価値観、男女の役割、家族観の古めかしさは、更に30年が経ち、この多様性の文言ばかりが先行する世の中で、化石感を感じずにはいられない。今日演じる面々もきっと「旧いな」と思ったところからのスタートだったに違いない。
でも、その表層に見えているモノの奥にある、人間というもの、その人間というもののどうしようもなさ、情けなさ、愛らしさ、在り方は、実は「今を生きる」僕らと何も変わってないのだ。その「本質」を「存在」を描けるかどうかにかかっている、振りじゃない、本当の「心」を大きく開いて。
面々の多くとこの場所で、鈴江敏郎、松田正隆、ラティガン、イプセン、テネシー・ウィリアムスと古今東西の名作に挑戦してきた。今回の新たなチャレンジがいつか大きな実を結ぶことを願って―

本日は寒い中ご来場ありがとうございます。
最後までごゆっくりご覧ください。

藤井 ごう

2025年02月10日(月)
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