与太郎文庫
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1996年06月07日(金)  くたばれ!たかじん(2)

 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19960607
 
ざこば クルマやったのも、アンタかいな。
 阿波 よう聞いてくれた。アイツの本で我慢のならんのが、この一件
    や。立ち読みしながら、本気でどついたろか思うた。アイツは
    ボクの喫茶店で「昼間アルバイト頼まれた」と書いているが、
    断じて頼んでいない。ダレが頼むもんか、メガネにエプロンで
    ギター抱えて、押しかけてきよったんや。あるいはマスターの
    気配りで「手伝うてこい」いわれたかも知らん。マスターと俺
    は中学以来、同志社で一二をあらそう粋人や。「タスケテー」
    「カンニンな」ちゅう吉本式モッサイ友情やない。何ゾ世話に
    なっても知らん顔をする。誰かに「実はこうやったで」言われ
    てから「アイツらしいな、アハハ」でおわり(このセリフは、
    タカじんの本でも正確に伝えとる)。アルバイト代が払えんで
    「車を一台あげるよ。それで勘弁してよ」と、ボクがタカじん
    に言うた? ざこば、イヤサ師匠、代わりにキレテくれ!
ざこば ワシがキレテどないするんや。そらま、腹も立つやろ。アイツ
    も古い話やから、勘違いしよったんやで。
 阿波 「勘違いでした、スンマヘン」でシンブンキシャ勤まるか!
ざこば しゃーから、芸人なっとるがな。
 阿波 芸人なら済むんか! 親子二代で「ドーモスイマセン」か!
ざこば わかった、気持はわかる。アルバイトは頼んどらん、しゃーか
    らアルバイト代は払わんでもええのや。
 阿波 ところがドッコイ、払わんでもええアルバイト代を、キッチリ
    払うとる。
ざこば そやそや、中古車で払うたったな。
 阿波 バカモン! 誰が車で払うか。
ざこば どっちやねん? バカモンとは何事や!
 阿波 オチツケ、師匠。バカモンはタカじんのこっちゃ。車は理由も
    なしに呉れてやったんだ。これを業界用語で“酔狂”という。
ざこば わかった、アルバイト代は現金で払うた、そやな。
 阿波 現金ではない、滋賀銀行九条支店の小切手で払うた。
ざこば ほう、ワシもむかし小切手でギャラもろうたことがある。
 阿波 ギャラやない、アルバイト代でもない。業界用語で“駄賃”と
    いう。つまり半人前の使い走りをねぎらって「ゴクロハン」、
    あんまり役に立たなんだけど「早う一人前になりぃや」いうて
    励ます《一本刀土俵入り》駒形茂兵衛の第一幕、知ってるか。
ざこば 知らいでか、セリフは《月の法善寺横丁》やけど。
 阿波 万感こもっとるからな。ついでに言うが、タカじんは半人前と
    しても、一緒にきてくれたチーフは一人前や。こっちは男気で
    来てくれたにちがいない。額面はタカじんの三倍以上にした。
    参考のために補足する、例のスバル360の数倍の金額や。
ざこば ひょっとすると、相当ポンコツやな。
 阿波 これは“粋”の頂点に属する。たとえば「刑事コロンボ」では
    ヨメはんもポンコツに乗っている、ケネディ大統領の末弟も、
    さっそうとポンコツで上院議会に向う。ボクがポンコツを買い
    与えたのは、彼らに先立つこと数年。
ざこば なるほど、ちょっと落ち着いたか。タカじんも感謝せえよ。
 阿波 だいたいやな、ボクが喫茶店をはじめるにあたって、何の方針
    もなかったと思うか? 数件の老舗をたずねて、経営の秘訣を
    教わって決意したんだ。先達が口をそろえて言うに「ここだけ
    の話やけど、コーヒーが旨いかどうか客にわかるわけがない。
    不味くても、カワイコちゃんが運んでくれば、また客が来る」
    コレ一本たしかにそうや。ほなら先達の老舗に、なぜカワイコ
    ちゃんが居らんのか。老舗ももとはカワイコちゃんが居った。
    いまでも開店当時のカワイコちゃんは居る、呼んでみたろか?
