与太郎文庫
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2004年06月05日(土)  主客転倒 〜 もう一人の人生 〜

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20040605
 
 主客転倒 〜 もう一人の人生 〜
 
 NHKの現役アナウンサーは、全国に約600人いるという。派手な
仕事にみえるが、あんがい地味な人が多い。三十五年前の京都放送局で、
いちばんアナウンサーらしいと評されたのが中林速雄(68)氏だった。
 
 せっかくの機会だから明らかにしておくが、伝聞の主は中西PDで、
「なんか、みんなパッとしない連中だなぁ、一目でアナウンサーらしい
のは彼ひとりじゃないか」と云ったことがある。
 
 しかし、もう一人の伊達男“ミスター・乗兼”を忘れてはいけない。
 あるとき探し物をしている乗兼さんに、後輩が「どうかしました?」
と訊ねると「英語の辞書が、消えちゃったんだ」という。
 
 なにしろ乗兼さんは、VOA(アメリカ放送局)に出向勤務したほど
の英語通だったので、とっさに後輩は、こう答えたのである。
「あれっ、それは乗兼さんの頭の中に入ってるんじゃなかったっけ?」
 
 この種のやりとりは(たぶん新聞社でも同じはずだが)枚挙にあまる。
 誰かが雑誌広告の“ビスラット”という痩せぐすりの話をしていると、
乗兼さんが通りすがりに“ピンロング”もあるよ、と云ったこともある。
 
 これだけで一同プッと吹きだしたが、さらに受けたのは、カーテンの
蔭でテープ編集していたもう一人の誰かが、わざわざ顔を出して、一言
つけ加えた。以来「好きだなぁ、あいつは」と云われつづけたらしい。
 
 さて、いよいよ三十五年ぶりの再会が実現するにあたって、もっぱら
原稿を読んだり、人に質問することを常としてきたプロのアナウンサー
に、アマチュアのインタビュアーが訊ねるという趣向を思いついた。
 
 軍国少年だった中林さんは、九歳の時(小学校四年)に終戦を迎えて、
その後は一切戦争とは無縁の人生を送ってきた。二十年後、八十八歳に
達したとき、どんな大事件に遭遇するのだろうか、と考えたそうである。
 
 もしも(中林さんが)安政年間に生れていたならば、おなじ年頃には
明治維新を迎え、その後は戦争につぐ戦争の人生だったはずだ。そして
八十八歳“米寿”におよんで太平洋戦争の終結を見たのである。
 
 中林さんは、自筆の対照年表を取りだして、与太郎の意見を求めた。
「徴兵制とか、なんか大変革があるはずだよね。きみはどう思う?」
「うーん二十年後ですか。ぼくは八十五歳ですな」と、後がつづかない。
 
「ぼくは、こう見えても《ローマ帝国衰亡史》や《史記》の愛読者です
から、なんかもっともらしいことを云いたいが、すぐには思いつかない。
しかし、すくなくとも“年金”は減ってるんじゃないかな」
 
「なるほど、そりゃそうだ」と、あくまで中林さんは穏健である。
 与太郎が中林さんにインタビューするつもりが、いつのまにか与太郎
が一席ぶってしまい、中林さんが“ききて”になっている。
 
「ぼくは戦後日本史については、疑問がある。半世紀にあまる“平和”
なんて、歴史上空前絶後ですよね。その実態は、敗戦当時の占領軍が、
そのまま駐留していることに納得できない」「そうだ、そのとおりだ」
 
── 「平和──国際関係について、二つの戦争の間に介在するだまし
合いの時期を指していう」
── A・ビアス/奥田 俊介・他《悪魔の辞典 19.. 角川文庫》
── 紀田 順一郎《世界の書物 19890320 朝日文庫》P242
 
「安政六年に生れていたら、二十歳のころ、西南戦争(1877)あたりで
戦死していたかも知れないんだ」
「なるほど、田原坂の美少年だ!」
 ここで与太郎の頭の中では、別の風景が浮かびあがってきた。
 そばに三味線を抱えた女がいたら、たちまち唄うこともできるのだ。
♪「右手に血刀、左手に手綱、馬上ゆたかに美少年。シャカホイ……」
 
 中林さんの対照年表を見て、その“ミスターX”が、与太郎のデータ
ベース《生没人名録》に実在するかどうか、後日プリントアウトしまし
ょうと約束した。
 
 つぎのファイルから、中林さんより77年前に生れて、八十八歳以上
長生した“ミスターX”を探索したが、ぴったりの人物が見あたらない。
 安政六年(1859)のころは、元号表記も面倒なのだ。。


1956-1861 安政 3.-文久 1.“生年順1” P092-097
1945   昭和20     “没年順1” P122-125
1499-1998         “誕生順0331”P233-235
1936   昭和11     “生年順2” P771-783

── Files from《Who was Who 20040401 Awa Library》Let'20040628
 日本の三大革命としては、ほかに“大化改新”もあり、このほうだと
数は少ない。あと二十年もあるのだから、もういちど確かめてみよう。
 
 つづく(Day'20040608)→20040628


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