与太郎文庫
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1979年07月20日(金)  偏差値 〜 中学生の日々 〜

 
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 あたらしいアイデア
 
── 中学校で業者テストを採用していたのは、もうずいぶん以前から
のことで、私がまだ経験の浅い教員のころだった。二十年以上もむかし
になる。黒ぬりのぴかぴかのオートバイを走らせてくるアルバイトの大
学生がいて、オートバイの荷台に答案の東をしばりつけていずこへとも
なく走り去り、やがて厳密に採点してまたもってきてくれた。生徒たち
は放課後の校庭に大学生のオートバイを見つけると、めずらしそうに群
がってきて「テスト屋さん」と呼んで親しんでいた。そして私に「はや
く答案を返してくれないか」と、せがんだものだった。
 そのころの業者テストの答案には偏差値は記録されていなかった。五
十音順に返すから、採点も他人にわからなかった。私もそれをエンマ帳
(教務手帳)には記録をしないし、評価にはかかわりがないことを生徒
たちも知っていた。目的が外部のテストにぶつかってどれだけできるか
をためしてみるにすぎないので、点が悪いからといって、それをすぐそ
の場でやぶいて捨ててしまうものはいても、それをとくに気にするもの
はいなかった。そんな状態がずいぶん長いことつづいていた。
 ちょうど私が杉並区の中学校で三年生の学年主任になった牢であった。
全国各地で勤務評定反対の激しい闘争がおこなわれていたから、たしか
昭和三十二年か、三十三年の冬であったと思う。ある日、見知らぬ四十
年配の業者がひょっこりたずねてきて「新学期からぜひ当社のテストを
採用してくれないか」と、しつっこく懇願した。その売りこみ文句によ
ると、「当社は他社のテストのようにただ採点をして返すだけでなく、
それぞれの高校の合格基準点をもとにしてランクに分け、高校入試の参
考資料として提供したい」ということであった。
 それは、いかにもあたらしいアイデアで、進学の指導には合理的で大
変に役に立つかもしれないと私は思った。むしろ、あらかじめそれによ
って適当な高校へふり分けて受験させることができるとすれば、非常に
便利だとさえ思ったのだ。そんなふうに当時は単純に考えたもので、先
生たちに話しても、みんな私とおなじ意見だった。なかには「業者テス
トのしめしてきたランクによって事前にふり分けるのがいちばんいいか
ら、そうすべきだ」などと得意顔で主張する先生もいた。
 そのあたらしいアイデアがつまり偏差値の前身なのである。
(P156-157)
 
 社食問題化した理由
 
── ところが、人口の急増と進学率の上昇にともなって、公立高校か
ら有名私立高校へと期待がよせられ、さらに有名私立高校から大学をめ
ざすという風潮が、数年前ごろから急速にひろがってきた。
 絶対数の不足から私立高校はどこでも希望者が殺到し、二次募集など
では二十倍から三十倍という兢争率になるなど、未曾有の事態を迎えて
いる。じっくりと人間を見つめているゆとりがない。手っとりばやく、
数値によっていいとか悪いとか定めるという物理的な方法に変わってき
たのである。
 業者テストの統計を見ると、じつに綿密にできていて、各高校ごとの
合格基準の偏差値がしめされており、中学校側では、それをまったく無
視して受験者をさしむけることは実際においてこれまではできなかった。
私の学校でも三年生担当の先生たちは、業者テストによる偏差値もあく
まで重要な参考資料にして、それぞれ受験させる高校をきめる個人面談
をおこなってきたのである。
 では、この業者テストが、昨年ごろから社会問題化し、偏差値は困る、
迷惑だ、と騒がれるにいたったゆえんは何か──それは、偏差値が特定
の教科によってはじきだされた数値であり、ただ受験のふり分けに使わ
れるだけのもので、それをもって生徒の優劣をきめがちになると、知識
優先の考えを生み、受験に関係のない教科は勉強しなくてもいいという
風潮を呼ぶにいたり、あきらかに、知育、徳育、体育のバランスがくず
され、義務教育本来の姿が阻害されるからにはかならない。
 全日本中学校長会の調査によると、三十五県の公立高校の入試が、国
語、社会、数学、理科、英語にかぎられている。この五教科でおこなわ
れている以外の県では、国語、数学、英語の三教科でおこなわれている。
 一昨年(昭和五十年)の暮れ、東京都内の私立高校の一部で、受験者
をあらかじめ、テスト業者の作成した氏名と出身中学校と偏差値一覧表
からチェックし、入試の事前においてふり分けに使用したことが表面化
してから、社会問題になった。文部大臣が、国会での質問に答えて、業
者テストによる進路指導の弊書をみとめ、実態調査をして善処すること
を約したのだった。
 そもそも偏差値は標準(平均)値を五十として、上下にどれだけずれ
ているかせしめすもので、最高値が七十五、最低値が二十五である。5、
4、3、2、1の五段階評価があまりにも一般化されてしまったのにひ
きかえ、偏差値はちょっとわかりにくい点もあって、その出し方や意味
についてくわしく知っている人は意外に少ない。(P160-162)
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── 望月一宏《中学生 その日々 19770720-19790720 19860501 岩波新書》
http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4004200172
 
http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/day?id=87518&pg=19790720
 偏差値 〜 中学生の日々 〜
http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/search?idst=87518&key=%CA%D0%BA%B9%C3%CD
 
https://q.hatena.ne.jp/1636465797(20211111 14:56:21)
 
(20090527)(20211111)
 


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