    「バアサン!」「ハイ、ハイ」奥で返事がするやろ。カワイコ
    ちゃんの一人が居残って、ほかのカワイコちゃんを追い出す。
    したがって店が老舗になるころには客は来ない。コーヒーだけ
    が旨くなる。♪「店がふ〜る、お客は来ない」
ざこば ベッピンのねえちゃんが居らな客は来ん。ワシかて行かん。
 阿波 そやから、当時ベッピン集めたがな。八十件の問い合わせで、
    四十人に面接した。そして五人を選んだ。女子大生、OLから
    人妻まで、えりすぐりの美女五人やで。カンタンや、時間給を
    二割増しで広告だしたらこの結果や。
ざこば ワーッと来たか?
 阿波 ワーッと来た。カワイコちゃんがワーッと来た、客は来ない。
ざこば ナンデカ?
 阿波 さいな、そこや。ボクもつい最近までナンデカわからなんだ。
    タカじんの本を立ち読みして、突如はじめて原因がわかった!
ざこば アノ本でも参考になるか。
 阿波 店内に美女五人、バリバリのピチピチや。客は表からのぞいて
    入りとうてしゃぁない。通りすがりの若者なら、匂いだけでも
    寄ってくる。ドアの前に立つ、そこでギョッとする。メガネに
    エプロンにギター抱えた薄汚い男が、こっち向いてにらんどる
    やないか。もう一人の男は腕組みして天井にらんどる。これで
    入ってくる青年は、将来有望な大物にちがいない。若き日の、
    有望なる落語家・桂朝丸でも、スゴスゴ帰るのが当然や。
ざこば タカじん、アイツなりに張り切っとったんやで。
 阿波 夜の店ならゴマカシも利く、客も素面やないからな。こっちは
    まじめな青年ロードーシャ諸君の店や。工場づとめの昼休みに
    怪しげな二人組の用心棒のいる店で、問題おこしたらクビや。
    二十数年間、ボクはこのことに思いいたらなんだ。
ざこば アノ本では、アンタが楽器鳴らすさかい、客が来んみたいや。
 阿波 バカモン! タカじんのこっちゃ。ボクは、たしかにチェロと
    いう高級な楽器を弾くことができる。しかし自分の店で営業中
    に弾くなんぞ、あり得ない。これは“野暮”や“気障”を通り
    越した“不粋”であって、死んだほうがマシだ。たとえば先の
    ギャラ問題なら、彼を頼んだ上で払えない場合には、ボクなら
    平気で踏みたおす。それを彼はこう描写している。店の裏手に
    呼んで「悪いねえ給料払えなくて(略)勘弁してよ」などと、
    バカモン!タカじんのこっちゃ。俺は生涯を通じて、女言葉で
    しゃべった記憶もない。俺の店には、上手と下手があったが、
    裏手も裏口もない。俺の“男の美学”によれば、他人の借金を
    とがめるヤツは風上に置かない。ありもしない話をするヤツは
    黙殺する。しかしながら、タカじんのウソッパチは許せない。
    善意にもとずいた誤解、すなわちボクはタカじんが善意のもと
    にボクのことを書き記したと信じて疑わない。善意のバカモン
    ほど始末におえんのだ、まったく。ブン殴ってやりたい。
ざこば タカじんに、どうせぇいうんや。
 阿波 ヤツが真実に目覚め、涙を流しながら心の中で謝罪すべきだ。
    ボクに謝ることはない。つぎのように、ひとりで歌ってみろ。
      ♪ not in a shy-way, Oh No, Oh No not me, I did it my way.
ざこば 英語の歌やな、なんのこっちゃわからんけど。
 阿波 シナトラの絶唱《マイ・ウェイ》の一節だ。この歌もそうだ、
    人前で歌えば“不粋”きわまりない名曲なのだ。シナトラ以外
    の男が、これを人前で歌うことは法律で禁じるべきだ。
ざこば タカじんも歌うとったような気がするで。
 阿波 バカモン! タカじんのこっちゃ。ボクは、たしかにチェロで
    《イェスタディ》も弾いたことがある。それはタカじんの店で
    タカじんを引き立てるため、彼のために伴奏したことがある。
    客の居らん自分の喫茶店で、毎日午後三時にあらわれて弾く?
