再生するタワゴトver.5
りばいぶ



 『島口説』沖縄タイムス劇評。

 

「島口説」斬新に表現/泉&やよい 2人1役/沖縄伝える 笑いと涙
2018年7月10日朝刊芸能22面芸能
 女性の視点を通して沖縄の苦難の歴史を描いた芝居「島口説」(脚本・謝名元慶福、演出・藤井ごう)公演が6月29日〜7月1日に浦添市の国立劇場おきなわであった。お笑いコンビ「泉&やよい」の喜舎場泉と城間やよいが民謡酒場の女主人、山城スミ子を演じ、「離島苦」「沖縄戦」「アメリカ世」などの沖縄の歴史を、戦後生まれの視点で斬新に表現した。(学芸部・天久仁)

「島口説」は1979年に故北島角子が一人芝居として初演。新たな作品は喜舎場と城間がスミ子を演じ分け、時には2人のスミ子が同時に舞台に登場した。城間が「まぎー、にーびち」と言えば、喜舎場が「大きな結婚祝い」と続けるように、しまくとぅばとその通訳をコントに仕立てた掛け合いで、冒頭から息の合ったコンビを見せる。

 物語でスミ子は17歳で結婚し、離島に嫁ぐ。優しい夫と長男に恵まれて幸せに暮らしながらも、台風の日、病気の幼児を本島の医者にみせることができずに亡くしてしまう。夫は船大工の仕事を捨て、米軍基地内で働くも、大量解雇によって職を失い、失意の中で自ら命を絶つ。

 舞台の前半では結婚や島の暮らしぶり、沖縄の人同士の交流が素朴に描かれる一方、後半は米軍による土地の強制収容や復帰闘争、コザ暴動など戦後沖縄の不条理が畳み掛けるように描写される。スミ子が振り返る沖縄戦後史は彼女の人生と同様に起伏が激しく、他者に翻弄(ほんろう)されてばかりだ。

 藤井は79年の初演時の台本を読み「今の沖縄の状況と何も変わっていない」と感じたという。新たな演出による泉&やよいのスミ子は、自分の人生と沖縄で起こった悲劇をしまくとぅばの語感のおもしろさと、絶妙な掛け合いで逆に笑い飛ばした。

 頻繁に客席に語り掛け、劇場全体で戦後史を共有することを促すスミ子は、戦争や戦後史を知らない世代だけでなく、戦争体験者がいなくなった沖縄に向けてメッセージを発しているようにも見えた。本格的な芝居は初挑戦の城間、喜舎場が新境地を開いた。新たな「スミ子」が今後どのような語り部になって、芝居の世界に浸透していくか注目される。



2018年07月11日(水)
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