短いのはお好き? 
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2002年04月16日(火) 薔薇の侵蝕


ドア・ノブに掛けた手をとめ、最後にもう一度部屋に一瞥をくれると、恵子にかけてあげたレインコートの袖が床に垂れ下がっていた。
 そこに血だまりが盛り上がるようにしてできていることを除けば、浅黄色したソファに横たわる恵子は、軽い寝息を立てて安らかに眠っているようにさえ見えた。
 エアコンを意味もなく最も低い18度に設定し、灯りをけしてドアを開け、通路に出る。
 マンションはひっそりと静まりかえっている。
 正面玄関へとおりるエレベーターは使わずに、もうひとつの出口のある階段を足早におりる。
 重い扉を開け、通りに出ても人通りはなかった。
 とっつきの角を折れ、坂道をゆっくりおりてゆく。
 空気はどんよりと重く、澱のように動かない。
 思い出したように汗が一気に噴き出し、Tシャツがべったりと背中に張り付いているにもかかわらず、それとは別の冷や汗が一条脇腹を伝いおりてゆく。
 立ち止まり、その嫌な感覚から身を剥がそうとでもするかのように、くるりと後ろを振り返る。
 いや、実際は肩をちょんと突かれたような気がして振り返ったのかもしれない。
 再び向き直ると、遠く渋谷の街の灯りが、重くたちこめた雲の底を淡く照らし出していた。


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