    そんなカッコ悪いことするか(昨日の売り上げを忘れるために
    夜中ひとりで弾いたかもしれんケド)誰にも聴かせなんだゾ。
    タカじんの店で独奏したのは、バッハの《無伴奏チェロ組曲》
    の断片だ。あの店は、わけあって客筋がよすぎる。タカじんの
    下手な歌とギターだけでは悪酔いして、マスターの品位にも傷
    がつくのではないか。そこで楽器を預けておいた。ここいう時
    さりげなくチェロをとりよせ、悠然と弾きはじめる。どや格調
    たかいやろ。
ざこば それて、クラシックかいな。
 阿波 さようでござる。一度は歌ったこともある。桂ざこばでも知っ
    ている《瀬戸の花嫁》でござる。これなど、タカじんの結婚後
    まもなく「店内のど自慢大会」開催にあたって、審査委員長と
    して手本を示しながら、またタカじんの花嫁への応援歌として
    聴かせたものだ。もうひとりの花嫁はマスターの妻・良子ママ
    だった。当時マイクを恐れていた客たちは、はじめて棒を手に
    した猿のように、たがいに奪い合うようになった。その数年後
    カラオケ・ブームに火を点けたのは、ボクの責任でもある。
ざこば アンタは、懐かしい話して気分ええやろけど、ワシャ帰るで。
 阿波 もうひとつだけ、言い残したことがある。ざこば師匠に、ぜひ
    キレテもらいたいのだ。かならずや師匠もキレル!
ざこば ほなら、これ最後やで。言うてみ。
 阿波 ようしらんが「やしきたかじんファンクラブ」があるとせい、
    一人前の紳士としてのファン・ゼロ号がボクとすれば、佐々木
    オーナーはファン第一号ちゃうか。はじめて「ジンちゃん」と
    呼んでくれた良子ママこそはゴッド・マザー、のちの中年女性
    ファン代表、イヤ待て象徴か“名誉総裁”やないか。赤十字の
    名誉総裁、知っとるか? 畏れおおくも美智子皇后であらせら
    れるぞ、タカじん聞いとるか、控えろ頭が高い。その名誉総裁
    夫妻に対して、なんと最初のコンサート以来十数年もの間に、
    いっぺんもキップを届けとらんそうやないか。しかもマスター
    に再会した時、なんとかならんか言われて、しぶしぶ手配した
    ちゅうやないか。コラ、聞いとるか!
ざこば テレビやないんやから、聞いとるかいな。
 阿波 ウルサイ、俺はもうキレそうになっとるぞ、なぁザコバ。
ざこば そらまあ、むかし世話になった人は、大事にせないかん。
 阿波 おまけに夫妻が花束もって楽屋にあらわれたちゅうやないか。
    ええかげんにせえよ、アベコベやないか。お前が花束もって、
    ステージ降りてあいさつせいで何しとるねん。なにがチケット
    じゃ、ケチケチしやがって。ケチットちゃうぞ。名誉総裁夫妻
    がチケットなかったら入れんのか、皇后陛下キップ買うんか。
    お前のコンサートにロイヤル・ボックス無いやろ、ロイヤル・
    シートも無いんか? ほんなら毎回チケット送らんかい、なめ
    たらあかんぞ! さぁザコバ。言うたれ、キレたれ。
ざこば よっしゃ「チケット出さんかい」
 阿波 そや、もっと言うたれ。しぶしぶ出すな、それいけ。
ざこば 「あとから出して、どないすんねん」
              〜(収録年月日不詳・放映年月日未定)
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〜 底本=やしきたかじん《たかじん胸いっぱい 19930620 KK ベストセラーズ》
 
 良子ママの回想「最後に片方のドアが無くなっても、そのまま走って
たのよ。よっぽど気に入ってたのね」(Tel'19990908)


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